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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【始まり】
4/759

◇3



グシューっと蒸気が漏れる様な音で唸る巨大な根蔓のモンスター。その周りに一回り程小さい同種モンスターが数体。中心にいるのは【クイーンマウスフラワー】その取り巻きが【マザーマウスフラワー】だ。

わたしは【小さな花石】を集めるため、暗めの赤色髪を持つアスランと共に枯れた森へ突入した。そこでキッズマウスを倒しキッズの体液の臭いでマザーを釣る作戦を決行したものの最悪な事態に。マウスフラワー界のボス、クイーンマウスが現れ、さらに取り巻きがマザーマウス。

最悪なんてレベルを越えている。キッズよりも遥かに危険なマザー。そしてそのマザーとは比べ物にならないクイーン。アスランは死んだな。と言ったが本当に死んでしまう確率か高いこの状況。とにかく相手の出方....動きを見極めなければ始まらない。


「マザーの攻撃はキッズと一緒や、範囲と威力が増加してるだけやね。クイーンは....見るの初めてやわ」


なるほど、マザーはキッズとほぼ同じ動きか。充分な距離を取れば問題なさそう。問題はクイーン。大きさと花以外は変わった所がない様に見えるが....なんか違いがあるんだろうな。

登場してからユサユサと左右に、小刻みに揺れるクイーン。大きくなりすぎてバランスがオカシイのか?と思っていると鼻の奥がツンと...。


「ブァッシュ!...ちくしょー!」


「うぉ!?びっくりたー、アスランうっさいなー....っぶな!」


アスランのくしゃみがバァッシュ!って....しかもその汚ない音にモンスターが反応し、マザーマウスが蔓で攻撃を仕掛けてきた。やる気も何も出ない開戦の合図だったがギリギリの所で蔓の回避に成功。

地面が数センチえぐれているのを見てわたし達も気持ちを切り替えざるを得ない。が、あんな蔓の鞭を受けたら身体があの地面同様、肉がえぐられて悲鳴モノだ。正直戦いたくない。


「なんやねんこの花粉!」


鼻水を出しながら怒り叫ぶアスラン。さっきからマウスフラワーを包み隠す様に舞う粉はクイーンの花粉か....もう吸ってしまったがくしゃみ程度で毒や麻痺といった状態異常はない様子だが、マウスフラワーを隠す程の量には正直やりづらい。いつ攻撃が飛んでくるか見極めるにはうっすら見える敵の姿に全集中力を....まてよ?

花粉....って燃えるじゃん!


わたしは即座に詠唱を始めた。仄かに赤いマナが湧き上がった瞬間、耳に届く言葉がわたしの止める。


「火はやめとけ、爆発してあっちもこっちも灰になっまう」


詠唱中に微量溢れるマナの色で属性を判断し、すぐ忠告してきたアスラン。わたしは詠唱を中断し、じゃあどうするのんだよ!と言おうとした時クイーンが叫ぶ。耳の奥にツンと刺さる音を合図にマザー達が一気に攻め込んでくる地獄。蔓の鞭でわたし達を狙い、体当たりでわたし達を狙い、涎でわたし達を狙う。

連続回避にも限界があり、斬ると臭いで仲間を呼ぶ。これ以上増えられると本当に詰むだろう....燃やせば体液を出さず処理できるが花粉が炎を封印している。完璧すぎる攻めにただ回避する事しか出来ないがそれも長くは続かない。集中力と体力が低下し始め頃、体当たりがわたしにヒットした。ダメージこそ、そこまででは無いが吹き飛ばされ立ち上がる時、次の攻撃の的にされる。

わたしは立ち上がる事をやめ、そのまま右に転がるスーパーな回避を見せた。


「アカンてエミリオ!」


アスランの声が届く前にわたしもそれを見た。回避の停止場所に落下してくる液体。これは間違いなくマザーのヨダレだろう。なんかジュワジュワと音を出してて、とても酸度が高そうですわ....ね。


「ですわねじゃねーよ!!」


わたしは謎の叫びを響かせるも、ドラゴン的な攻撃咆哮を持っているワケでもなく、酸のヨダレは落下してくる。もう無理だ、と思いわたしは眼をガッチリ閉じ、その時を待った。


痛いのか?溶けるなら熱いか?どんな感じなんだろ?ドロドロになる?シュワシュワして溶ける?こっわ!早く終われよ!いや嘘、やっぱり遅く!などの声が頭の中を廻り廻っていた時、地面を揺らす複数の振動と気配を感じ、両眼を開くと眼の前に知らない人が盾を構え、ジュウゥゥと熱っぽい音が。


