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異世界の冒険者  作者: かやばさん
異世界にいました
8/51

夜の観察(レイナ視点)

ここからは週に1度程度の更新になります。

たんたんと更新していければいいなと考えています。

コメント等を頂ければ励みになります。

―――――――――


夜の見張りを先にユーキさんに任せた私は、怒涛の一日を振り返ります。

振りかえって思うことは、とても寝つける気はしないということ。

私のために多くの人が亡くなりました。

中でも幼いころから世話をしてくれた人たちが、私を守って死んだと考えると悔しくて悲しくて、何もしなくとも涙が頬を伝います。

たぶん一人では、あの事件の場所から動けなかったでしょうね。

いつか助けが来るはず、と甘い甘えを持って、倒れるまでずっとそこにいたでしょう。

そうならなかったのは、見張りをしてくれているユーキさん。

彼女――元は彼、らしい――が居てくれたからです。


怪しい人、それが私のユーキさんに対する第一印象でした。

命がけで私を助けてくれました人を疑うのは心苦しいのですが、それだけでは信用する理由にはなりえません。

これまで親切な顔をした人に騙される人を何人も見てきました。隠した害意を持って近寄ってくる人は、最初から敵意をむき出しにする人よりずっと危険です。今回の事件もおそらく私が信頼していた人たちの誰かが手引きしたのでしょう。正直辛い。

そして、ユーキさんもその類の人物かもしれないと始めは疑っていました。

まず第一に、その出で立ちが怪しい。

ユーキさんは、植物で織られた荒い布地の服を着込み、同じ色をした丈の短い布地を着用しています。伝統的な丈の長いパンツとは異なるけれども、動きやすそうではありました。ただ、露出が多く安全を考慮に入れていなさそうです。

今いるキュレイ平原は、村から一日程度の距離とはいえ、毒草や毒虫などはもちろん生育しています。

なにより盗賊や魔物といった危険なものから少しでも身を守ることを考えると軽装にしてももっと防具を用意すべきです。まっとうな旅人ではありえません。

また、彼女は黒眼黒髪で馬の尻尾のようにまとめた髪を横から流しています。黒髪はこの辺りでは見かけませんし、髪型も見たことがありません。どこからか流れてきたにしては、装備が軽装すぎます。さらに、ユーキさんの行使した魔法も私の知らない法則で発動していました。ないない尽くしです。

ですから、怪しい人。それが私のユーキさんへの評価でした。



しかし、怪しくはありましたがユーキさんはすごく話しやすい人でした。

さまざまな話題を振ってくださり、何より会話の端々に私への気遣いが感じられ、油断してはいけないと思いつつもたびたび緊張が解けてしまいました。

ユーキさんが悪意ある人だったなら、私はさぞ良いカモに映ったでしょう。


ユーキさんに害意がないとわかったのは野営している時です。

昼間も驚きましたが、ユーキさんは信じられないぐらい魔法抵抗力が低いようです。

まさか『お願い』程度で私の魔法が通るとは思ってもみませんでした。籠めていた魔力もごく微量で、自然とレジストしてしまえるぐらいだったのですが……。

おかげで彼の話を聞くことができました。


時の迷い人。

ここではないどこかで生きてきた彼らは、大きな恵みを私たちにもたらしてくれることもあれば、嵐のように暴れることもあります。多くは後者であり、その場合即座に捕縛もしくは無力化することが推奨されています。

彼らは良くも悪くも私たちとかけ離れた理や価値観を持っているからです。


ユーキさんは――前者であれば嬉しいです。少なくとも後者ではないでしょう。

意思疎通が可能であり、人を気遣う感受性を持っていました。


「ええとたしか……」


ユーキさんの呟きが聞こえます。

何をする気でしょうか。


「飛べ、ウインド・カッター!」

寝込みを襲う気ですか!?

咄嗟に転がり、簡易の魔術結界を貼ろうとしますが――完全に油断しきっていたため体が動かない。


どうか私のマントで軽減できる程度の力でありますように……!


ギュッとマントにくるまり衝撃に備えますが、いつまで経っても衝撃は来ません。

どうしたのでしょう。


「駄目だなぁ。違ったっけ?」


そのあとユーキさんは何回も呪文を唱えます。

どうやら魔法の練習をしたかったようですが、どれも正確ではありません。

呪文よりも一番大切な、言葉に魔力を纏わせることができていません。


……また人に騙されたのかと思った、私の気持ちを返してほしいです。

ユーキさんの真面目な声を聞いていると、一人で警戒していた自分がバカらしくなってきました。

「ふ、ふふ」

霧散していく緊張とともについ笑い声が漏れてしまいました。


聞こえたかもしれませんね。

声をかければよかったのですが、盗み聞きしていたのが体裁悪くて寝た振りをしてしまいました。


ユーキさんは私の寝言だと勘違いして、何か別の作業をし始めました。


「はぁぁ」

気が抜けて、少し眠気がやってきました。

ユーキさんのおかげで、少し気持ちが楽になったのかもしれません。

今なら眠れそうです。


「おやすみなさい……」

小さく呟いて、マントに頭までくるまります。




――――――――


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