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異世界の冒険者  作者: かやばさん
異世界にいました
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夜の語らい1

「実は『時の迷い人』ってごくたまにいるんですよ」


「えっ!?」


そんな返しは予想していない。

驚きに声が漏れる。


「ふふ、驚きました?」


「うん……。たぶんほかにも私みたいな境遇の人がいるってこだよね?」


彼女の問いに素直に頷く。


「と言っても、本物はすごくすごーく珍しいらしいんですよ。ほとんどはお金目当ての狂言だそうです」


「らしい?」


「はい、恥ずかしながら世間知らずなもので……。家庭教師の先生に教えて頂いただけなんです」

それだけ珍しいんですよ、と彼女は付け加えた。


「それに意志疎通ができなかったり、あまりにその、姿が私たちと異なっていたりで分かり合えない場合がありまして……」

言いづらそうに言葉を濁す。


理屈はわかる。

仮に元の世界であっても、あまりに姿がかけ離れていたら人権をきちんと守れるかわからない。


「た、ただ、初代王の功績は『時の迷い人』の協力があったのは間違いないんです! 記録にも異界の友の記述がたくさんあるんです」


ちょくちょく出てくる、時の迷い人。それは俺のように別世界から紛れ込んだ何かを意味する言葉だと推測できる。

珍しいことなのだろうが、決して空前絶後の珍しさではないらしい。


「それで、私の話をどう思う?」


「私は……」


彼女は数瞬目を閉じ、息を大きく吸った。


「私は……信じます」


真っ直ぐな視線と目が合う。


「私ね。けっこう単純なんですよ」


そう言ってレイナさんは恥ずかしそうに頬をかく。



彼女は見た感じきちんと教育を受けたお嬢様で、どちらかといえば思慮深そうな印象だ。

人は見た目によらないのか、謙遜なのか。


「ユーキさんの使った魔法は、私の知っている魔法とは法則が異なっていました。それにあなたの話は、不可思議で想像もしていないものでした」


嘘かもしれないけどね。


「ユーキさんが実は冒険者たちと結託していて、『迷い人』と信じ込ませやすいように演出した、という可能性は否定できません。私、身分だけは不相応なものがありますし……」


信頼を得るために芝居を打つ、か。

身分の高い――やはりレイナさんは良いところ出身だった――人物とお近づきになるには良い手なんだろう。

ザ、庶民であった自分には関わりのなかった世界だ。


「あのとき、ユーキさんと出会ったとき、諦めそうだったんですよ」


レイナさんは焚き火に葉の付いた枝を放り込む。

それは水分を含んでいる生乾きの枝で、彼女が風の魔法で伐採したものだ。


「魔法ってすごいんです。初級者はあまり他の兵士と変わりませんが、それでも応用力が違います。上級魔法使いともなると一人で軍隊ですよ!」


とりとめのない話題は、きっとレイナさんの中でもまとまっていないのだろう。

心の赴くままに話している感じだ。


「怖いね」


「そう、怖いんです。ですから護衛としてあの人たちを雇っていたのですが……裏切られちゃいました」

「だからあの状況か」


あの冒険者たちは何を思ってこの子を狙ったんだろう。

たしか貴族がどうって言っていた。


「ミリアンもルドルフも、みんな私を守って死にました」


埋葬した従者たちの数は冒険者たちよりずっと少なかった。

文字通り命がけで守ったんだろう。


「気が付くと周りには誰もいなくて、一人になっていました」


「そうしたら、悲しいことばかり浮かんできたんですよ。弟がいなければ良かったとか、もっと温かいものが食べたかったとか、もっと自由に生きたかったな、とか……」


声が震えている。

降ってわいた暴力や大切な人を目の前で亡くす悲しみ、少女を傷つけるには十分すぎる理由だ。

もしかするとこの世界はそんなことは日常茶飯事で、当たり前の光景なのかもしれない。

ただ少なくとも、俺にとっては当たり前ではなく、目の前の少女にとってもそうではなかった。


「もう立ちたくない、でも酷いことはされたくない、そんな気持ちのときにユーキさんと会いました」


「でも、助けてとは言わなかったよね」


「はい。どちらの味方かわかりませんでしたし。それに、私のために死んでくれなんて言えません……でも」

彼女はゆっくりと俺の手を取った。


慣れない作業で泥だらけになっているけれど、柔らかな手だ。


「でもあなたは助けてくれました」


「情けなかったけどね」


震える声を上げながら無我夢中に飛びついた覚えがある。

もしかしたら怖すぎて鼻水なんかも出ていたかもしれない。


「いえ、とても素敵でした」


レイナさんの手に力がこもる。


「あなたのおかげで私は、再び立つことができました。ありがとうございます」


そう言ってレイナさんは、にへへと笑う。

お嬢様然とした印象とはまた違った、年相応の少女らしい笑顔だった。


―――


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