◇敵陣へ
首都にしては騒がしい───爆発音や大声での演説が響いていたデザリア。
わたし、天才魔女エミリオさんはメティという名の少女を謎に背負う形で荒野を滑走しデザリアへ到着、すぐに音の発生源を目指し爆走した。
タイミング良く到着したわたしは現状など知るよしもないが、武器を持つヤツが武器を持たないヤツを囲っている状況を強引に終わらせた。と言っても終わらせたのはメティの水なのだが。
友人のだっぷーと千秋ちゃんの表情から見て、状況は悪い方だったのだろう。街の人達がわたしを見てあーだこーだと顔を真っ赤にして喋ってるが、こんなもんシカトだぜ。
「だっぷー、カイトはどうした? 千秋ちゃんテルテルは?」
「カイトはあの中にひとりでいっちゃって、」
「テルくんも中にまだいる」
「ほう」
ヘソテルは塔の中か。
メティを千秋ちゃんあたりに押し付けて女帝に突撃しようと思っていたが......この調子じゃそれは無理そうだ。
「おい! 何の騒ぎだ!?」
「あ?」
ギャーギャーうるさいデザリア民よりもひと回し大きなボリュームで叫び現れたのは───
「ドメイライト騎士!? ヒガシンいんじゃん! 何してんの!?」
ノムー大陸のドメイライト騎士、ヒガシンと......あとは顔はギリギリ知ってるが名前は知らない。
「エミさんって騒がしい所に高確率で居るんスね」
「まぁな。で、なにしてんの? 戦争でも吹っ掛けに来たのか?」
イフリー大陸とノムー大陸は、言ってしまえば仲が悪い。そんな所に爆発人間がノムーに現れ派手に爆発したんだ。攻める理由には充分すぎる。
「吹っ掛けてきたのはイフリー側ッスよ。それに別に戦争しようってワケじゃなく───どうにもここのトップがおかしいんスよね。冒険者も似たような理由ッスよね?」
なるほど、似たような理由───って事はノムーもこっそりイフリーへ入って女帝に会って、多分、女帝を討伐するつもりだったんだろう。
表立って冒険者と騎士が協力していいものなのか......わたしレベルにはわからないが、理由なんていくらでも用意出来る。
「わたしは───わたし達は今からあの塔に仲間を探しにいく。邪魔すんなよ騎士共」
「仲間を......、、、そりゃ俺達と目的違いますし邪魔なんてしないッスよ」
さすがヒガシンだ。なら次に察して動くべきはヒガシン以外の騎士だけど......二人とも頭が堅そうだ。
「......ノムーとかイフリーとか、そんな小さい枠なんて今どうでもよくない? 街で爆発が起こって街の人達はこの通りだよ? 騎士ならまず一般人の安全を優先するのが仕事じゃないの?」
子供という立場を最大限に利用し、メティは “難しい話はわからない” 雰囲気を出しつつ痛い所を突いた。コレはナイスプレイだ。
国が違えば法律も違う。だが、命を優先するという点はどこも違いはない。実際イフリーの、デザリア軍は誰ひとりとしてここに現れていない。一般人を放置してるって事だ。そこへノムーのドメイライト騎士。騎士という正義感溢れる立場ならば一般人を放置しないだろう。それがイフリー民だとしても。
「......確かにそこの娘が言った通り、我々は騎士。イフリー大陸だろうとこの状況ならば一般人を助けるべきだろう」
「義務を放棄しているデザリア軍よりも我々の方が頼れる......いや、頼るべき相手を今イフリー民は失っている、と言った所か」
騎士Aと騎士Bがいい感じにハマってくれた。これでもう、ここは任せていいな。
「んじゃパニクってるコイツ等を任せたぜ騎士さん。わたし達冒険者は塔の中にいる仲間を探してくるけど───敵がいたら戦う事になる。そうなった時も考えて確りたのむぜ」
敵がいたら、ではなく、間違いなく敵はいる。
つまり騎士は一刻も速くここから一般人を避難させる必要があるって事をそれとなく伝え、わたし達は塔へ向かう。
大扉には門番さえいない。このまま突っ込み、無駄に広い塔内を脳死で上へ上へと登った。
「───!? 血の臭いがする。この先で誰か怪我してるよ」
「まぢかよメティ。そんな事までわかんのか」
予想外にもメティは独特な感知法を持っているらしく、血の臭いを可愛らしい鼻が拾った。しかし今の発言でだっぷーと千秋ちゃんの表情が一気に曇る。
「何が居るかわかんねーぞ、集中しろよ!」
2人へ言うように言葉を投げ、わたしは霧薔薇竜の剣と対魔竜の短剣を抜いた。
「メティ、水であの扉ぶっ壊せるか?」
「できるよ、やっていい?」
「やってやれ!」
別に壊す必要はないが、この扉の奥で何かが起こっているのは間違いない。ならば普通に扉を開けて入るよりも先制と牽制を兼ねてぶっ壊す方が効果的。
一応クゥに視線を送り「攻撃が来たら水を使って氷の盾を」を伝える。このフェンリルは天才的なヤツなのでわたしの意図を瞬時に理解し「クゥ!」と頷く。
豪水で扉だけではなく周囲の壁さえもぶち破り、わたし達は上層階の大部屋へ流れ込む。
「む? なんだ? 随分と騒がしいな」
「───カイトお!?」
「フィリ───だっぷー待て!!」
その部屋にはレッドキャップのフィリグリーと、床に倒れ夥しい血液を溢すカイトがいた。
「エミー離して! カイトが、あのままじゃカイトが!」
「待てって! アイツはヤバイ!」
恋人の元へ向かおうとするだっぷーをわたしは掴み止め、可能な限り素早く部屋の全体へと視線を走らせる。
破壊されたように吹き抜ける壁、その周辺には眼をそらしたくなるグチャグチャバラバラにされた死体、部屋中央にはフィリグリーと瀕死のカイト。
「......───テルくん!」
「っあァ! おい千秋ちゃん待てって! くっそ、クゥ!!」
バラバラに散らばるパーツはテルテルの身体らしく、よく見ると頭も転がっていた。そこへ無闇に駆寄ろうとする千秋ちゃんを止めるには手が足りないわたしは、クゥの名を叫び、フェンリルは素早く千秋ちゃんの足を凍らせる事に成功。強引だが確実な足止めに安堵したいが、そんな余裕は全くない。
レッドキャップがここにいる事自体が予想外だってのに、カイトの状態が非常にマズイ。そしてこの上には炎塵の女帝がいる......
「突然の地獄かよ......くそが」
よりにもよってフィリグリーがいるとは......最悪だぜ、くそ。




