◇4
本物の冒険者アスランと出会い、本物の冒険者が受注するクエストに同行させてもらい、危険すぎるモンスターや恐ろしく強い騎士、その全てがわたしの胸を刺激した。眼に映る世界が狭いと思った事はない。しかしわたしの知らない世界が、もっとずっと広がっているのだと思うと見たくて見たくて、見るまで満足出来ない。
この世界に来てからわたしへ良くしてくれたドメイライトでレストランを経営している奥さんへ旅立つ事を伝え、この街を後にした。
未練なんてものはない。また来ればいいし、今はとにかく前しか見れないモード。そんなわたし、本物の冒険者になりたいエミリオさんは焦る事なく馬車に乗れた。冒険が始まる!と高ぶる心のわたしは乗るや否や先客達と会話をし、旅行気分でワイワイ騒いでいた所だ。
車内にはわたしを含めて4名、貴族と思われる風貌の男女は夫婦だろうか....貴族の女性はどうしてこう、謎の美を持っているのか。たまに、アンタは茹でタマゴですか?と言いたくなる様な貴族もいるが今馬車に乗っている女性貴族は綺麗な鼻筋に形のいい唇を持つ美女。男性貴族は気前が良さそうなおっさん。髭が妙に貴族感を強めるが、ドメイライトでよく眼にする性格地雷な貴族とは真逆とも思える2人。
そしてもう1人は金髪で前髪が逆立てたニワトリヘアーな男。バリバリの騎士装備なので間違いなく騎士だろう。シールドにライオンのマーク....これはドメイライト王国の騎士の印。しかしまぁ....ダサい髪型だ。騎士服も襟がだらりと疲れていて、こんなのが騎士だとは....。そしてそして、チャーミングなアイスブルーの髪を持つプリティーなエミリオちゃんが馬車に乗っている。
貴族に騎士に冒険者。決してお世辞にも関係がいい立場とは言えないが、馬車内は大いに盛り上がる。
「ほぉ!それでキミはドメイライトから旅立ったワケか。冒険者....過酷な道だろう。しかし何事も経験し知ってゆくのだ。そうすれば明日が見える!フハハハハ!」
グラスに少量入ってる赤ワインを揺らし豪快に笑う貴族のおっちゃん。貴族特有の偉そうな感じが全くなく、人生の先輩感は半端ないが話しやすく、わたしの中の貴族の印象を変えてくれる存在ではある。隣の女貴族も上品だが、とても話しやすい。
「冒険者か、楽しそうだな。俺は騎士になったけど冒険者も悪くないな」
と、普通にさらりと会話に参加し冒険者いいね!をするニワトリ騎士。騎士と冒険者は仲が悪いイメージだったがそうでもないのか?それにコイツ、軽い口調で貴族と会話してるし貴族は騎士より偉い感じしてたけども....そうでもないの?まぁどうでもいいや。
わたしは女性貴族がくれたブドウジュースをひとクチ飲み、貴族のおっちゃんへ質問をぶつけた。
「おっちゃん貴族しょ?貴族って普段なにやってんの?」
「おっちゃんときたか!フハハハハ!ワシはワインを造って各国の貴族に販売している。キミも大人になったら売ってあげよう、ワシのワインは美味いぞ」
確かにこのブドウジュースもいい香りがする。このブドウを原料にワインを作っていると見て間違いないだろう。しかし貴族ワインは眼がバグる程のお値段だろうに....酒をゴクゴク呑める年齢だが、わたしには一生買える気しないぜ。
「大人になったら、か。わたしもう大人なんだけどね。で、騎士は何してるの?ワイン夫妻の護衛?」
ニワトリ騎士に会話相手をチェンジし、わたしはワイン夫妻との会話を一旦終わらせた。大人ならば呑まなきゃ損!みたいな流れになってみろ、財布が爆発するに違いない。ここは貴族ではなく騎士をターゲットにすべきと脳がわたしへ命令した。ニワトリ騎士はパンを片手にわたしの質問へ応答する。
