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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.3《THE BLACK KNIGHT》
29/40

8.機構少女と専属整備士


 銃弾は一発限り。

 一発を撃てば確実に壊れる粗製の銃で、歩は狙いをつけて引き金を引く。


「……っし!」

『……狂したか、少年ッ』


 撃った先は――遥か斜め上。

 工場から空へと続く、天窓であった。

 銃弾はガラス窓を突き破り、天上へと飛んでいく。

 降り注ぐガラス片をなんとか避けた歩は、にひゃりと笑う。


『その程度で、私を壊せるとでも――』

「思ってない。思ってないけど」


 歩は天上を見やる。

 それは諦めの証左――ではない。

 確信を持って、待っているのだ。


「怒られるのは、間違いねーわ」

『――銃刀法違反、及び3Dプリンターの違法使用を確認』


 朗々とした声が、RADIUSの声が響く。

 それは動きを封じられたドローンではなく――天上、上東京から降り注いでいた。


『銃弾の“出現”を確認。座標特定――直ちに手を打ちます』

「四十秒で頼むぜ、RADIUSッ!!」


 歩の用いた手は、秘策とも言い難い稚拙な手である。

 それはただ「妨害電波網を銃弾が抜けて、それをRADIUS本体が感知することを祈る」だけなのだから。

 しかしそんな単純な手だからこそ、小細工なしの純粋な物理現象だからこそ。


『甘いですね、プリムス』

『RADIUS、貴様――』

『私は無数に偏在する。貴方の拠点、貴方の動きが隠れようとも、私は“存在するもの”は小石一つさえ見逃さない』


 プリムスは、黒の連隊(ブラック・レジデンス)上東京(RADIUS)の性能を甘く見ていた。

 彼女は歩達が降りた瞬間から、下東京全体を隈なく“監視”していたのだ。

 所詮はこそ泥のやること、と言わんばかりの宣告に、プリムスは歯噛みする。


『――大人しく投降しろォッ!!』


 そして、工場へRADIUSの一手が“急降”する。

 天井を打ち破り、幾つもの輸送コンテナが降り注いだ。

 白と黒に彩られたそのコンテナは――都市警察のカラーリングだ。


「都市テロリスト集団、黒騎士ッ!! 貴様らは既に包囲されているッ!!

 ――今迄の落とし前、たっぷり支払って貰うぞォッ!!」


 コンテナから飛び出すのは、張井警部とその虎の子、都市警察機動隊だ。

 彼らは速攻でスタンガンによる制圧を仕掛け、防がれると見るやシールドで陣地を敷く。

 あっという間に歩を囲んだ陣が敷かれ、黒の連隊もそれぞれが遮蔽を取るために散らばった。

 緊張が場を覆う中、張井が歩の頭をがしがしと撫で回した。


「おう、無事か坊主」

「すっげぇ痛い」

「腕が折れてないならマシじゃねェか。後で反省文書けよ」

「ちぇっ……」


 にやりと笑ってみせる張井は、中々に機嫌が良さそうである。

 大捕り物が続く中、その多くに都市警察が絡んでいることが面白いのだろう。


「他のマキナドールも、このくらいの有能さで良かったンだがな。生き餌には丁度いい」

「お、横暴だぁ……」


 その言葉に、ふらふらとヘレナが立ち上がる。

 咄嗟に歩がヘレナの隣へ駆け寄れば――場の中心に立つのは、歩とヘレナ、そしてプリムスだけとなった。


「お待たせ、歩くん」

「……おう。待たせたな、ヘレナ」

「あれー、ねーちゃんって呼んでくれないのー?」

「言わねーしっ」


 ふざけ合って見ても、特にお互いが、決定的に変わった訳ではない。

 ただ、“繋がった”だけなのだ。

 過去が、関係性が……そして、想いが。

 今までが、これからと繋がっただけ。


「行こう、ヘレナ。俺、あいつとバディなんて組みたくないからな」

「……うんっ! 私がいっちばん、あっくんのバディにピッタリなんだから!」


 その繋がりが、二人には何よりも嬉しかった。

 それぞれが構えを取る。

 対して、プリムスは諦めた様な、薄い笑顔で――自壊した。


「な……ッ!?」

『フラレてしまったか……残念だよ』


 プリムスの身体が白熱し、溶け落ちていく。

 その目は昏い愉悦と、哀しみを湛えていた。


『後悔するぞ、伊須都 歩』


 ばらばらと、その顔が、身体が崩れ去る。

 それと同時に、他の連隊達の身体もまた、爆散した。

 それはプリムスの、黒の連隊の、敗北宣言であった。


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