◇豪炎魔術と水銀魔術 2
宝石名を持つ時点で魔女の中では一線先に立つ存在。その中で、より有能な4名に与えられる高位の称号が四大魔女。
変彩の魔女フロー、紅玉の魔女ラヴァイア。
この2人はその四大魔女の称号を持っている、または持っていた、魔女。
冒険者でいう所のSSS-S3、モンスターでいう所のSS-S2......最高ランクと言える階級だ。
そんな魔女が今、わたしひとりを手を組み、既に詠唱を行っている。
意識は、脳は現状を明確に理解しているにもかかわらず、身体はほとんど動かない。硬直や拘束ではなく、俗に言う走馬灯みたいなものだろう。
今まで何度かこの感じになる事はあった。と、アレコレ思い出したり考えたりする余裕がまさにその証拠だ。
そして、こういった状況に陥った際は必ず......必ず切り抜ける術がある。と、わたしの経験が強く訴える。
今自分にあるものはなんだ?
今自分に出来る事はなんだ?
この状況を打破......までは無理にせよ、自分の死を先延ばしにする手段はなんだ?
『───ッ!!』
次の瞬間、紅玉の魔女は炎属性をさらに燃やした、豪炎魔術。
変彩の魔女であり【クラウン】というふざけた道化フローは水銀魔術。
どっちもついさっき眼の前で見た魔術───ついさっきの、魔術......。
『───んむむ!?』
『───......水銀魔術ぅ!?』
ラヴァイアの豪炎には水銀を、フローの水銀には豪炎を衝突させ相殺すればいい。
ただそれだけの話だったんだ。
鉄板に水を落としたような蒸発音と独特な匂いを出す水銀と豪炎の相殺。
マグマが流れる地殻内に普通より濃い水蒸気が満ち、わたしは2人のシルエットを睨むように立っている。
『お前らの魔術をやり過ごす答えなんて、数秒前にあったんじゃねーか......びびってた自分がだっせーなクソ』
どうすれば豪炎と水銀を相殺出来るのか。
それは既に2人が見せてくれていた。
ならばわたしはそれを真似すればいいだけ。
誰かのモノをパクるのは得意中の得意だ。
『......やっぱり天魔女様が言ってたように、厄介者だなぁ......エミリオちゃん』
火属性魔術で水蒸気を上げ、視界をクリアにしつつラヴァイアは呟いた。流石は四大魔女であり、火系に恐ろしい程の才能を持つ魔女だ。下級で火とはいえ1秒とかからず魔術を発動して見せた。
『誰がなんだって? んな事よりさっさと帰れよ? そろそろわたしもキレんぞ』
『キレる、キレるナリか! なんでキレるナリ?』
ヘラヘラ笑いながら耳障りな声を出すフローをひと睨みし、わたしは自分の中にあるこの気持ちをそのまま言葉にする。
『わたしの地界で外来種が好き勝手してんじゃねーよ』
わたしもバリバリの外来種───外界の種族だ。
しかしそんな事はどうでもいい、ではなく、わたしはいいんだ。ここについて理由も他人を納得させるだけのものもないが、わたしはいいんだ。
だが、コイツ等はダメだ。
『ギャハハハハハ! わたしの地界ときたナリか!』
『エミリオちゃん外界種じゃん!?』
『うるせーよ、さっさと帰れ。帰れんねーなら』
帰れ、と言って帰る連中なら魔女は危険だのイカレてるだの言われない。コイツ等は帰らないし、わたしもコイツ等を通す気はない。
『殺されても文句いうなよ』
両眼に魔煌を灯し腹の底から全身へと魔力を巡らせる。
琥珀の魔女との戦闘で運良く出来たコレを、今度は自分の意思で。
魔女力を更に純度の高い魔力へと、色魔力へと変換し、わたしの能力である多重魔術を使い、水銀と豪炎、そして暴風魔術を同時詠唱する。
『紅玉ちゃん、悪いけども構ってられねっす! 自分の身は自分で守るナリねぇ!』
『そんなの言われなくとも最初からわかってたよ! 変彩に限らず魔女と手を組む場合は裏切りもプランに入れておくって当たり前じゃん?』
ラヴァイアとフローも───フローは眼鏡の裏側でだが───魔煌を燃やし、わたしの魔術に対応すべく高速詠唱で濃い魔女力を魔術へ注ぎ込む。
この時点で、この場所が魔術後どうなるのか全く予想出来なくなったが......後の事は後になってから考えればいい。
『......。さぁ───飛ばしていくぜ!』
大輪の魔法陣が5つ咲き、地殻で魔女の魔術が豪快に、傲慢に炸裂する。