「いや、俺は隊とはぐれたから馬車で “ポルアー村” を目指してる所だ」
【ポルアー村】
確かドメイライトから一番近い村で....えっと、それしか情報しらないや。
ポルアー村か。考えてみると【ウンディー大陸】にある冒険者やギルドの街【バリアリバル】までどう進めばいいのかわたしは知らない。ここは一旦、ポルアー村で情報を集めつつクエストがあれば受注して稼ぎたい所だが....この騎士が向かっているという事はその村に隊が数日滞在しているという事か。もしかするとポルアー村に派遣された騎士かもしれない。それならば数日滞在ではなくずっと居る事になる。ドメイライトでもクエスト受注の時、ウルサイ騎士に見つかると色々面倒だったしポルアー村に行くか迷うな。ニワトリ騎士だけなら問題ないが、他の騎士がこんな性格とは限らない、いや、むしろこのニワトリがレアな性格だ。冒険者と聞いただけで騎士はガーガーうるさく、貴族と聞けばスリスリと好感度上げに勤しむ。まぁ....もう空がオレンジ色に染まり始めているし、クエストは諦めるとして、村の宿屋に泊まる事にしよう。
「わたしもポルアー村で今日は休もうかな。てか何で村に行くの?本部はドメイライトっしょ?」
それとなく、他の騎士も村に居るのか探る作戦を決行したわたしは言葉を選びつつニワトリから情報を引き出してやろうと企む。冒険者たるもの、相手から情報のひとつやふたつ抜き取れなくてどうする。
「あー、今任務中なんだよ。で、隊とはぐれたから任務時の拠点であるポルアー村に戻って隊を待とうかなって」
「迷子かよ、だっせー騎士だな」
残りのパンをクチへ運ぶニワトリ騎士へわたしは一言いい、会話をやめた。任務とやらの内容が気になったものの、コイツは妙にスラスラ返事するが大事な部分は言わなそうな性格だし変に警戒されると村で行動し辛くなる。わたしは【情報屋】になるのは無理だな。隊とやらの人数を知りたい所だが、それも下手に踏み込めない。村を拠点に選んでいる事から4~8人の小隊だろうか....ま、着いてみればわかる事だし今は窓から見える夕暮れ空と平原を楽しもうではないか。
───落ち着いて考えてみると今日1日で色々な事があった。
起きて準備してクエスト。ここまでは平凡な日常だったが、そのクエスト先でモンスターに追われているアスランを見かけ、好奇心なのか何なのか、絡みに行ったら平凡な日常がガラリ変わった。
森でマウスフラワーと戦った時は久しぶりにドキドキハラハラ、乱入してきた【デザリア】の騎士にも驚いたが、その中の隊長【ハク】は凄かった。クイーンを1人で、それも楽々と倒したあの実力も凄いが、戦闘慣れに驚いた。毎日の様に危険なモンスターと戦っているからこその余裕だろうか。近接戦闘が苦手なわたしは味わった事のない感覚だろうに。
冒険者、危険なモンスター、他大陸の騎士....。もっと色々な事を見て、聞いて、感じて、もっと知りたい。そう思ったわたしはドメイライトから出て馬車に乗り、今夕焼けの平原を眺めている───本当濃い1日だった。
ポルアー村までは後どれくらいなのか....多分もうすぐだろうけど、馬車の心地良い揺れと、何とも言えない夕暮れの平原はわたしに睡眠デバフをかけた。
◆
───エミリオ。
誰かがわたしの名前を呼び、揺らす。もう少し、あと10分寝かせて。
───は?今日は魔術の勝負するって約束したでしょ!
