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類は友を呼ぶ? ~俺、七本の剣で戦います~  作者: 夜神
第1章 ~類は友を呼び、真友への礎となる~
16/38

16 「世間は思いのほか狭い」

「ねぇ零くん」

「……何でしょう?」

「もう少しお姉さんとお話ししよ?」

「嫌です」


 さっきまでずっと喋ってたじゃん。来店してから1時間くらい付き合ったじゃん。ようやく目的のラノベと漫画を買えたんだよ。もう帰らせてお願いだから!


「何で嫌なのかな?」

「家に帰りたいからですが?」

「私と話したくないの?」

「もう話すことはないでしょう?」


 近況報告もしたし聞いたし、そっちのおふざけにも一通り付き合った。これ以上何を話すというのか、いや話すものなどない。


「あるよ」

「……ない……もうないよ」

「ううん、ある。いっぱいある」


 あるわけない!

 もうあなたとは語りつくしたよ。一方的に玩具にされただけな気もするけど、散々色んな話を聞いたし何度も解放してってお願いした。もうこれ以上、俺から晴乃さんに言うことは何もないから!

 もう本当……マジで帰して。当分ここには顔を出さないようにするから。


「定期的に顔を出してくれないとお姉さん寂しいな」

「だからさ……何でそんなに的確に人の心を読んでくるの? エスパーなの?」

「そんなわけないじゃない。零くんならこう考えてそうだなって予想してるだけ」


 ほぼ100%的中する予想はエスパーに等しいと思うんですが。その能力はもっと別のことに使った方が良いんじゃないかな。晴乃さんのためにしても、世の中のためにしても。


「とりあえず……俺以外のこと考えてもらっていいですか」

「え~」

「子供みたいに駄々こねないで。あなたここの店員でしょ? ひとりの客よりもお店のこと考えるべきだよね?」

「ううん」


 何でここですぐさま否定が来るんだろう。しかもとびっきりの笑顔で。この人おかしくない?


「だって私……君の隣に永久就職だから」


 やっぱこの人おかしい!?

 どうしてここでこのタイミングで逆プロポーズみたいなセリフが出てくるの。俺達の間に男女としての思い出なんか皆無だよね。デートのひとつもしたことがないんだけど。

 大体何で間を置いてから良い声で言ったの?

 それは素なの? それとも何かしら見て真似たの?

 いや……どっちにしろ分からない。俺はこの人のことが分からないよ……。


「ごめんなさい、俺そういう相手は見た目よりも中身で決めるんで」

「その言い方だと私の中身がダメみたいに聞こえるんだけど?」


 うおぅ……凄まじいほどに冷たいオーラが漂う作り笑顔だ。まるで笑ってる鉄仮面だよ。どす黒い何かが出ている気さえする。

 だがしかし、ここで負けてはならない。怖いけどすごく怖いけど引いてはならない時が男にはある。俺は何としても家に帰ってみせる。たとえ精神をすり減らしきったとしても!


「ダメじゃないですよ。俺とは合わないってだけで」

「合わなくはないんじゃないかな。私は君のことを誰よりも理解している自信があるし」


 そのへんが合ってないんですよね~。

 考え方とか好みを理解してもらってるのは高評価なんですが、あなたはそれを悪い方向にしか使わないじゃないですか。

 僕は平凡で平和な時間が過ごしたいわけですよ。濃いメンツは身近に多いんでね。まあ晴乃さんもそのひとりだけど。


「晴乃さん……本当もう帰してくれません? このままじゃ帰る体力すらなくなるんですけど」

「なくなったらうちに泊まって行けばいいよ。私の部屋で一緒に寝ればいいし」

「そういうのはもういいから。そんなことしたら小父さんに殺されるから」

「大丈夫大丈夫、私がそんなことさせないし。……まあどうしても帰りたいっていうなら帰してあげてもいいよ」

「マジで?」

「うん、マジで。お別れのキスをしてくれたら帰っていいよ」


 …………。

 ………………。

 ……………………俺、疲れてるのかな。帰る条件がキスしろだとか聞こえたんだけど。

 うん、分かってる。これが現実だってのは本当は分かってる。でも一度逃避したくなる気持ちも分かって。

 俺は女なら誰にでもキスとか出来る奴じゃないの。ヘタレって言われても今回の場合なら喜んで受け入れる。それくらい困ってるの。

 そんなを神様は見捨てなかったのか、客の来店を知らせるベルが店内に鳴り響く。晴乃さんが露骨に嫌な顔して舌打ちしたように思えたけど、それは多分気のせい。疲労のせいで見えた幻覚に違いない。


「失礼する。……おや? 貴殿……君は」


 店内はそれほど広くないし、客に至っては俺ひとり。俺の居たカウンターの位置が入り口から真っ直ぐ進んだ位置にあるだけに、来客があれば視線が重なるのもおかしくない。

 しかし……しかしですよ。これだけは言わせてもらいたい。世間ってさ、たまにちょっと狭くないですか?

