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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【炎塵の女帝】
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◇導火線



 ウンディー大陸の洞窟内は粘度のある煙が足下を漂い絡まる。

 冒険者ランクE〜Bで組まれた集団レイドはこの洞窟を隅々までマッピングしつつ、最奥部に潜んでいるであろうボスモンスター討伐を試みている。

 クエストランクはCとされているが、マッピングだけならEランク程度、ボスが生息していた場合はD〜Cまで難易度が上昇するため、ランクがC扱いとなっている。こういった事を含めて、今回のクエストは調査クエストとしてCランク発注され、C以下の冒険者が同行する場合はレイド───最低16人───を義務付けられる。


 フォンがアップグレードした事でレイド......パーティ機能も変更され今は4人1組が1パーティの最大数と、以前より1パーティの上限は低下したがレイド関係での機能がアップしている。


 1パーティは最大4人。

 1レイドは最大40人。

 レイドは4つまでその現場に集める事が出来る。

 指揮者はレイド全体へ声を届ける事が可能となった。


 耳にはめるタイプのカムが以前より小型で軽量そして頑丈になり、何より音質なども上昇した。

 新たな機能も追加され、以前は “ほぼ使われていなかったアイテム” だったが今後は使われる機会が増えるだろう。

 ランクB以上の冒険者には無料提供される。

 正式名は【T-Ea4】という技能族テクニカらしい商品名というより型番のようなネーミング。それを耳に装備し、40名の冒険者は洞窟を手分けして調査していた。


 1チーム5パテのレイドで2チームが洞窟内を散策していると、Aチームのひとりが足下を這う粘度ある煙を気にする。


「この煙さっきからあるけど......嫌な感じ」


 重さは無いものの、足に纏わりつく───纏わりついている感覚もないが───鬱陶しさをついに無視出来なくなった。

 冷気や蒸気、または焚き火の煙のように、触れても感触さえない煙。しかし妙に濃く、その場に残る煙。


「......何かこの煙......温度で発生してる煙っていうより、小麦粉とかを吹いた時に似てない?」


 ひとりの冒険者が煙を近距離で観察し、その違いに違和感を濃く漂わせた。

 漂い消える軽い煙とは違い、ここに立ち込めているモノは重く残る、濃い煙。

 勿論、重さなどはないが......小麦粉など粉を吹いた時に発生する煙とよく似ている。


「煙も気になるけど、モンスターが全く見当たらないのも気にならない?」


 新たに発言した冒険者に対し、


「煙もモンスターもきっと先輩達が後輩を脅かすために仕込んだんだろ? だってこの洞窟、今まで一度もモンスター被害なんて聞いた事ないし......クエストランクも低いしさ」


 彼らの言う先輩は、生意気世代ディスオーダー問題児世代バッドアップルを指す。

 生意気世代はこんな事に時間を使うほど暇ではないだろうし、そもそもこんなイタズラを企む世代ではない。

 問題児世代は......忙しかろうとイタズラに対して乗り気かつ生き活きとした姿勢を見せる面々も多い印象。


「どっちでもいいだろ。そもそも冒険者って職業は実力と結果......実績が全てだろ? 歳も歴も関係ない世界で先輩とか後輩とか言ってる時点でおかしいぜ」


 フン、と鼻を鳴らし進むひとりの冒険者に連れられるように、全員が最奥部へ意識を向け一歩踏み込んだその時、目眩がする程の轟音、鼓膜に突き刺さる爆裂音が反響。音を認識した瞬間には既に視界はスパークする炎に潰され、常識外れの音圧が冒険者達を叩き飛ばした。


 音も炎も僅か2秒。

 たった、2秒。

 しかしAチームのメンバーは全員鼓膜を破壊され、度合いは違うが全員火傷を負っている。

 痛みに歯噛みする者もいれば、皮膚が焼き溶け泣き叫ぶ者もいる。しかし皆、鼓膜を破壊されているので何も聞こえない。

 音圧に飛ばされた事が幸となり、死者はゼロ。

 もちろんAチームの話だ。別ルートを進んでいたBチームの詳細は不明。


 鼓膜消失、火傷、骨折。これらの痛みに耐えながらも、ひとりの冒険者は耳に装備されたままの新型アイテム【T-Ea4】を間隔を開けず3回タップし、保っていた意識が途切れた。


『───どうしましたか? もしもし? もしもし?』


 冒険者達の耳にはユニオンのカウンターからの連絡が届いているが、誰も反応できず声だけが虚しく響いた。




◆◇──────◇◆




 天下無敵の冒険者エミリオ様が紹介した鍛冶屋で装備品をゲットした妖怪2人。

 ユニオンで冒険者登録、装備品の漁り───良さげなら購入───という目的は達成され、既に馬車でバリアリバルへ向かっている。

 鍛冶屋の2人はバリアリバルに用事もないし、もう少し店の事をやりたいって事でわかれた。


「店にいいものあったか?」


 手伝いの報酬で何かしらの装備品を、との事だったがシルキ勢の装備は知識皆無なわたしが見ても良品に思える。そんな連中の気を引く装備がどんなものだったのか気になるのは必然だろう。


