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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.2《DEUS EX MACHINA》
16/40

7.マキナドールと都市警察


「……まぁ、御苦労だった」


 夜の帳も落ち切った会館の外で。

 機動隊は歯車の会の狂信者……幕引に着き従っていた一部の信徒達と、躯体機能を停止させられた幕引を逮捕し、移送しようとしていた。

 それが一段落したのを見届けて、張井は些かぶっきらぼうに、歩とヘレナへ礼を言った。


「は、はい。ありがとうございますっ!」

「……おう」


 そんな張井に、ヘレナは恐縮しながら敬礼を返す。

 歩は二人を見比べながら、怪訝な顔で口を開いた。


「なぁ、ヘレナ。何でそんなオドオドしてんだ?」

「えっ? い、いや……」

「所属が違っても、マキナドールだって警察だって、皆の為にあるんだろ? なら、もっと堂々としてていいんじゃないか?」

「でも……」


 まごつくヘレナの顔を、歩は覗きこむ。

 いつもと違う、自信のない表情。それをバイザーによって見せられて、ヘレナは益々顔を俯かせてしまった。

 首を傾げる歩に、張井は溜息と共に答えを出した。


「気不味いンだろ。自分が入れなかった組織との仕事は」

「ん、どういうことだ?」

「いやっ、あの、そういう訳じゃ……!」

『ヘレナは十年前の引退時、都市警察官を志望していました。しかし、都市警察上層部より直々に、その進路を断られています』

「ちょっ、ちょっと、RADIUS……っ!」

『事実です』


 RADIUSによって淡々と暴かれ、ヘレナは慌てふためく。

 しかし、特に否定もしない辺り、それが事実なのだろう。

 張井もまた、深く溜息をついて、それを認めた。


「あの頃は獲物を取られっぱなしだったからな。上の決定は大人げなかったが、それでもガキに務まる仕事じゃねェ、ってのは確かだ」

「あぅ……」


 縮こまるヘレナに、彼はしっかりとした語調で話す。

 その様はまるで、父親が、娘を叱りつける様な話し方にも思えた。


「警察ってのは法律を守れない奴には厳しく接するし、市民に恨まれようがやらにゃならン事もある」

「はい……」

「警察は公僕であって、ヒーローじゃない。お前には務まらン仕事だ」

「……はい」

「分かったら、警察になるのは諦めろ」

「…………はい」


 涙が流れていたら、とうに顔を濡らしていただろう。

 そんな悲しさと悔しさ、そして卑屈さを抱えて俯くヘレナの頭に、ぽん、と小さな手が置かれ、優しい声が投げかけられた。


「でも、ヘレナはヒーローだ」

「…………え?」

「警察官が務まんなくたって、マキナドールとしては、立派にやってる。……前に、やりがいのある仕事だって、言ってたじゃないか」


 バイザーの視覚から、ヘレナは手の持ち主を探る。

 包帯まみれの手は、間違いなく歩のものであった。

 ヘレナから彼の表情は伺えないが、その声は慰める様な、支える様な、温かいものであった。


「だから、ハリーのオッサンにだって胸張って良いんだ。な?」

「……いいの、かな?」

『はい』


 ヘレナの誰に向けたかも分からない言葉に、RADIUSが答える。

 彼女は落ち着いた声で、ヘレナに囁いた。


『胸を張ってください。貴方はそう出来るだけの事を、成し遂げて来たのですから』

「……うん。ありがとう、二人共」


 ヘレナは頷いて、ゆっくりと息を吸う。

 大きく吸っても、胸が膨らむことはないが……胸を張って、前を見ることは出来た。


「……マキナドール・ヘレナ! 無事、“ヒーローとして”事件を解決しましたっ! 警察の皆さん、ご協力ありがとうございましたぁーっ!」

「ありがとう、ございました!」

『本日は誠に、ありがとうございました』


 ヘレナが綺麗に敬礼するのを見て、歩もそれに倣う。更にそこに、RADIUSも声を重ねた。

 そんな三人を見て、張井や機動隊の面々は顔を見合わせると、やがて誰ともなく、心底可笑しそうに笑い始めた。


「……わ、笑うことはないだろっ」

「そーだそーだーっ! こっちはヒーローさん達なんだぞーっ!」

『笑気ガスは漂っていませんよ。それとも何か、私達が可笑しなことをしましたか?』


 それにムッとして、歩とヘレナが揃って頬を膨らませる。

 RADIUSの語調も何処か拗ねた様な物だったが、張井は彼らを鼻で笑い、一蹴した。


「ハッ。ガキが一人前みてェに振るまいやがって。……忘れたか?」


 そう言うなり、張井は悠然と姿勢を正した。

 彼が一度「注目!」と叫べば、機動隊の面々もまた、一糸乱れぬ動きで気をつけの体勢を取る。


「今回依頼したのは俺達だ。手柄を横取りするンじゃねェ。……この度は事件解決の為奮闘した事、誠に感謝申し上げる! マキナドールとその整備士、そして管理A.Iに敬礼!」

「「「ありがとうございましたッ!」」」


 びりびりと、何十人もの声が空に響く。

 その迫力と、心地良さに負けぬ様に、歩とヘレナは、にっこりと笑って、敬礼を返した。

 

【Stage.2 END】

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