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第五話 受験番号2239

 土の都ルカタウンを出発した竜者の群れ。車内は大勢のバスター予備生であふれかえっていた。多くは試験のための参考書を手にし、あるいは友人らと問題を出し合い、おのおの試験に備えている。


「あ、見えたぞ! 〈学園都市フロンティア〉だ!」


 車窓から顔を出していた一人の予備生が、声を上げた。その言葉を聞いて、予備生たちは窓へ殺到し、我先にと目的地を見やる。


「うわ……すっげぇ」


 窓から顔を出したオズはつぶやいた。今まで見たどの街よりも巨大な城壁が、夕陽を反射し輝いていた。都市の規模も尋常ではなく、ボスト・シティの軽く十倍はありそうだ。城壁の向こう、内部の都市の建造物たちは軒並み高層であり、その姿をありありと確認することができた。もはやその外観は、巨大なビルが建ち並ぶ近未来都市だ。建物はすべてガイストーン製。巨大な宝石の結晶が柱となって下から突き生え、それらが立ち連なっているようにも見えた。


「すごい……きれいだね」


 オズの隣でセナがつぶやいた。金の長髪が風に揺られ、セナはそれに「んっ」と目を細めた。横顔が、夕陽に美しく照らされていた。


「ふふ……合格できるといいね?」

「そうだな。合格して、いっしょにアカデミアへ行こう」

「――うん!」


 細長い耳をピクリと動かして、ミュウ族の少女は笑顔を咲かせた。


 ――学園都市フロンティア。バスター連盟の総本山である〈連盟本部〉が存在する都市であり、そして、どの国にも属さない中立都市である。連盟本部に加え、バスター育成機関としては最大の規模を誇る〈バスターアカデミア〉のほか、ガイム=クランク開発や輝術(オーラ)研究の最先端である研究機関〈バベル〉など、多数の下部機関が集結し、加盟各国の大使館が都市中に居を構えている。学園都市フロンティアは“大陸のはて”に位置し、その向こう側には人類にとっては未知の領域――通称〈未踏破地域〉が広がっている。過去の記録から、〈波〉の70パーセント近くが未踏破地域から押し寄せることが判明しており、バスターを多く有するフロンティアは、〈波〉を大陸から護る防波堤の役割も担っていた。

 そして、特筆すべきは〈地下迷宮(ラビリンス)〉の巨大な入り口が存在する点である。地下迷宮(ラビリンス)――それは、地下に広がるもう一つの世界(アナザーワールド)である。地下迷宮(ラビリンス)の入り口は大陸の各地で発見されており、そのすべてが繋がっているといわれている。迷宮内はガイムの巣窟であり、無数のガイムがうごめく。ガイムはどこからやってくるのか――その謎は、地下迷宮(ラビリンス)にある、と唱える専門家は多い。ガイムであふれかえる危険地帯ではあるが、それゆえに、大量のガイストーンの供給元ともいえる。また、古代人が残した遺跡が発見されることもあり、そこでは輝術(オーラ)技術では再現できないような強力な効果をもつ〈遺物(オーパーツ)〉が発掘されることもある。地下迷宮(ラビリンス)は、人類にとってまさに無数の宝が眠る鉱山だった。しかしその全容は未踏破地域と同じく謎に包まれており、踏破率は10パーセントにも満たないといわれている――




「ふう、いよいよ明日か……」


 とある宿の、消灯された寝室。ベッドの中で天井を見上げながら、なかなか寝つけないオズは息を吐いた。

 学園都市フロンティアに到着した受験生たちは、都市内の大使館や宿にそれぞれ案内された。ルカタウンのように、泊まる場所がないなどといった問題が起きないよう、あらかじめ受験生の割り振りがなされていたようだった。

 同じ部屋となったのはルークとアルスである。「ぐごー」とアルスのやかましいいびきが響き渡り、鼻提灯(はなちょうちん)をふくらませたルークは「むふふ……シッポ……むにゃむにゃ」と寝言をつぶやく。ちなみに、ミオはオズたちと別れ、バスターアカデミアの職員宿舎へと向かった。どうやら明日からさっそく仕事があるようだった。ミオがいなくなったことによって、セナは今、知り合いがいない状況で同性の予備生たちと相部屋で寝ていることになる。ミュウ族だからと何かされていないだろうか……。オズはそれが気がかりだった。


「きゅうう……」


 窓のそばで、ゴンが夜空を見上げていた。オズは起き上がり近づくと、ゴンを抱きしめ一緒に夜空を見上げた。

 勝手に出歩いたりと少々やんちゃなところはあるが、ゴンは頭がいい。両親をガイムに殺されて、ゴンはそれを理解しているようだった。空を見上げていたのは、自分を育ててくれ、そして守ってくれた親たちを思い出していたからだろうか。

 オズは腕の中の小さなラグーンを撫でながら、しばらく一緒に夜空を眺めていた。



 * * *



 広大な敷地を有するバスターアカデミア。敷地内に並び建つ多くの施設の中で、最も大きな建物――それは、敷地の中心に位置する教育棟である。白いガイストーン製の外壁は清涼感とともに厳かな雰囲気を放っていた。