「んん....もう少し寝かせてくれよ、ダプネ」
「なに言ってるんだ!起きなお嬢ちゃん!」
「...、んが?」
わたしは妙ちくりんな声と同時に眼を覚ました。ぼんやりする視界をリセットする様にまだたきし、頭をハッキリさせる。すると知らないおじさんがわたしを心配そうに見る。確かこのおじさんは馬車の持ち主だったか....起こしてくれたのはこの人か。強張った身体を伸ばし、1度大きなアクビをして窓に眼を向けると、そこはまだ平原だった。
「~~~ッ....おじさんここどこ?ポルアー村は?」
右を見ても左を見てもオレンジ色に染まる平原。それに寝る前までは乗っていた貴族と騎士がいない。どこで降りたんだろうか?
「お嬢ちゃん話は後だ!早く降りて逃げなさい!」
「おう?」
馬車主のおじさんは真面目な顔でわたしへ逃げろと言う。一体なにから逃げろと?そもそもここはどこなんだ?
わたしは帽子を被り直し馬車から降りてみると、数十メートル先でうねる影に言葉を失った。
影の正体は濡れている様にテカテカしているオレンジ色の巨大なムカデ。真っ赤に染まる夕暮れ空が更にキモさを底上げする昆虫モンスター。寝起きでこんな気持ち悪いモンスターを見てしまうとは最悪なんてレベルじゃない。
「お嬢ちゃん!騎士さんが相手してくれているうちに早く離れるんだ!」
先程より大きな声で言う馬車主の表情は焦りと言うのか、とにかく迫力がある。わたしは手のひらを馬車主へ見せる様にし、大丈夫の合図をして、もう1度ムカデの方を見る。するとニワトリ頭の騎士が1人で巨大ムカデの相手をしていた。1人でどうにかなる相手ではないだろう....しかし、ここはニワトリ騎士の勇気ある行動に感謝し、わたしもAGI全開の全力逃走をさせてもらう!と思った最中、ニワトリ騎士が巨大ムカデに、面白い程高く打ち上げられた。
長い胴体をムチの様に使い攻撃するムカデ。うじゃうじゃウネウネの足がまたキモいキモい。平原の地面を這う様に移動、騎士が落下する地点で停止し、身体を起こし顎を開いてニワトリを捕食するスタイルに。何してもキモいな。しかしまぁ、あんなのに食べられたら騎士も死にきれないだろう。それに騎士に借りを作っておくのも悪くない。
わたしはニヤリと笑い魔術を詠唱、落下中の騎士を狙って風属性魔術を弱めに放った。少なからずダメージはあるが喰われるよりはいいだろう。緑の魔方陣が展開され、風の刃が平原を走り騎士の鎧を叩く。数十メートル離れた位置から放った魔術は【ウインドカッター】というファイアボール同様に超初級魔術のひとつ。風魔術は距離を開ければ速度と威力が増すので弱めに放ち、最小限のダメージでニワトリ騎士をムカデから救い出す事に楽々成功した。
「おーい!大丈夫かー!?」
ウインドカッターで吹っ飛んだニワトリ騎士がちょっと心配になり、安否の確認と申し訳ない気持ちを込めてわたしは声をかけてみた。すると騎士は手を上げて反応したので、大丈夫なのだろう。しっかし....今のでムカデさんはわたしをターゲットに選んでしまった。最悪すぎるぜ....あんなウジャウネが地を這って近付いてくるのを想像しただけでも吐き気がする。何よりムカデを愛している知り合いの顔がちらつくのがヘイトをマッハで上げてくれる。黙って逃げいてればよかったと本気で後悔していると、後ろから迫る複数の足音が聞こえてきた。
眼の前にモンスターがいて自分をターゲットにしている状態で後ろを見るなんて、命知らずがする行動だとわかっていても、わたしはあっさり振り向いてしまった。振り向くと同時に大きな影がわたしを飛び越えた。人間ではないだろう。時間にして1秒程なのだか体感は3、4秒の様に思える感覚だった。飛び越えた、と気付きすぐに首をムカデの方向へ戻すとやっと足音の主を確認する事ができた。
夕焼け色に染まる平原に立つ影。馬よりもの少し大きい───犬か?いや、オオカミなのか?そのオオカミの背中に乗る人影は1つ。その気になればあと2、3人は乗れるだろう。
「ここに居たんだね、ヒガシン」
オオカミに乗っていた人影はニワトリ騎士を見て【ヒガシン】と呼んだ事から間違いなく騎士だろう。それよりも驚いたのはその騎士が女性騎士だったという事だ。よく見ると長い髪を束ねていし。
「ヒロ隊長!ナイスタイミングっす!」
なんとなんと、オオカミ使いの女性騎士は “隊長” だった。オオカミにニワトリ、隊長の髪はポニーテールか....アニマル騎士隊なのか?
