◇42
「エミリオ!上ばかり見ない!」
「わかってるってば!でもアイツ絶対...、ほら来た!」
わたしはハロルドへそう言い空高くから急降下してくる鳥型モンスター、前回の船旅で船を揺らしてわたしのノムーヨーグルトをぶちまけたグリフォンへマグーナフルーレを構えネフィラ戦でワタポがやっていた突撃系突き剣術 ラント を試す。
フルーレが無色光を纏うと同時にわたしは声を出す。
「ワタポ他お願い!」
「りょ!」
わたしをターゲットに迫り来る蜂モンスターをワタポに任せ、グリフォンの急降下に合わせて...、
「...今だ!」
フルーレを突き出す。
ギリギリ剣先がグリフォンにヒットし、悲鳴をあげグリフォンは消滅。
間髪入れずすぐに蜂モンスター、フォレストスピアーへターゲットを切り替え戦闘は続く。
◆
ケットシーの森に入って数十分が経過したのだが、どうも同じ所をグルグルと廻っている感じがしたので一旦止まりマップを開いていた所にモンスターが現れた。
グリフォンとフォレストスピアーが多めにわたし達へ襲い来る。
グリフォンばかりに気をとられているわたしへハロルドが「上ばかり見ない!」と渇を入れた。
そんなハロルドは...蜂を斬りグリフォンの攻撃を華麗なジャンプで回避し空中で身体を捻りグリフォンへ攻撃、着地時後ろにいる蜂へ攻撃し離れる。
ケットシーは1対多のプロらしいけど...ハロルド。キミも相当だぞ。
「エミちゃん余所見しちゃ危ないよ!」
プーの声に反応した時にはキモい程 近くに蜂が居た。
「やば」
回避体勢をとった時、炎が蜂を焼き払った。
「クゥ!ナイス!」
フェンリルモードのクゥが炎を吐き蜂を焼き消し、わたしは ナイス と言い近くの蜂を斬り裂く。
お互いに眼を配りフォローしあいつつ敵を倒す。これがパーティ戦闘のいい所。
戦闘は5分程続き、終了。
「エミリオ、多数戦闘の基本は出来てるみたいだけどまだ甘いわね」
ぐ...
「1体に集中しないで全体に意識を広げつつ、変化や動きに反応するといいよー!」
ぐぐ...
「...クゥー..」
ぐぐぐ...
「まぁでも 最初に比べたら凄く良くなってるとワタシは思うよ!ナイスエミちゃ」
ワタポー!やっぱり味方はワタポだけだ!
半妖と狐と犬は完全わたしをバカにした眼だ。心の中じゃ「けっ、使えねー女だ。次の戦闘ではエサ決定だな」とか思ってるに違いない。
「...それにしても、本当に同じ所を廻っていたみたいね」
剣を腰の鞘へ納めプーのフォンを覗き言うハロルド。
やはり迷っていたか...。
「でも道はここしかないよね?迷いの森?何か仕掛けがあってそれを攻略しなきゃ先には進めない!とか!?」
「まぢ!?それは冒険だー!やるぞプー!」
やる気の温度が上昇するわたしとプーへワタポが言う。
「仕掛け...って言うか、魔術?みたいなモノかな?」
「「魔術??」」
「そうね、世界樹は臆病な性格で高い魔力を持つ樹木。その魔力でこの森に入った者へ幻を見せる魔術をかけている様ね。ほらあの木」
ハロルドが指さす木がモワモワと揺れ歪んでいる。
「あの木は幻樹と呼ばれてる木で強い魔法耐性を持つ。葉は魔封薬になるのよ」
「「 ほぉ~! 」」
さすがエルフだ。
木や草の種類を熟知している。薬草や薬品までも知っているとは...森で薬草や木の実を探すから鼻がいいのか。クゥみたい。
「...で?」
「....はぁ。魔法耐性の高い幻樹が反応してるって事は魔術、それも対象はこの範囲全体」
「まぢ!?それヤバイよ!先進めないじゃん!どうすんの!?」
「だからそれを今から話す所なのにアナタが話について来てないんでしょエミリオ!」
え、わたしだけ?絶対この金色も話についてきてなかったしょ!?
