ある雨の日に
その日はとても暑い、寝苦しくなりそうな夜だった。
外は、なんだろうか、虫が鳴いていた。しかし、その鳴き声とは
普段聞くことのできないであろう悲鳴!怒号!それとも苦しみを押
し出しているような、そんな鳴き声であった。
「錯覚か・・・」
私は、そんなことを呟きながら、外の空気を吸おうと窓を開けた。
ザーザーーーザーザーーーー
雨か・・・
いつの間にか降っていた。
窓を開けた私の顔にも、雨粒が降り掛かってくる。
「いつの間に・・・・、ん?」
よく見ると、遠くの空が光っている。
「雷か、あの山の向こうは大丈夫か?」
あまりにも激しい雨音にかき消されているのか、雷の音は聞こえ
てこないが、鋭く光るこの雷は・・・・。
「そうか、そうなんだな・・・」
ふと思い出す、あの雷の光は、どこかで同じ光景を見たことがあ
った。
ピカッ! ゴロゴロ・・・ ピカッ!!
そこは蝋燭の光があるだけという、薄暗い部屋だった。
部屋の真ん中には大仰な計器やレバーの付いた機械があった。
私は・・・、その機械をこれから動作させようとしているとこ
ろだった。周りには他に人はおらず、目の前にある機械は、スイ
ッチが入ることを今か今かと待ち構えているようだった。
”起動5分前、関係者は直ちに退避して下さい”
館内放送だろうか?突然、スピーカーから機械的な声が聞こえ
てきた。
「そうかっ、そういうことか・・・」
私は、今の放送で、これまでの記憶が甦ってきていた。しかし
今はそういったことに思いを馳せている猶予はない状況だった。
そして、慌てて部屋から飛び出した。部屋を出ると、そのまま
全力で走り出した。こんなことになるなんて、何も考えたくない、
今は・・・。
どのくらい走っただろうか、いったいどこまで逃げれば良いの
か、それすらも分からなくなりそうなくらい長く変化の無い廊下
を、とにかく走っていたが・・・。
”起動1分前、カウントダウンに入ります”
とうとうここまできたか・・・、どうやらもう助かりそうにな
いな・・・・。
そんな不吉な予感が胸をよぎったちょうどその時、
「よぉ、そんなに急いでどこへ行こうってんだい?」
目の前に急に現れたのは、
「おまえは・・・」
「なんだよ、幽霊でも見たような顔して・・・どうしたんだ?」
「・・・いや、なんでもない。それよりどうしてここにいるん
だ?ここは今危険な状態なんだぞ!」
しかし、そいつは笑みを浮かべたまま、無言で、その場を動こう
とはしなかった。
”三十秒前、三十秒前”
しばらくして、スピーカーから制限時間を告げる放送が聞こえ
てきた。
「ほぉ、もうそんな時間か。それじゃ俺もそろそろ行くわ。運
が良かったらまた会おうぜ」
そう言うや、そいつは指を鳴らして・・・
「消えた!」
一瞬、思考停止になりそうだったが、周りの状況を思い出し、
急いで走り出した。
”十、九、八、七・・・”
もうだめか・・・。
”・・・三、二、一・・・”
「ん?」
何も起きなかった。
いや、何も起きないと思ったその一瞬後、何の前触れも無く通路
が真っ暗になった。
その直後・・・!!!
・・・気を失っていたのか。
そうだった。あの光はあの時の・・・
どうして自分が助かっているのか、あのとき何が起こったのか、
私は今でも不思議に思う。
誰かに助けてもらったとしか思えないが、周りに誰もいない状況
で誰があの場に駆けつけるというのか。
この雨は、いったいいつまで降るのか、まるで私をあざ笑うかの
ように派手に降り続くのだった。
ー完ー
これで4作目ですが、読んで頂きありがとうございます
過去に作りかけた作品をとりあえずの形で完結させてみました(^-^;;;