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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【火炎の四大】
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◇ホムンクルス



 イフリー大陸の気温問題は解決した、と言える。何が起こったのかを断片的に説明し、イフリートが納得してくれた事で今回の地殻調査は終了───しても問題ないのだが、


「......四大の器っていうのは? だっぷーがその器だと言うのか? どういう事だ?」


 カイトにとってはこれで終わりにするワケにはいかなかった。カイトだけではない、トウヤも、他の面々も “四大を納める器” などという不可解な言葉を無視出来るほど、今の世は安定していない。


『器、と言っても四大そのものを納める器じゃない......四大の力の一部を契約無しで納める事が出来る存在。それがこの子の性質......四大の力を集めるためだけに造られたホムンクルス......』


 【ホムンクルス】という存在は意外にも様々な用途で生産される。

 勿論、生産する過程がおそろしく困難であり、幻を越え空想とまで言われているが、事実存在する。

 歴史を紐解いてもホムンクルスの生産に成功した人物はただひとりであり、パラケルススという称号がそのまま名となった人物。その人物は何度となくホムンクルスを生成し、最終的には自身さえもホムンクルスという形で天性させた。

 これによりパラケルススという知識は不滅となり、今の世にも知識の断片を具現させ残している。それが、このホムンクルス───だっぷー。


 四大精霊の力を宿すためだけに生成されたホムンクルスとして、パラケルススの知識と技術の断片として、この世に存在している。




「......なんだそれ......だっぷーはその目的のために造られた存在なのか? そのためだけに......」


 個が存在している理由。そんなものを明確に持っている者など、この世にいない。

 目標、夢などを抱いている者は沢山いるが、明確な存在理由を持って生きている者など存在しない。

 誕生した以上は個であり、生きていく過程で夢や目標がすり変わる。そうして成長し、最終的に落ち着く所で腰をおろす。

 そこには必ず個の、自分の意思がある───というのに、だっぷーの存在理由は強制されたものでしかない。

 そこにカイトは言葉に出来ない、怒りにも似た感情を燃やしていた。


「落ち着けカイト」


 そんなカイトとは対照的に、トウヤは、左手を上げ他の者を抑制しつつ前に。


「俺はずっと引っ掛かっていた事がある......なぜあの時、ホムンクルスを運ぶ必要があったのか、だ」


 あの時、というのは約十年前の、デザリア騎士団へ入隊するための試験。

 カイトとトウヤはホムンクルスを───ホムンクルスだとは知らずに───運ぶ任務を行っていた。


「今そんな事どうだっていいだろ? それより」

「俺はこう考えている───」


 カイトの言葉を無視するかのようにトウヤは声を重ね押し切る。普段のトウヤではあまり考えられない強引性にカイトも、他の面々も注目する。


「あの時、イフリートを無理矢理どうにかしようとした科学者がいただろう? ああいうヤツから四大を守るために、もっと言えばこの世界の安定を守るために、ホムンクルスが四大の力を集める必要があるんじゃないか、と。四大そのものを集めるじゃなく、四大の力を」


 トウヤの読みはハズレではない。

 四大そのものをどうにかしてしまえば地界の安定は一気に崩壊する。

 イフリー大陸は獄炎に焼け、ウンディー大陸は寒波に凍え、ノムー大陸は地殻そのものが崩壊し、シルキ大陸は暴風に滅ぶ。

 各大陸に存在している四大精霊の存在が、各大陸が孕む災害を大陸の個性へと中和し、その個性から生産性を見出し、各大陸の魅力や生活基盤を確立させているのだ。

 四大という存在は、存在しているだけで創造へと繋がり、失えば崩落が始まる。


「四大の存在はそのままに、四大の力(、、、、)だけを集める。目的は俺にはわからないが、安定させたまま膨大な力を手にする事が出来る、という事になるんじゃないか? 現に今イフリートはだっぷーへ微量の力を使って呼吸を取り戻させた。そこでだっぷーは四大の器じゃないのか? という考えがイフリートに芽生えたんだろう? 契約無しで、という言葉もおそらくそういう意味だろう」


「......なんのためにそんな事をする必要があるんだ?」


「俺にはわからない───が、イフリートなら少なくとも俺よりは知ってるんじゃないのか?」


 ここでトウヤはイフリートを強引に、しかし巧みに話題へ参加させる。

 神格クラスの存在は詳しく語ろうとしない。しかし、会話の流れを上手に利用する事で求めている情報を多少なり引き抜く事が出来る。

 と、冒険者でありながらも情報屋という本業を持つキューレからこっそり学んだ会話術をトウヤは違和感無く披露した。



『......その前に、さっきの話───魔女と人間と魅狐と純妖精......半妖精だったかな、その四種族が行動を共にしているのは、本当?』


 眠る瞬間にだっぷーが語った言葉の真意を確かめるよう、イフリートは赤橙の身体を浮遊させながら全員の顔を見る。


「本当だよ。きっとその人間っていうのがワタシ。そして───」


 ワタポが答え、次へとパスを送る。


「ボクが魅狐ミコ......って見ればわかるよね」


 形の良い耳───のような器官と尾を動かし言うプンプン。


「私が半妖精ハーフエルフ。魔女は今地殻で狼に驚いてる頃だと思うわ」


 最後にひぃたろが、エミリオの存在もついでに添え、イフリートの反応を待った。



 四大の力を宿せるホムンクルス。

 魔女、人間、魅狐、純妖精(半妖精)

 夜楼華の再生と世界樹の死。

 四大陸の存在が繋がった世界。



 ───もう、繰り返さないように。



 イフリートは胸中で言葉を燃やし、ゆっくりと語り始めた。





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