「魔術隊は風魔法で花粉を飛ばせ!ランス隊は盾を使い1ヶ所にマウスフラワーを圧し集めろ!」


声が響き、そして色々な音が響く。何が何だかわならない状況でアスランが、


「アカン、俺は行く。金は後日な」


と言い草影へ消えた....。

何なんだよ!知らん人がマウスフラワーと戦ってるし、アスランどっか消えるし、お金手に入らないし、何だよコレ!くっそ!なんか色々腹立ってきた!わたしはすぐに立ち上がり戦闘でこの気持ちを爆発させようとするも、指示を出している男がわたしに言った。


「危険だ、そこにいろ」


先程の声の主と思われる黒髪の男。デカイ盾?の様な武器を背負っているが使う気が無いらしく腕を組んで戦闘を見ている。偉そうで生意気なヤツ。あんな風に威張ってるヤツは大体弱いヤツだ。わたしにはわかるぞ。なんか弱そうだし....雰囲気とか全体的に。


「隊長!マザーを集めました!」


「そのままランス隊は盾で囲み、魔術隊は炎で一掃しろ!クイーンは俺がやる」


そう言い残し隊長と呼ばれていた生意気なヤツはクイーンマウスフラワーを狙い走る。おいおい弱いのに大丈夫なのか!?頭がいいだけだろ!?実戦は思い通りに進まない方が多いぞ!?と思いつつ観察していると、クイーンはマザーよりも太い蔓の鞭で迎え撃つ。太く重い音とは裏腹に鋭く速い蔓の鞭。

部下っぽい連中は火属性魔術でマザーを一掃し終わっていた。


隊長は背中の武器に手を伸ばし、予想通り大きな盾を持つ。盾の後ろに剣が装備されているたのか、その剣を抜いた。右手に片刃の厚い剣、左手に大きな盾....まさか斬るつもりか?


隊長さんは迫る蔓を厚い剣ではなく、大きな盾で弾くように防御し、それで終わらず、盾突き時の僅かな衝撃をも殺さず身体を右に回す。そこでわたしは眼を疑った。男は盾の鞘に剣を戻して左手を手放した。右では剣を持つも鞘に収納された状態。その剣を大きく振ると盾が剣先部分までスライドし、音を立てて形を変えた。


「寝とけ」


片手で持っていた剣を両手で持ち、そして一気に振り下ろす。クイーンにヒットした時、謎の爆発がクイーンを襲い轟音と地面を揺らす衝撃が森に走る。爆発で土煙がたつ中、再びスライドする音と火花が見えた。クイーンマウスフラワーの姿はなかった。




まさかの乱入者により危機を回避したわたし。

正直何者なのかも解らないままその乱入者達は土煙と火薬の匂いを残し、何も言わず森の奥へ消えた。何が起こったのかも、誰なのかもわからずに終わった。

隊長やら隊やら言っていたし騎士だろうな。よく考えるとランス隊と呼ばれていた人達は騎士っぽいの鎧兜を装備していし魔術隊は騎士っぽいローブとダサい長帽子だったし。

あの生意気なヤツだけ武具が違った所を見ると、本当に隊長なのだろう。騎士は隊長レベルから防具が自由に選べるらしいし。まぁ騎士団でのオーダーメイド品なので騎士要素のない防具や無駄にキラキラした防御はダメだろうけど。武器は自由と聞いた事がある。


「アイツやるな」


「うん、なんか凄いヤツだったね...。 え?」


つい返事をしてしまったがこの声は!わたしは振り向くと、草影に消えたはずのアスランが偉そうに腕を組んで立っていた。 


「アスラン、お前逃げたろ!!」


「まぁ落ち着け。アイツ等がヤル。と野性的勘が叫んだんやて。だから譲ってやった。ドロは譲らんがな!ガハハハハハ!」



...まさかこの男、逃げ帰るフリをして今まであの草影でじっとしていたのか!?確かフォンのアイテム配分は、同じモンスターと戦い一定範囲内に居ればアイテム分配権利を与えられるが....わたしは眼を細めてじとっとした視線をアスランに浴びせた。


「まて、貴様も似た様なモンやろ!いや悪気がある分俺の方がまだ可愛いやろが!」


「は?!なにが可愛いだよ、くっそだな!くっそ!」


「貴様は堂々とドロ貰ってるやろ!俺様は悪い気持ちがあるから隠れて、アイツ等が緊張せずいつもの力を出せる様にだな」


「ふざけんな!あの後アイツ等がわたしに敵意を向けてきてたら絶対そのまま逃げてただろ!」


「そりゃな」


なんっなんだ!この男は何なんだ!