 認定試験当日であるこの日、早朝から三千人近くの受験生がこの建物内に詰めていた。


「受験番号2239か。みんなとは離れてるな」


 受験生の待合室で、受験票を片手にオズはぼやいた。

 午前中は実技試験が行われる。戦闘実技試験と輝術(オーラ)実技試験である。五人ずつ係員に呼ばれ、一緒に試験を受けることになる。しかし、グループで戦闘をしたりするわけではなく、個人試験を五人が同じ会場で行い、自分の番ではない時はほかの受験生の試験を見ている、という形態であるようだ。

 戦闘実技のため、オズはGスーツを着込んでいる。待合室にいるほかの受験生も同様だ。さまざまなGスーツの色が目に飛び込んできて、チカチカするほどであった。


「わたしは1137。呼ばれるのはオズくんよりも先だね」

「うわあ、ボクはアルスといっしょのグループだ。なんてこったい」

「あんだよ? 文句あんのかよ」


 ルークの番号は0877。アルスの番号は0879。二人は一緒のグループのようだった。番号はランダムで決まるのだが、受験生は2800人ほどだという話だったから、奇跡的な確率で一緒になったのではないだろうか。

 オズ、セナ、ルーク、アルスの四人は固まって座り、自分の番を待っていた。数十分ごとに係員がやってきて、呼ばれた受験生が何グループか、待合室を出ていく。

 ちなみに、ゴンは校舎一階の〈ペット・センター〉にあずけた。調べたところ、アカデミアでは申請すればペットを校舎内で連れ回してもよいことになっている。一緒に授業を受けてもいいらしい。ずいぶんと緩い校風である。ラグーンを連れている学生は(まれ)だが、鳥やリスなどの小動物を連れている人がちらほら在籍しているという。しかし、試験などの際はペット・センターにあずける決まりとなっていた。ゴンは別れる時に寂しそうにしていたが、大丈夫だろうか。ほかのあずけられたペットたちと仲良くしているといいのだが……


「おい、あれ見ろよ。ミュウ族だぜ」

「ほんとだ。俺、初めて見た」

「あの耳! マジで尖ってるんだな。ははは」


 近くのテーブルで、数人の少年たちがセナとルークを指差していた。明らかに、見下したような雰囲気であった。ピクリとこめかみが動き、オズは立ち上がろうとする。セナが「オズくん、大丈夫だから」とオズを押さえるが……


「あ゛あ゛ん!? 黙れよザコが!」


 先に立ち上がったのはアルスだった。体から噴き出したマナがびりびりと振動し、強者の匂いを否が応でも感じとった少年たちは「ヒイィッ!」と叫び離れていく。180センチの高身長と不良顔が、彼らの恐怖に拍車をかけたのかもしれなかった。それがなくとも、バスター予備生にしてレベル20はなかなかいない。おそらく、アルスは受験生の中ではトップクラスの強さをもっているはずだった。


「まあまあ、ボクたちはそんなの全然気にしてないからさ」


 ルークが(いか)ったアルスをたしなめた。オズと友だちになるまでは、ミュウ族であるセナやルークに辛く当たってきたアルスだが、今では差別的な発言をものすごく嫌っていた。このような反応をするのは、どこか彼女らに対するつぐないの意味もあるのかもしれなかった。


「……つかルーク、さっきから何きょろきょろしてやがる。まさかてめえ、緊張してんのか? ハッ」


 場の空気を変えるように、アルスが馬鹿にしたように笑った。オズが見ると、たしかにルークはせわしなく首を動かしている。


「ルークが緊張してるなんて、めずらしいこともあるもんだな」

「ちょっと、それはどういうことだい? ボクが緊張するわけないじゃないか。かわいい獣人(ライカン)の女の子を探しているに決まってるだろう? ――おっ、あの子、なかなかイイなぁ……ふかふかの毛並みがなんとも……ぐふ」

「お、おう……」


 ルークの言動にアルスは引いたようだった。自身の狼耳を両手で押さえながら、アルスはルークから距離をとる。

 大丈夫だアルス。この変態が興味を示すのは獣人(ライカン)だけだ。半獣人(デミ・ライカン)のお前はなんともないはずだ……!


「受験番号0876から0880の受験者の方! 会場までご案内します!」


 係員の声が響き渡った。ついにルークとアルスの順番がきたようだ。


「お、ボクたちの番だ。わくわく」

「ふー、血がたぎるぜ。まってろ戦闘試験」


 二人には緊張した様子は微塵も見られなかった。むしろ、戦闘試験をたのしみにしているようだった。去っていく二人を見ながらオズは苦笑し、「あの二人らしいね」とセナが微笑んだ。


 そしてやがて、セナの順番がやってくる。係員に呼ばれたセナは立ち上がると、去り際にオズの手をぎゅっと握りしめた。


「わたし、いってくるね。……オズくんのことも、応援してるから」

「お、おう。お互いがんばろうな」


 セナの手のやわらかさに、オズはどきりとする。セナは微笑むと、待合室をあとにした。手に残ったセナの温もりが、オズを力づけるように感じられた。オズは優しく強く、自らの拳を握りしめた。

 一人になったオズは、マナを体内で練ったり、イメージトレーニングをしながら時間をつぶす。しかし時間がたつのは早いもので、とうとう、オズが呼ばれる番になった。

 係員の案内に従い待合室を出たオズは、思わず声を上げた。


「げっ!」

「――ア、アンタは!!」


 同じグループとして呼ばれた受験生の中に、オズが最も会いたくない人物がいた。驚いたようにオズを指差すのは、炎のような髪をツインテールで結んだ巨乳美少女。――ブリュンヒルデ皇国第三皇女、エリカ・ローズがそこにいた。

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