「エミちゃん話は聞かないとね、わかった?」
この女!!あっさりわたしを切り捨てたぞ!
ほんと狐だ、化け狐だ。
「話を続けるわね...、この魔術を解かない限り私達は先に進めない。それでエミリオ」
え、またわたし?
何か最近わたしばっかり怒られる気がする。なんなのみんなして。
いつか仕返ししてやる。と心に決め説教聞き流しモードへ入った。しかしハロルドが言った言葉は説教等ではなかった。
「魔女として見て、この魔術を打ち消す方法はある?」
「!?.....フッフッフ、仕方ない。どれどれ このわたしが見てやろう」
時代が来た!エミリオ様の時代が!
全く、手のかかるメンバーだぜ。
わたしは辺りを見渡しつつ微量の魔力を感じとる。
魔女であるわたしは魔力感知能力が他の種族よりもずば抜けている。魔術に関する知識もだ。しかし戦闘やら移動、説教聞き流しモードで魔女スイッチを完全に切っていた。
幼いわたしは治癒術の知識は必要ないと決め勉強せずただ魔術だけを勉強、魔術の知識だけを貪り吸い尽くした。
この揺れる様な魔力は確かに幻術、幻想、幻影 系の魔術。この手の魔術は何かきっかけがあれば簡単に解けるか、時間が来れば自然と無くなる。
「どう?エミちゃ いけそう?」
「...、うん、余裕だね!」
ワタポへそう答えわたしは道では無い茂みの方へ歩いた。
そしてその茂みと道の境界線を軽く叩いた。叩いたと言っても手に魔力を少し集めてだ。
すると薄いガラスが割れる様に何かが砕けてわたしの前に道が現れる。
「「おぉー!!」」
「魔女も捨てたものじゃないわね」
「ちょ、そこは よくやったわ。くらい欲しかったよハロルドさん」
「よくやったわ」
「あい、あざす」
世界樹がかけていた魔術を打ち消し現れた道へわたし達は進んだ。
◆
道の先にすぐ[猫族の里 シケット]があるワケでもなく、変わらない木々の景色に飽き飽きしていた。
道に迷う等は無いが、こうも景色が変わらないとさすがに進んでいる気にはならない。
.....それより、さっきから聞こえるこの...ボリボリ、ボリボリという音はなんだ?
怪獣ボリボリでも近くにいるのか?...それらしい姿と気配は無いが...。
「エミ...ちゃん、何してる...の?」
プーがあの、何だったか...アイツみたいに変な句切り というか、間をおいて話しかけてきた。
「んや、さっきからボリボリ音聞こえるから、なんか...ほらまた!」
ボリボリボリボリ、、サクッ、ボリボリボリボリ....、
「聞こえ...る...ね!」
「でしょ?怪獣ボリボリとか居るんじゃない?」
「っ!、ゴホッ......、なにそれ怪獣ボリボリって!笑わせないでよエミちゃん!変なトコ入ったでしょー」
「変なトコ?なに言っ...ちょ プー!なんそれ!」
まさか怪獣ボリボリがこんな近くに居たとは予想外だった。
黄金色の毛を持ち、クチ元に粉くずをつけた怪獣ボリボリプンプン。缶を大事に抱えている。
「なんそれ って、船で買ったチョコチップクッキーだよ」
ボリボリと聞こえた音はクッキーを食べていた音で、サクッと聞こえたのはクッキーを噛んだ時の音。
「怪獣ボリボリかと思ったじゃんか!てかそれいいな、ちょーだい」
「やだ」
「ちょー だい!」
「や だ!」
「...ワタポ」
「...ひぃちゃん」
「...エミリオはいつもアレ?」
「...プンちゃはいつもアレ?」
「「 ....うん 」」
わたし達は順調?にケットシーの森を攻略していた。
◆
何とかチョコチップクッキーを手にしたわたしはその素朴な味を楽しんでいた。
こんな素敵なモノを隠していたとはプーも中々の性格だ。
「.....」
じとっとした眼でわたしを見続けたプーは何か言いたそうだが、ここはこちらから話しかけない方がいいだろう。
「.....」
「...、さっきからなに!?そんなジトォーっとした眼でさ!」
「今度エミちゃんがクッキー買ってよね!」
「わかったよ!悪かったってば!」
「ってば!って謝ったの今がはじめてじゃん!」
「なにさ!独り占めしてる方が悪いんだよ!」
「独り占めって、コレ ボクが買ったクッキーじゃん!」
「じゃんじゃんうるさい!ジャンジャン星人かよ!」
「「...2人ともうるさい!」」
「「!?...」」
((2人の方がうるさいじゃん))
「もぉ、エミちゃもプンちゃもそんな事で喧嘩しないで!近くにモンスターがいたらどうす....? ひぃちゃ今の」
説教を中断し辺りを見渡すワタポ、ハロルドも頷き同じ様にする。
何か聞こえた?何かの気配を感じた?