まぁ何にせよムカデのターゲットは確実にオオカミだろうし助かった。こんな綺麗な夕焼け空の下で、あんな気持ち悪いムカデと戦うのはゴメンだ。あとは騎士に任せて見学させてもらおう。恐らくあの隊長の隊、アニマル騎士団が村を拠点にしている隊だろうし、戦闘を見ておいて損はない。
「はぐれたと思ったら任務のターゲットを発見とは、さすがヒガシン!」
ほう、今回の任務は討伐系だったのね。あのムカデがターゲットとは....何ともダルそうな任務だ。討伐任務で隊とはぐれてしまうとか───騎士ヒガシンよ、怖かっただろうに。
アニマル騎士団 隊長の【ヒロ】はゆっくりオオカミの背から降り、オオカミの頭を撫でる余裕を見せた。ムカデはその余裕にプライドが反応したのか ギイィィ と歯を鳴らしヒロへ一気に詰め寄る。地面を這う姿は想像以上に気持ち悪く、波打つ様に足を動かしクネクネと前進する。10メートルは無いと思うがそれ程長く大きなムカデだが巨体に似合わない俊敏な動きでヒロへ近付き、ひと噛みする作戦なのだろう。前身を上げ大きな顎を開きヒロへ一気に喰いかかる。
ヒロは焦る素振りを見せず左腰にある剣へ手を伸ばし、左手で鞘を掴み、右手で柄を確り握った瞬間、隊長の空気が変わった。
正直、騎士の隊長にしてのオーラ、雰囲気がない人物だと思っていたが剣に手を伸ばした瞬間、彼女から出るオーラは濃く巨大ムカデは一瞬怯んだ。
「───セイッ!」
短い気合いと共に鞘を走った剣は心地良い音を平原に響かせ、巨大ムカデの前身は空中に撥ねた。抜刀と同時に攻撃する剣技───抜刀術だったかな?全っ然見えなかったけども....。これが隊長クラスの実力か。こんな実力者が、これ以上の実力者がまだ沢山この世界にいると思うと───ワクワクする!
隊長は剣を鞘に戻すと雰囲気も収まり、なんというか....ホワンとした女性に。武器を持った時に性格変わるタイプか....ヤバイヤツだな隊長ヒロ。
「よし、終わり。ヒガシンはこのままあの馬車で村まで来てね」
ヒロはそう言うとまたオオカミの背中に乗り、わたしの方を見てにっこりと笑い平原を駆け抜けた。普段のヒロは戦闘中とは全然違う、ほんわか、ふわふわとした雰囲気なのか。
「さっきは助かった、ありがとう」
「ん?あー、気にするな」
ニワトリ騎士に礼を言われたが、何の事か思い出すのに少々時間がかかったのはムカデを一撃で葬った女騎士のインパクトが強かったからだろう。ニワトリヒガシンも馬車に乗るらしく、わたしも一緒に馬車へ向かい、ポルアー村まで送ってもらう。
空も落ち着いた色になり、月が顔を出し濃い1日がやっと終わろうとしていた頃、馬車はポルアー村の前で停止。
「騎士さん、お嬢ちゃん、ここがポルアー村だよ。俺はこの先まで馬車を走らせるから、ここまででいいかい?」
「うん、ありがと!」
わたしはそう答え、フォンを取り出し馬車料金を払おうとすると、おじさんが「さっきは助かったから今回はタダでいい」と言ってくれた。正直わたしは何もしていないが、そう言うなら全力で甘えるのがエミリオさんのいい所だ。わたしはお礼を言い馬車を降りた。平原の空気は夜の香りがして、なんだか不思議な気持ちになる。知っている大陸の知っている平原だが、知らない景色。ドメイライト付近しか出歩いてなかったわたしには、ここは既に知らない平原とも言える。
「んし、ポルアー村まで行こうぜニワトリ」
わたしは騎士ヒガシンへそう呟き、ポルアー村へ足を進めようとした瞬間───
「そこの青髪の女!止まれ!」