いい様に言っているが、この男こそ堂々とドロップを貰ってるんじゃないのか!?と叫び散らし荒れ狂いたい気持ちはあるものの、体力的余裕がない。意味のない言い合いより、目的のアイテムはドロップ出来たのか確認しよう。なんせ14000vだからな。

わたしがフォンを取り出すとアスランも同時にフォンを出し、操作。アイテムを確認する。


よく解らないアイテムをいくつかドロップしている中に目的のアイテム【小さな花石】はあった。数は2つ。確か必要数は6つ、アスランはどうだろうか。


「....花石が5つや、エミリオは?」


「2つ!集まったじゃん!」


お互いの花石を合わせて7つゲット。クエスト条件は達成される。アスランに花石を渡し、アスランのフォンを覗くと画面右上にビックリマークが出た。タップするとクエスト達成通知が出てくる。

クエスト内容と依頼人の名前、そして報酬が記入されていて、報告しますか?の文字も。アスランは迷わず報告をタップした。


「へぇーそれが冒険者のクエストかぁ」


冒険者のクエストを見るのは初めてで、つい言葉が漏れた。こんなクエストを毎日いくつも受注し攻略し、報告しているのか。


「少し経ったら報酬が....」


そこまで言うとアスランのフォンにまたビックリマークが出現した。先程は赤、今回は青のビックリマークだ。同じようにタップし開くと報酬が届いていた。

14000v と 優しい爪×10。

凄い....アイテムを集めて渡すお使い系のクエストでも直接クエスト主に渡す事なく、フォンがアイテムをマナ化し、それを届けてくれるのか。冒険者のクエストに感動していると約束通りアスランは14000vをわたしへ。


「そや、フレンドなっとこか」


お金を受け取り、フォンのお財布へ収納しているとアスランが呟いた。

多種多彩なフォン機能の1つ、フレンド。

お互いのフォンから出るマナを交換する事でフォンのフレンドリストに相手が登録される。フレンド登録した相手とはメッセージのやり取り、通話等々がスムーズに行える。


「おけ、いいクエストあったら教えてよアスラン」


わたしは答え、自分のフォンに近くのフォンを感知させ、フレンド希望を送った。恐らくアスランの画面にフレンド通知が届いているだろう。数秒後、わたしの画面に【フレンドリストが追加されました】と表示された。これでフレンド登録は終了。


「さて、俺はドメイライトから馬車に乗る。エミリオも戻るんやろ?」


「戻るよー!疲れたし」


目的地は同じドメイライト。森から街でダラダラと向かった。道中モンスターと遭遇する事もなく平和なモノだった。

馬車乗り場には誰も居ない、そして次の馬車が来るまで20分あるしわたしはやる事もないし、冒険者の話を聞きまくるチャンス!


「さっきのヤツ等、騎士やな」


と思ったわたしよりも先にアスランがクチを開いた。そしてさっきのヤツの話をしてきた。聞きたいのはそれやないで....。わたしはシクシクとした心境で、多分、と答えた。


「あの隊長、見た事あるわ。あの武器やし間違いない、確かイフリー大陸の....デザリアの騎士やわ」


「デザリアって、ドメイライトとあんまし仲良くない国っしょ?」


この世界には大陸が4つある。

【ドメイライト王】が管理する大陸がここ【ノムー大陸】と呼ばれ、

【デザリア王】が管理する大陸が【イフリー大陸】

その2つの中間にある大陸が【ウンディー大陸】で、この3つから離れた所にある【和國】が管理するの大陸が【シルキ大陸】と呼ばれる。

ノムー、イフリー、シルキ大陸は国王が管理しているが、ウンディー大陸だけは国王ではなく、ギルドが管理していて、首都は【バリアリバル】と呼ばれる街。


ノムー大陸とイフリー大陸の大きさはパッと見変わらないが数値等で出すとノムー大陸の方がほんの少し大きいらしく、世界一の大陸と呼ばれ、世界一大きな街ドメイライト王国がある。

ドメイライトとデザリアは数十年仲が悪いらしいが理由は知らない。

和國は3大陸にほぼ干渉しないので謎多き大陸。


ウンディー大陸はノムー、イフリー大陸に挟まれていて世界の中心に近い街がバリアリバル。この位置を最大に使ってなのかどの国に対してもギブアンドテイク。さすがギルドが管理しているだけはある。国ではないので色々難しそうだ。良く知らないけど。


で、その仲が悪い国の騎士がなぜドメイライトに?まさか戦争を仕掛けるために何か企んでいるのか?