わたしとプーも遅れて警戒モードへ入ると、何かの音と気配の両方を感じた。
扇ぐ 様な音と大きな気配は徐々に近付いてくる。
突然わたし達の居る場所が暗くなり、音も気配もすぐそこまで...上だ!と全員が感じ見上げようとした時、突風がわたし達の動きを止めた。
そして先程と変わらない太陽の光がケットシーの森に降り注ぐ。
「何か飛んでたわね」
ポツリと呟くハロルド、それに同じ様に答えるワタポ。
「うん。凄く大きい何か...ん?...クゥ?」
クゥは道の先を睨み唸る。
わたしと喧嘩した時とは比べ物にならないレベルの唸りと睨み...この先に何か居るのか?
クゥが、フェンリルがここまで本気になった事への驚きと不安。
しかしこの先へは進まなければならない。
声を出さず眼で合図し、わたし達は走った。
すると広い空間が眼の前に...、
「あれ見て!」
プーの声でわたし達は上を見上げると巨大な鳥が こちらを見つめていた。
その鳥はゆっくり翼を広げ広場に降り立つ。
人間を掴み潰せる程 大きな足、人間を丸飲み出来る程大きなクチ....先程戦ったグリフォンも大型のモンスターだ。船を止められる程に。しかしコイツはレベルが違う。
「...貴様等もあの者達の仲間か!この森から出て行け!」
低くお腹に響く声で人語を吐き出した。
人語を使うドラゴンは存在するとよく聞くが、コイツはどう見ても鳥....、一体なんなんだ?何が起こっている?
「....アナタ、元は別の生き物だったわね?」
突然ハロルドがそう言うと巨大鳥は眼を細め答えた。
「貴様は人間ではないな...何者だ」
「ハーフエルフよ。アナタは人間...ね?」
「「「 人間!? 」」」
どこをどう見ても鳥にしか見えないが...人間!?
中に人間が入っていてわたし達を脅かしている...ワケでは無さそうだ。
「先に貴様等が答えろ、ここへ何をしに来た?」
「ちょ、先にってハロルド答えたじゃんか!ズルすんなよ焼きと...んぐ!?」
焼き鳥星人!と言おうとしたわたしのクチを叩いて封じるハロルド。もう少し優しくクチ封じ出来ないのか...。
「クエストを受注してここに来た冒険者よ。受注者はこの子、私達は同行者。アナタは?」
おいハロルド!ここでアイツが「クエスト?知らねぇなぁ」とか言ったらどうすんのさ!迷いましたテヘ。でいいじゃんか!今こそその美貌を最大限に使う時だろ!