張りのある声が響き渡り、鉄が擦れる音....鎧装備の者が動く時に鳴る音が聞こえた。指名されたのは間違いなくわたしだ。ニワトリ騎士の髪色は金色でわたしと騎士以外誰もいない。声が聞こえた方向を見るとやはり騎士が、それも数名。
「助けてもらったのに悪い。でも君に変な疑いがあるんだ。今はおとなしく捕まってくれないか?」
ニワトリ騎士は申し訳なさそうに小声でそう言い、騎士の方へ少し歩き、振り返り強く抜く。
「デザリア王国の騎士と森で会っていたのはお前だな?敵国へ情報を流した疑いがある。拘束しろ」
「は?なにそれ!?意味解んないんだけど!....ちょ、やめろ!バカ!」
ニワトリ騎士が命令すると、他の騎士が一斉にわたしの方へ。わたしの言葉には耳を傾けず、暴れてやろうか迷ったものの、ここで問題を起こすのはうまくない。わたしはおとなしく拘束される事を選んだ。もちろん内心は荒れ狂っていたが。
◆
なんなんだ!一体わたしが何をした!?と、心の中で叫び荒れ狂う。 実際に叫んでも問題ないのだが、今わたしが居る場所はポルアー村にある騎士の拠点テント。誰もいないし叫んでも虚しいだけ。まだ拘束されているし最悪だ。馬車がポルアー村前に到着し、いざ!と意気込んで足を進めると騎士に逮捕された。なんて笑い話みたいな状況だ。
わたしが敵国に情報を流した疑い?騎士が何でポルアー村を拠点にしているのかも聞き出せないわたしが、重要っぽい情報を持ってるワケないだろ!くっそ!イライラしてきた。
「....情報ってなんだよ!わたしが何の情報を流したんだよ!?バカ騎士、なんとな言えよ!頭バグってんじゃないの!?」
「───まぁ落ち着いて。飯まだだろ?持ってきてやったぞ」
叫びのタイミングでごはんを持って来たのはニワトリ騎士のヒガシン。だっせートサカを今すぐ引っこ抜いてやりたいが、手は使えない。今回は見逃してやる───でも、
「ハラヘッタ、手使えない。タベサセテ、役目でしょ?」
わたしの言葉に一瞬固まったが、やはり優しいニワトリはパンを小さくちぎりわたしのクチへ。この瞬間を逃すと2度とチャンスは訪れないだろう。そして、わたしはこの瞬間を逃す雑魚ではない。巨大ムカデも驚くくらい大きくクチを開き、わたしは一気にニワトリ騎士の指へ噛みついた。首を絞められたニワトリみたいな奇声をあげるヒガシン。こりゃ大ダメージだ。やってやったぜ。
只今噛み付き中、にテントへ乱入してきた騎士達は躊躇なく剣を抜きわたしへ向ける。
「はいはいはいはい、やめますよ。なんだよすぐ剣に手伸ばしてバカなの?」
クチを尖らせバカにした顔で言うと、騎士様のお高いプライドを逆撫でしてしまったのか「調子に乗るなよ!」と叫び騎士様は剣を降り下ろしてきた。多分凄腕冒険者ならばここで敵の斬撃を利用し、手の拘束やらを切るのだろうけど、わたしには無理。
何も考えず挑発してやべー状況に。
しかし降り下ろされた剣は硬い音を響かせ止まった。
「まてっての」
───おぉ!ヒガシン格好いいな。まてっての。とかクールに呟いて自分の剣で受け止める。騎士の真似か!やるな。
「ホントにやめなさい。さ、出てって」
そう言い入ってきたのは隊長ヒロ。
やっと隊長のお出ましか....コイツの指はどう噛んでやろうか。
指噛み作戦を考えているとヒロは迷う事なくわたしへ近付き、拘束を解いてくれた。
「───暴れるよ?いいの?」
「それなら拘束時にやってるでしょ?話を聞かせて」
───けっ、なんだこの騎士。隊長という名の余裕か?