「オイラは大剣をもらった。普段使うにしては危険すぎる大太刀の変わり......って気持ちで貰ったけど結構良さそう」


「俺は長杭と、これだ」


 あるふぁ は大剣。

 普段背負っている大太刀の【鬼殺し】だったか? あれはわたしが知る中で一番ヤバイ特性を持った武器だ。あるふぁも充分理解しているからこそ普段使う事を躊躇している印象。そこで大剣をチョイスしたと。デザインは和國産とは程遠いが、オーダー装備が完成するまでの繋ぎとしては文句なしだろう。


 そして、白蛇は、

 長杭───投擲ピックを沢山と、剣よりも短く短剣よりも長い中途半端なサイズの刀剣。【音楽家ユカ】が好んで使うスケールの武器を白蛇もチョイスしたとは驚きだ。こっちのデザインも和國産とは程遠いがシンプルなデザインなので違和感はあんまりない。


「いいじゃん。オーダーは通ったのか?」


「オイラは大太刀を作ってもらう事にしたから、今回はとりあえず武器だけ貰った」


「俺も同じだ。報酬も生産もとりあえず武器」


「もったいねーな、防具も一緒に依頼───お? 通話だ」


 武具トークに花を咲かせようとした手前でフォンが通話をキャッチ。相手は───


「へい、どうしたワタポ」


 冒険者で一番付き合いが長いワタポだ。


『エミちゃ今どこにいるの!?』


「今? 平原で馬車ってる」


『平原で馬車だって、どこに向かってるのか聞いてみる!?』


「......?」


 今のは多分、近くにいる誰かとの会話だろう。心なしか騒がしい雰囲気が伝わる。


『───エミリオ! セツカです!』


「おう、元気か!」


『今ひぃたろが貴女のフォンへアイテムを送ります! きっとエミリオのフォンポーチにも同じモノがあると思いますので、それをひぃたろに送ってください! それと、同行しているお2人にも、ひぃたろから届いくアイテムを渡してください!』


「おう? わかった」


 騒がしい、でなく、焦りだ。セッカの声は焦り色に染まっていて、きっと何かあったんだろう。そして、わたしに通話を飛ばしてきたという事は、


「セッカ、わたしは何をすればいい? 説明は後で、目的だけ言ってくれ」


 何かしらの依頼......と言えば大袈裟にも思えるが用事があったからこそわたしへ通話を飛ばしてきたんだろう。外にいる可能性に賭け、現に外にいたからこそワタポからセッカに変わったんだ。


長蛇ちょうだの洞窟へ向かってください! 馬車主に言えばきっとわかります!』


「おっけ───おっちゃん! チョーダの洞窟に今から向かってくれ! 女王の命令だぜ!」


 叫び、馬車のおっちゃんへ親指を立てると、おっちゃんも背中を向けたまま親指を。格好つけんなよおっちゃん。


『エミリオ! その洞窟で先程、爆発が発生し調査クエストを行っていたレイドパーティが巻き込まれました。怪我人は20名、死者は......20名です』


 爆発? 20人......死んだ?


「───、、、それでわたしは何を?」


『こちらからも冒険者を送りますが、緊急クエストに出ているメンバーが多いので、大勢は送れません......ですので、今エミリオと一緒にいる方々にも依頼します。長蛇の洞窟で何が起こったのか調べてください。エミリオへの報酬は追々、一緒にいる方への報酬は......とりあえずランクBまで引き上げます』


「多分おっけーだろ、任せろ」


『ひぃたろから届いたアイテムを必ず装備してくださいね! ではまた!』


 忙しく通話を切られた。

 とりあえず、ひぃたろ(ハロルド)から届く謎のアイテムを探しつつ2人へ、


「ウチの女王様からクエストで、2人もご指名だ。クリア報酬は冒険者ランクをBまで引き上げる、だそうだぜ。どうよ?」


「内容次第かな、と言いたいけど、何だか急ぎっぽいね。オイラはいいよ」


「冒険者ランクを手っ取り早く上げたかったし、丁度いい」


 2人は即返事をくれた。さすがは長年内戦していた和國勢、雰囲気を読み予想するスキルは凄まじい。


「......T-Ea4ってイヤカムの進化系か! なになに......」


【件名 簡単に説明する】

 どうせフォンポーチみてないでしょう。ポーチに同じの入ってるならそれをこっちに送って。

 今送ったやつはユニオンへ接続設定を済ませてあるから耳につけて、3回間隔を開けず叩いて。

 2人の分はセッカのポケットマネーかららしいわ感謝しなさい。


 とのメッセージとアイテムが人数分。

 わたしは言われるがまま自分のポーチを確認し、NEWの欄にある新品を半妖精へ送り、2人へアイテムを渡し耳に装備した。


「間隔をあけず3回......」


『───こちらユニオンカウンターです、エミリオ様ですか?』


「おう、元気か?」


『繋がりました!』



 何だ何だ?


「帽子のお嬢ちゃん、長蛇の洞窟にもうすぐ到着するが、馬がびびっちまって進めそうにねぇ。悪いけどここまででいいか?」


「あ? おう、サンキューなおっちゃん! 降りるぜ」


 馬車から飛び降り、わたしは馬車主へ「代金はセツカ様からふんだくってくれ」と伝え馬車を見送った。




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