「クエスト名を答えてみろ」
「太陽の産声」
クエスト名を聞いた巨大鳥は少し間を空け両眼を細めわたし達を睨む様に見て、やがて語り始めた。
「....。元々は人間だったと思う。しかし悪魔の力に執着した私はこの様な姿に、悪魔の力に呑み込まれた。今では人間の時の記憶も点々としている」
「悪魔の力...?」
聞き返すハロルドへ鳥ではなく、わたしが答える。
「ディア だね。あの鳥は人間時代にディアを使いまくってディアに喰われたんだよ。ディアって魔女語で悪魔って意味ね」
「その者の言う通りだ。覚えている記憶は自分が人間で鳥化するディアを持っていた事...それだけだ」
ディアは使えば使うだけその能力や精度が成長する。
能力にもよるが使えば使う程ディアに呑み込まれる。
呑み込まれた者は己を無くす。
使わなければ成長しない能力。しかし使えば使う程何かしらのリスクが返ってくる悪魔の能力。
この鳥はディアに依存して呑み込まれた例だ。
まだ記憶や自我を持っているからこうして会話できるが、点々とする記憶が無くなった時...言葉も失いモンスターと化す。
これがディアに執着し呑み込まれた者の末路。
コイツは変化系のディアだったからあんな姿になった。
その能力が働いている部分や能力で変化する部分が呑み込まれ劣化、あるいは戻らなくなる。
わたしのディアは同時詠唱...多重魔法だ。呑まれた場合は魔術が使えなくなる感じだろう と予想している。
まぁディアに執着、依存しなければ問題ないが便利すぎる能力を使わない方が難しい。
「それで...キミはどうしてここに? ボク達を...」
その先の言葉を飲み込むプー。それを聞き言いたい事を理解した巨大鳥は答える。
「クエストを受注したのは真実だろう。嘘だった場合はそうしていた。私はこの身体だ。翼を休めるには大きな木が必要でな...世界樹で休ませてもらっていたのだが数週間前にある者達がここを訪れ、私の力を持っても止める事が出来なかった」
「?...えっと、どういう事...ですか?」
恐る恐る聞き返すワタポ。巨大鳥が眼の前にいる時点で怖いのにそれが喋るときたらびびるなんてレベルではない。
「話は私ではなく 長から聞くといい。私の背に乗れ...猫族の里 シケットまで送り届けよう」
「「「「 !? 」」」」
それは有り難い話だけど、なんか罠臭い。かと言ってこれ以上話もない...どうすればいいのか。
巨大鳥もこっちの気持ちに気付いているが何も言って来ない。
「....。大丈夫、みんな乗ろう」
迷っているとワタポが言った。先程の怖がっていた瞳ではなく、強い光を持った瞳で。
「おけ、乗ろう」
「ちょっと、大丈夫なの!?」
「ボクもこんな事言いたくないけど...罠とかだったら終わりだよ?」
「大丈夫だよ。ワタポがそう言ってるんだし」
そう答え、わたしが最初に鳥の背へ乗った。
見た目は固そうに見えるが思ったより柔らかくて暖かい。
続いてワタポ、クゥが乗りそれを見ていたハロルドとプーが恐る恐る乗り、全員が乗った事を確認して翼を扇いだ。
太く低い音が静かな森へ響き、風が木々を揺らす。
強く翼を羽ばたかせると空高く上がる。
背から下を見るとケットシーの森が。わたし達の想像を遥かに越える規模の森。歩いて進んでいたら今日中どころか3日以上は森生活になっていただろう。
「ねぇ、あれ見て!」
風の音と音の間に入るワタポの声。
指さす先にあるのは...街?の様なものと、その街の上に青黒い空と厚い灰色の雲...青黒い空ではなく靄の様なモノか?
「あれが猫族の里 シケット だ。一気に飛ぶ 確り掴まれ」
言われた通り両手で背を掴むと低く耳を通る風の音と打ち上げられそうな程 全身を叩く暴風。それ等を切り捨てる様に速度は上がる。
最終目的地 猫族の里シケット へは思わぬ形で向かう事になったが早く到着できるのは嬉しい。
クエスト内容とあの靄は関係あるのか...それももうすぐ解る。




