第二十一話 闘技祭:その一
時が経つのは早いもので、入学式のころは蒸し暑かった空気も肌寒さを感じるほどになってきた。もうじき冬である。バスターアカデミアの一大行事――〈闘技祭〉が催される時期だ。
闘技祭は、簡単に言えば“学生戦闘トーナメント”である。学生同士の戦闘を学外の人間が観戦でき、毎年多くの観客が訪れる。様々な国から貴賓が招かれ、在学中のバスターを今のうちからスカウトしようとやってくる人もいるほどだ。学生にとっても観客にとっても、闘技祭は重要なイベントなのである。
闘技祭は三日間通して行われる。一日目は一年生の個人戦、二日目は二・三年生の個人戦、三日間は二・三年生のチーム戦。一年生は入学してから日が浅いので、希望者のみ参加の個人戦となっている。二日目、三日目の前座のようなものだ。
実は、アカデミアには四年生、五年生も在籍しているのだが、彼らは実地研修として各国のバスタージムなどに送られている。だから実質、三年生が最上級生となっている。
今日は闘技祭初日。すでに闘技場では開幕式が開かれている。開幕式が行われている間、闘技場に参加する一年生は予選を行うことになっていた。本選に参加できるのは、十六人だ。
「――予選、がんばってね!」
「みんなが通過するように、祈ってるからな!」
「きゅう!」
予選が行われる演習場の前で、セナとユーリが激励の言葉をかけた。ゴンはユーリに抱かれて嬉しそうに尻尾を振っている。いつものメンバーの内で闘技祭に参加するのはオズ、ルーク、アルス、リノの四人だ。セナやユーリのように近接戦闘向きではないバスターは、個人戦には向かない。なので、一年生で闘技祭に参加するのはほとんどが近接系のバスターだ。
オズたちはセナとユーリに手を振ると、演習場へと足を踏み入れた。予選は公開されていないので、参加者以外は見ることができないのだ。セナとユーリは闘技場で開会式を観ながら本選を待つことになる。
「予選に参加するのは五百人か……。そこから十六人だから、相当な倍率だな」
「そうですね。でも、そのぶん気楽に挑めそうです」
「ボクは第三演習場かぁ……リノちゃんはどこ?」
「私は……第四演習場ですね」
「よかったー。リノちゃんと被ってない! ちょっとアブなかった!」
「ふん、オレは第八演習場だ」
「えっと俺は……第十一演習場か。みんなキレイに別れたな」
貼り紙を見ながら話し込むオズたち。広大な学園敷地内には演習場が全てで二十あるが、そのうち十六が予選に使われる。本選に進めるのは十六人――すなわち、各ブロックで一位になった者が本選に進めるのだ。オズたち四人は運よく違うブロックに散らばった。
「よし、じゃあ行くか。みんな――健闘を祈る!」
それぞれ好戦的な笑みを浮かべながら、オズたちは指定された演習場へ向かっていった。
第十一演習場へたどり着くと、オズは異変に気づいた。ひとつのブロックに予選参加者は三十人ほどなのだが、集まった参加者たちの雰囲気がおかしい。オズの方を見て、ひそひそと話しながら見下したような笑みを向けてくる。
「――?」
しかし、レックス・バルカンの姿を見つけて、オズは彼らが帝国貴族たちだと知った。
公平を謳うバスターアカデミアだが、帝国貴族は大きな派閥を作っていると聞く。それが、バスター連盟に影響を及ぼすほどだと。
「集まったな。さて、これより予選を始める。第一試合はプラチナクラスのレックス・バルカン対スチールクラスのオズ・リトヘンデだ。模擬剣を選び、両者前へ出ろ」
立ち会いの教官は、ヴェルド・ズエンだった。いよいよこれはキナ臭くなってきた。どうやらこの振り分けは仕組まれたものらしい。
――帝国貴族会には気をつけろ。
担任、フウカの忠告が脳裏に蘇った。
「…………」
「リトヘンデ、はやくしたまえ。それとも何か言いたいことでもあるのか? ん?」
「……いえ」
「くく……ならばさっさとしろ」
言いたいことをぐっと飲み込み、オズはズエンに従った。
演習場に常備してある模擬剣の中からちょうどよい大きさの物を手に取り、オズは演習場の中央に出た。すでにレックスは準備を終えていた。「スチールが調子にのりやがって」「レックス様に潰されるがいい」と野次が飛ばされる。
「ふ……僕に怖じ気づいたか?」
黙っているオズへ、レックスが嘲笑を浮かべた。しかしオズは。
「べつに。ちょっと呆れただけだ。おまえら、群れないと何もできないんだな。――まるでガイムと同じだ」
「――き、貴様!」
「リトヘンデ! 過度な挑発は反則と見なす。反則負けになりたくなければ、口を慎め」
「…………」
「……フッ」
オズは黙り込む。ズエンの注意で落ち着きを取り戻したのか、レックスは鼻で笑った。
「準備はいいな? それでは――対戦始め!」
ズエンの号令がかかった。模擬剣を構え、オズはレックスを注視する。この状況で自分から動くのは危険だ。オズはまず、様子を見ることにした。
「来ないのか? なら、僕から行くぞッ!」
レックスが斬りかかってくる。オズはそれに自分の模擬剣を合わせた。レックスと真面目に戦うのはこれが初めて。オズは冷静に相手の力量を測っていく。
――弱いな。
オズの感想は、ただそれだけだった。オズ自身気づいていないことだが、これまでルークやアルス、決闘クラブの上級生たちと訓練してきたオズは、“強さ”の基準がマヒしていたのだった。プラチナクラスのレックスは、上級クラスであり一年生でもトップクラスの実力をもつのだが――相手が悪かった。
オズは攻勢に転じた。レックスの剣を防ぎつつ、攻撃を織り混ぜていく。
「――クッ!」
レックスは苦しげに息を吐いた。しばらくして、オズの攻撃を防ぐので手一杯になっていく。
あまりの呆気なさにオズが気を抜いた時だった。
――ガクン
「!?」
急に体から力が抜けて、オズは目を見開いた。
「ははは、どうしたァ!?」
「――ッ!」
スキと見たレックスが猛然と斬りかかる。周囲から途端に「レックス様その調子です!」と野次があがった。いったい何が起こったのか、うまく体に力が入らない。オズは自分の模擬剣が鈍い光を放っているのに気づいた。オズは息を飲む。似たようなものを前に見たことがある。部室でシエルの欠陥品を手にした時だった。そのとき何が起こったか――体中のマナが吸われたのだ。
「効いてきたようだなぁ……タフなヤツめ」
つばぜり合いをしながら、顔を近づけたレックスがにやりと笑う。オズの額を汗がつたう。――まさか、模擬剣に細工までするとは!
体からマナが吸われる――つまり、〈身体活性〉を使えなくなるということだ。力が抜けたのはそれが原因。そして、〈身体活性〉があるのとないのでは戦闘力に格段の差がでるのは周知の事実だ。
「さあ、いつまでもつかな……?」
「……クソッ!」
オズは苦々しくつぶやいた。




