8.機構少女と専属整備士
銃弾は一発限り。
一発を撃てば確実に壊れる粗製の銃で、歩は狙いをつけて引き金を引く。
「……っし!」
『……狂したか、少年ッ』
撃った先は――遥か斜め上。
工場から空へと続く、天窓であった。
銃弾はガラス窓を突き破り、天上へと飛んでいく。
降り注ぐガラス片をなんとか避けた歩は、にひゃりと笑う。
『その程度で、私を壊せるとでも――』
「思ってない。思ってないけど」
歩は天上を見やる。
それは諦めの証左――ではない。
確信を持って、待っているのだ。
「怒られるのは、間違いねーわ」
『――銃刀法違反、及び3Dプリンターの違法使用を確認』
朗々とした声が、RADIUSの声が響く。
それは動きを封じられたドローンではなく――天上、上東京から降り注いでいた。
『銃弾の“出現”を確認。座標特定――直ちに手を打ちます』
「四十秒で頼むぜ、RADIUSッ!!」
歩の用いた手は、秘策とも言い難い稚拙な手である。
それはただ「妨害電波網を銃弾が抜けて、それをRADIUS本体が感知することを祈る」だけなのだから。
しかしそんな単純な手だからこそ、小細工なしの純粋な物理現象だからこそ。
『甘いですね、プリムス』
『RADIUS、貴様――』
『私は無数に偏在する。貴方の拠点、貴方の動きが隠れようとも、私は“存在するもの”は小石一つさえ見逃さない』
プリムスは、黒の連隊は上東京の性能を甘く見ていた。
彼女は歩達が降りた瞬間から、下東京全体を隈なく“監視”していたのだ。
所詮はこそ泥のやること、と言わんばかりの宣告に、プリムスは歯噛みする。
『――大人しく投降しろォッ!!』
そして、工場へRADIUSの一手が“急降”する。
天井を打ち破り、幾つもの輸送コンテナが降り注いだ。
白と黒に彩られたそのコンテナは――都市警察のカラーリングだ。
「都市テロリスト集団、黒騎士ッ!! 貴様らは既に包囲されているッ!!
――今迄の落とし前、たっぷり支払って貰うぞォッ!!」
コンテナから飛び出すのは、張井警部とその虎の子、都市警察機動隊だ。
彼らは速攻でスタンガンによる制圧を仕掛け、防がれると見るやシールドで陣地を敷く。
あっという間に歩を囲んだ陣が敷かれ、黒の連隊もそれぞれが遮蔽を取るために散らばった。
緊張が場を覆う中、張井が歩の頭をがしがしと撫で回した。
「おう、無事か坊主」
「すっげぇ痛い」
「腕が折れてないならマシじゃねェか。後で反省文書けよ」
「ちぇっ……」
にやりと笑ってみせる張井は、中々に機嫌が良さそうである。
大捕り物が続く中、その多くに都市警察が絡んでいることが面白いのだろう。
「他のマキナドールも、このくらいの有能さで良かったンだがな。生き餌には丁度いい」
「お、横暴だぁ……」
その言葉に、ふらふらとヘレナが立ち上がる。
咄嗟に歩がヘレナの隣へ駆け寄れば――場の中心に立つのは、歩とヘレナ、そしてプリムスだけとなった。
「お待たせ、歩くん」
「……おう。待たせたな、ヘレナ」
「あれー、ねーちゃんって呼んでくれないのー?」
「言わねーしっ」
ふざけ合って見ても、特にお互いが、決定的に変わった訳ではない。
ただ、“繋がった”だけなのだ。
過去が、関係性が……そして、想いが。
今までが、これからと繋がっただけ。
「行こう、ヘレナ。俺、あいつとバディなんて組みたくないからな」
「……うんっ! 私がいっちばん、あっくんのバディにピッタリなんだから!」
その繋がりが、二人には何よりも嬉しかった。
それぞれが構えを取る。
対して、プリムスは諦めた様な、薄い笑顔で――自壊した。
「な……ッ!?」
『フラレてしまったか……残念だよ』
プリムスの身体が白熱し、溶け落ちていく。
その目は昏い愉悦と、哀しみを湛えていた。
『後悔するぞ、伊須都 歩』
ばらばらと、その顔が、身体が崩れ去る。
それと同時に、他の連隊達の身体もまた、爆散した。
それはプリムスの、黒の連隊の、敗北宣言であった。