 だって俺、今目が合ってる人物知ってるもん。こっちの名前は知らないけど、あっちの名前は知ってるんだもの。


「いやはや……世間とは意外に狭いものなのだな」


 竹刀でも入っていそうな袋を持った女子高生は、綺麗な黒髪を靡かせながらこちらに歩いてくる。

 何で女子高生って分かるかって? そんなの制服を着ているからに決まってるじゃないですか。しかも見た感じ京華が通いたいって言ってる高校の制服ですよ。確か名前は桜花学園。

 ちなみにその高校は少し前まで女子高だったの。今は共学化されてるみたいだけど、まだまだ男女比は女性側に偏ってるらしい。女子がいっぱいいれば俺にも春が! なんて考えで受験する奴って本当にいるのかね?

 さらに余談だけど、俺や明日葉達が通っているのは桔梗ヶ丘高校。俺の住んでる街は植物や花の名前が付いた学校が多いのです。だから何だって話だけどね。俺もほとんど興味ないし。

 話を戻そう。

 こちらに歩いてくる女子高生は凛とした佇まいではあるが、醸し出す雰囲気はそよ風のように優しい。

 彼女の顔立ちを見る限りどうやらゲーム内のアバターは現実の自分をベースにしているらしく、変わっているのは髪色くらいだろう。


「久しぶり……というほど出会ってから時間は経っていないか。まさかこのような場所で貴……君と再会することになろうとは」

「それに関しては同感だ……というか高校生だったのか」

「それはあたしが高校生には見えないという意味か? 確かに大人っぽいだとか言われることは多いが、そういう意味なら普通に傷つくぞ」


 そう言われましてもあなたと俺の関係なんて鍛冶屋の前で一度顔を合わせただけじゃないですか。

 それに……最近の日本は平均身長も伸びているし、見た目で年齢を推測するのは難しい世の中になってまっせ。20代で30代に見える老け顔の人も居れば、逆に10代に見える合法ロリみたいな人も居るわけで。


「いらっしゃいシズクちゃん。今日は部活帰り?」

「こんにちは、晴乃殿。ええ、そうです」

「そっか。ところで……何やら零くんと知り合いみたいだけど」

「知り合いと言えばそうなりますかね。この前少し顔を合わせた程度ですが」


 シズクさんとやら……そのタイミングで確認を取るように視線を送らないでもらえますかね。地味に晴乃さんの視線に冷たいものが混じったように見えるから。

 お互いのためにも親しい感じは出さないでおこう。実際にそんなに親しいわけでもないんだし。


「ふーん……なるほどね。シズクちゃんみたいな綺麗な子と知り合ってるから零くんは私になびいてくれないんだ。シズクちゃんみたいな子が零くんはタイプなんだ」

「そうなのか?」


 あぁもう、何で君はそう見た目の割に気さくなのかな!

 ナチュラルに聞き過ぎじゃない。初対面ではないけど、知り合って間もないんだからもう少し戸惑いとか持って接してくれないかな。俺はあまりグイグイ来られるの得意じゃないし。

 中二病や暴走しやすいオタク気質なな奴と友達なのにそれはないだろうって?

 馬鹿、お馬鹿。あれは特別だよ。言っても聞くような部類じゃないでしょうが。これまでに何度注意してきたと思ってるの。俺のポジションが羨ましいとか思うのなら喜んで変わってあげますよ。


「あたしとしては晴乃殿の方が綺麗だとは思うが」

「良い子! 零くんと違ってシズクちゃんは良い子だね~」

「事実を言っているだけですから。それに……どうにもあたしのような古臭い喋り方をする者は男受けが悪いようで。同性からは好かれやすいのですが」


 でしょうね。

 だって男の俺から見てもあなたカッコ良いもん。そのへんの男よりも男気ありそうだもん。喋り方以前にそのへんが関係していると私は思う。

 だって……本人の知らないところでファンクラブとか出来ててもおかしくなさそうだし。デマでも人から聞いたら多分大抵の人は疑わないよ。俺も信じそうだし。


「シズクちゃんのお墨付きももらったし、零くん」

「嫌です」

「まだ何も言ってないんだけど」


 子供みたいに頬を膨らませないでくれませんかね。

 可愛いとは思いますけど、あなた大人でしょ。それに何を言いたいか大体見当ついてるんで。


「さっきも言ったでしょ。俺は見た目よりも中身で決めるんです。故に晴乃さんを選ぶくらいならこっちの名無しさんを選びます」

「確かにあちらでは名無しと名乗っているようなものだが……あたしにも佐々木雫という名があるのだぞ」


 どう考えてもシズクって下の名前の可能性が高いじゃん。親しくもない相手をいきなり下の名前で呼ぶくらいなら他に使えるものを使いますよ。

 だってさ、ここでシズクちゃんだとか言ったら晴乃さんが怖いじゃん。あの人何を考えてるかさっぱり分からないし。


「まあ……晴乃殿よりも自分だと言ってもらえるのは嬉しくあるが。異性からそのようなことを言われることは滅多にないのでな」

「ダメだよシズクちゃん。零くんはこう見えて可愛い知り合いが多いからね。心を許したら遊ばれて大変なことになるよ」


 八つ当たりなのか知らないけどデタラメなことを言うのはやめてくれないかな!

