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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.EX《Massively Multiplayer Online》
21/40

5.ゲームクリア!


 数分後。

 歩達の目の前には、鎧姿の少女が涙ぐみながら土下座するという、ある種背徳的な光景があった。


「……ご、ごめんなさいでしたぁーっ!」

「絶許」

「うわぁぁ、ごめんなさいぃーっ!?」


 錫杖でぺしん、ぺしんと叩かれる度に、鎧の少女の桃尻が跳ねる。

 その光景を酷く残念そうに眺めながら、歩はヘレナを宥めにかかる。


「まぁ、ヘレナ。スラさんもちゃんと謝ってる訳だし……」

「幾ら他のエネミーに邪魔されないからって、高レベルレイドボスを初心者向けエリアに連れて来るのは論外だよ」

「うぅー、夜考えた時は絶好の策だって思ったんですよぅ……」

「深夜テンションの産物を実践に活かすなー!」

「ひぇぇ、ごめんなさぁーいっ!?」


 ヘレナのカミナリと共に、桃尻からぺしーんと良い音が鳴る。

 スラの嬌声とも悲鳴ともつかない声が、虚しく空に響き渡った。


 高レベル向けレイドボス“黒騎士”。

 “超幸福RPG(仮)”が開始してから未だ嘗て、誰も勝利したことがないNPCを倒す為、九代目マキナドールにしてトッププレイヤーであるスラが考えた作戦は、悪意を煮詰めた様に劣悪なフィールドから黒騎士を引きずり出し、楽な初心者向けエリアで倒すというものであった。

 作戦は困難を極め、多数の犠牲と消耗を強いたが、なんとか目的通り黒騎士を追い詰めることに成功。

 ……したは良いものの、一瞬の判断ミスで黒衣の騎士のターゲットが切り替わり、フィールド上で一番レベルの低い歩に襲いかかって来た、というのが事の真相であった。


 後輩の浅慮に呆れながらも、きちんと説教するヘレナと、それを涙ぐみながら受け続けるスラに、他のプレイヤー達も生暖かく見つめている。


「成程、つまりアホなのか」

『まぁ、歴代の中では特に』

「ふぐぅ……RADIUSまでひどいよぉ……」

『その弁解の資格は、三教科の赤点を回避出来ない者に与えられるべきではありません』


 マキナドール・スラ。彼女は何処までもまっすぐな少女であったが、時たまとんでもない天然ボケをやらかす機構少女であった。

 土下座の姿勢のまま、スラは仁王立ちするヘレナを見上げる。


「……それにしても、初代センパイ」

「んー?」

「初代センパイって、彼氏いたんですね」

「ちぇいやー!」

「ひぎゃー!?」


 今までで一番良い尻の音が、高らかに響いた。

 流石に痛かったのか悶絶するスラに対し、ヘレナは顔を真っ赤にして怒鳴る。


「な、なななな何を言ってるのかなぁスラちゃんは!?」

「だ、だって、いつもソロの初代センパイが、男の子と一緒にいるなんて! おかしいじゃないですかぁー!」

「孤高と言いなよ孤高って! それだとぼっちみたいじゃない!?」

「違うんですか?」

「違うのか?」

『ノーコメント』

「違うわーっ!!」


 ぷんすこ、と聞こえそうな程に顔を真っ赤にして、ヘレナは地団駄を踏む。

 あはは、と笑いながらスラは立ち上がり、歩へと向き直った。


「分かってますよぅ。歩さん、ですよねっ?」

「え、あ、うん」

「ボクはスラ。九代目マキナドールです! 歩さん、歩さん!」

「な、何だっ?」


 スラに詰め寄られ、歩は気恥ずかしげに目をそらす。

 そんな彼の耳元で、こそりとスラは一言。


「……センパイを、よろしくお願いしますねっ?」

「え?」

「センパイ、結構寂しがり屋さんですから。ソロですし」


 くす、と笑いながら、スラはウィンクしてみせる。

 その後ろで。


「……で、お説教はまだ終わってないんだけど?」

「ひぃっ!?」


 ヘレナが怪しげな笑みを浮かべている事に、気づかないまま。

 ぎりぎりと音を立てながら振り返れば、ヘレナは右親指を下に突き出し、首を横に掻いた。

 所謂、死刑宣告である。


「今日という今日は、みっちり躾けてあげるっ!」

「ひゃぁー! ごめんなさいぃーっ!?」


 逃げるスラに、追うヘレナ。

 そんな光景を見ながら、歩はふと。


「……そういえば、最初になんか、黒騎士が言ってた様な……?」


 と、首を傾げたが。

 そんな些細な事は、目の前の喧騒をどう収めるかという問題に、瞬く間に追いやられてしまった。


***


 電脳空間から帰還すると、既に日が暮れていた。


「……ん。ふわ、ぁ」

「おはよ、歩くんっ」

「ん、おはよ……」


 電脳空間での活動は、脳を多く使う傾向がある。

 その為、久し振りの全没入(フルダイブ)は、歩の頭をどこかぼんやりとさせていた。

 ヘレナから飛び起きる気力もなく、歩は寝返りを打ち、ヘレナの慎ましい(ポリウレタン)に顔を埋めた。


「……かたい」

「そりゃ、現実だしね。……どうだった? 楽しかった?」

「……そーだなぁ」


 頭を撫でられながら、歩は呟く。

 生産スキルはそれ程でもなかった。戦闘はそれ程好きでもない。割と酷い目にも遭った、が。


「……ま、ヘレナと一緒なら、悪くないかなぁ」

「……そっか。そうだね」


 にひ、と笑えば、手探りに顔を撫で、その表情を真似してくれる、目の前の少女がいるならば。

 そう悪いものでもないだろう、歩はそう思えた。


「また、行こうね」

「ん」


 暫くお互いを撫でながら、歩達はゆっくりと()()()を始める。

 そんな二人、特に歩が風邪をひかない様に、RADIUSはこっそりと、空調の温度を上げるのだった。


【Stage.EX Clear】

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