なんかムカついたわたしは本当にに暴れてやろうと思ったが、地面にドスッ、っと鞘のまま剣を突き立て隊長は笑った。うん、暴れるの中止!話をしよう話を。
「ってか、話も何もさ...」
わたしは今日あった事をそのまま話した。安っぽいパンと薄味のスープを食べながら根掘り葉掘り。ヒロ隊長は顎に手をおき只今考え中...のポーズで話を黙って聞き、話が終わると数秒フリーズしてクチを開いた。
「あなたがこの村に来た目的は、本当に休むため?」
「だーかーらー、そだってば!それとバリアリバルまでの道を調べて、ついでにおクエでもしてお金稼ごうかなーって思ってた。お前らこそムカデ倒したんだし帰れば?いつまでも村にいてウザイっての」
わたしの言葉を聞きヒロは立ち上がりテントを出た。数秒後戻ってきて森で見た騎士の事を更に詳しく聞いてきた。そんなにヤバイ状況なのか?ドメイライトとデザリアって...。わたしは思い出しつつ答えていると、テント外から隊長を呼ぶ声が届く。一旦話を止め再び外へ出るヒロ。何なんだ?話を聞きたいのか聞きたくないのか....しかし今度は先程よりも早くテントへ戻り、ヒロはすぐクチを開いた。
「大変申し訳ありませんでした。只今あなたのおっしゃっていた街のレストランへ連絡をした所、間違いなく住んで居たとの事で...大変申し訳ありませんでした」
なるほど、嘘かホントかの確認をする為にチョコチョコ外に出てた訳な。まぁこれで疑いが晴れるなら...いくない!いいわけあるか!わたしはここぞとばかりに偉そうな態度でクチを開いた。
「あっそ。んじゃ教えて。お前ら騎士は何をそんなに焦ってんの?何の情報がヤバイの?言わないと本部に文句言いに行くよ?本部までの道でも叫びながらね。ヒロって騎士は誤認逮捕したのに軽い謝罪で終わらせようとする最低なヤツですよーって」
「うぇぇ....っと....」
渋るヒロに変わり、乱入してきたニワトリがさらっと答える。
「焦ってるのは両国の関係が結構悪いから。流れちゃマズイ情報は あるモンスターの素材からいい武器が作れる。って情報。敵国がそんなの企んでたら黙ってないだろ普通」
「ちょっと、ヒガシン!」
「大丈夫っすよ、馬車で話したけどスパイとかそれ系じゃないですし、丁度いいじゃないすか?お金欲しいなら」
お金....ほほう。
戦闘力を上げる為の武器を作って敵国をビビらせる作戦は、だっせーしめんどくさそ。でも、わたしがその素材をゲットしちゃったら....国からお金を取れるって事だな?そうなれば話は別だ。戦争なんて勝手にやってくれ!お金はわたしが貰う!
「隊長さん、騎士としてじゃなく、ヒロさんとして冒険者さんにクエをお願いしてみない?みんなにはまだ罪が消えた訳じゃないから連れていくって適当に言ってさ」
こりゃ10....いや100万くらい絞れるぞ!なんせ国の事だからな!ここでガッポリ稼いでバリアリバルまでの道中ウハウハ大作戦だ!
テント内にある鏡がふと気になり眼を向けると、ゲスくニヤニヤした自分と眼が合った。