 確かに見た目の良い知り合いはあなたを含めてそこそこいますよ。でもね……あなた方さ、見た目の良さに比例するかのように常識から遠ざかるじゃん。そんなんだから俺は見た目よりも中身って言う方向性になったんだよ。


「大丈夫ですよ晴乃殿。そのへんの男に好き勝手されるような弱い女ではありませんので。それにあたしは、男性と付き合ったならばその者を自分色に染めたい派です」


 やっぱこいつも変だ。そういうことは堂々と言うものじゃない。

 何なの……俺には女難の相でもあるの?

 何で俺の周りには一癖も二癖もある奴しかいないのだろう。こいつらみたいに綺麗じゃなくていいから大人しい普通の子とかと知り合いになりたい。切実に……。


「さて……こうしてここで会ったのも何かの縁だ。先ほどさらりと言ってしまったが、改めて自己紹介させてもらおう。あたしは佐々木雫と言う。どこに通っているかは制服を見れば分かっているだろうが、桜花学園で学ばせてもらっている2年生だ。貴殿……君の名も聞かせてもらえるだろうか?」


 これ……俺も言わないとダメ?

 あっちが勝手に名乗っただけだし、別に言わなくてもいいんじゃないかな。なんて思えたら気が楽なんだろうけど……多分この人とは今後度々顔を合わせる気がする。通ってる学校から徒歩でも行ける距離に住んでるみたいだし、仮想世界でも会うことありそうだから。

 何より……ここで拒否したら晴乃さんが怖い。そんな常識のない子に育てた覚えはないぞ、とか言いながら何かされるに決まってる。常識がないのは晴乃さんの方のに……


「零くん?」

「いえ、何でもないです。俺は南雲零次、桔梗ヶ丘高校の2年」

「南雲零次……零次……零の次。つまり壱を目指せという意味合いの名か。良き名だな」


 いやまあそういう意味合いだとは思うけど、母親が当時好きだった芸能人の名前から取ったとか聞かされた覚えもあるような……。気にしないでおこう。今は必要のないことだし。


「どうもありがとう……あと別に君とかに言い直さなくていいから。俺はそういうの気にしないし」

「いや、その……心遣いは感謝するのだが、さすがに今時の女子高生がこのような喋り方をするのもどうかと思ってな。すぐに全てを直すのは無理だが、出来る部分はやっていこうとあたしになりに努力している。なので甘んじてお付き合いいただきたい」


 あぁそうですか。ならこれ以上は何も言いません。

 ただ……二人称を変えた程度では、あなたの喋り方の雰囲気は変わりませんよ。むしろ少し気さくさが出るから余計に同性からキャーキャー言われるだけだと思います。

 身から出た錆というやつですね。こういう時に使っていいことわざか分からんけど、自分の言動が理由で災いやらを受けてしまうって意味だしまあ大丈夫だろう。


「ところで……零次、君は何を買いに来たのだ?」


 いきなり下の名前ですかそうですか。本当にあなたは気さくというか踏み込んで来ますよね。鋭い踏み込みは仮想世界の中だけにしてほしいです。故に俺はあなたのことを呼ぶ場合は佐々木さんと呼びます。


「そっちとおそらく一緒……すでに買い終わってるけど」

「そうか。目的を果たせばすぐに帰るタイプかと思ったが、意外と人と話したいのだな」

「うんうん、違う違う。そこのお姉さんが帰ろうとしても邪魔してくるの」

「だって私、零くんのこと大好きなんだもん。好きな子にはその子のやること為すこと邪魔したくなるじゃない」


 イタズラやちょっかい程度ならば理解出来るが、邪魔をしたくなるのは違うと思う。断じて違うと思う。


「ふむ……まあそれもおのこの務めだろう」

「何が務めなの? 今のご時世、男女平等でしょ? そうでなくてもこの人の相手が務めとか嫌なんだけど」

「む~、零くんは晴乃お姉さんのことが嫌いなの?」

「それはもちろん嫌い……ではないですけど、好きでもないんです」

「君ははっきりしているのかしてないのか分からない奴だな。まったくおかしな男だよ」

「俺よりもそっちの方がおかしいからね」


 というか……いい加減帰りたいんだけど!




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