「名前は確か...ハクや。あの武器はギミックウェポンとか言われとる武器で....おっ!?馬車が来たから話はまた今度や」


「なんだよ!いいとこだったのに!」


馬車の到着タイミングに文句を言いながらもアスランを見送る。またどっかで会える気もするしお金ゲットできたしギミックウェポンとか知らなくてもいいや。


「エミリオ」


「ん?なんだ?」


「冒険者やるんやったら、バリアリバル行ってみ。クエストわんさかあるで」


そう言い残し赤色髪のおっさんアスランは馬車に揺られて今度こそ消えた。アスランが言った【バリアリバル】はギルドが管理する大陸にある首都。世界中のギルド、冒険者が集まる街。世界の中心に最も近い街.....。


別にこのドメイライトに拘りはないし居座る理由もない。スバ抜けて住みやすい訳でもなく、ただ辿り着いたから寄生しているだけ。


今日冒険者のクエストに同行して凄くワクワクした。本当に死ぬかと思った。まぁ本気出す前に謎の騎士が乱入してきて終わったけども。

でも、その騎士の乱入も含めて、凄くワクワクした。

わたしの知らない世界が眼の前にあって、それもまだ入り口しか見ていない。


わたしもその世界に行きたい。もっと色々な事を見て、感じて、知りたい。あと、お金がいっぱい欲しい。


「バリアリバル行くか」


自分の性格は理解している。

欲しいと思ったら壊してでも手に入れなければ気が済まない。見たいと思った時もそうだ。見るまで気が済まない。


我ながらいい性格してるぜ。


思ったら我慢も出来ない性格で、街中を爆走し家に到着するや否や今あるアイテムや武具の確認をする。勿論お金も確認。必要ないアイテムは売るとして、武具は今使ってるフルーレと赤チェックのキャスケットに赤で袖口等が白のトップス、黒のホットパンツに黒ブーツ。

確か名前は【スカーレッドバイド】結構お気に入りだし他にどんな武具がいいかも知らないし、今はこれでいい。

家具もあんまりないのでこのまま置いていっていいか家主に聞いてみよう。

街にあるレストランの奥さんが家主。出発する前にちゃんと挨拶もしなきゃだな。



必要なアイテムをフォンやベルトのポーチに入れ、必要ないアイテムは街にある店に売った。そのお金を薬品類や食料に少し使い、家主の奥さんの元へ。昼も過ぎ店は一旦落ち着く時間帯だろうしタイミングはいい。ドアに手を伸ばしゆっくり押すと鈴の様な音が店内に響く。


「いらっしゃい」


すぐに奥さんの声が届く。高級でもなく、凄く綺麗と言うわけでもない店だが、街の人々は気に入っている様で常連客もつく程のレストラン。夫が趣味で始めたレストランらしいが、今じゃ奥さんの城と化している。


「やほー!」


「あら?エミちゃん、こんな時間に珍しいわね」


「うん、奥さんジュースちょーだい」


とりあえず、とりあえず飲み物を注文した。カウンターに座り奥さんが出してくれたオレンジジュースを一口飲む。コーラがいいと思ったが、毎回毎回コーラばかり頼むと奥さんがオレンジジュースを出してくる。今日はその日だった。

勢いで、考えなしに行動してしまったせいか、何をどう言えばいいのか全く思い浮かばない....毎度の事ながら計画性も何もない自分に呆れるぜ。


「エミちゃん今日はクエストしたのかい?どうだった?」


「お!聞きたい!?今日ね───」





オレンジジュースが無くなった頃、クエストの話も終わった。今日あった事を話すだけだったのにもう30分くらい経っただろう。コーヒーの香りが漂う店内でわたしはまた沈黙しそうになったが奥さんが言葉を繋いでくれた。


「そんな事があったのかい、なるほどねぇ...それでそんな眼をしているのかい」


「ん?眼?」


わたしは両眼を指で開き眼を見せた。


「一人で暮らす!って言った日もそんな眼をしていたねぇ、周りの意見なんて聞きたくない!っていう様な眼」


「うわーそんな眼してなのかわたし。そんで今も成長してないって事か....。奥さん、わたしバリアリバルに行く!もっと色んなモノみて色んな事知りたい!でさでさ!家具置いてってい?」


「ははは、相変わらず急に本題に入るねぇ。いいよ、置いていきな。それと」


奥さんは何かを取りに何処かへ行ってしまった。氷が溶けて薄まった少量のオレンジジュースをストローで吸いあげ待つと、小さな包みを渡してきた。


「途中お腹が空いたら食べなさい」


「いいの!?ありがとー!中なに?お菓子?」


包みから甘いいい匂いがした。甘い物なのは間違いない。と、わたしの嗅覚が言う。


「さぁねぇ?ほら、馬車が来るよ!急ぎなさい」


「うお、本当だ!行くね、ありがとね!またね!」


手を振り、わたしはレストランを出た。以外にあっさりと進んだのは多分奥さんはわたしがレストランに来た瞬間から、何かある、とわかっていたからだろう。それに反対されようと行くつもりだったし、凄腕冒険者になって激ヤバクエストを楽々こなす様になったらまたこのレストランに来よう。成長しまくったわたしを見せるために。


わたしは先程アスランと別れた馬車乗り場まで爆走する。明日から違う景色を見るというのに、当分この街を見れないというのに、景色が早送りされるかの様に走った。寂しいや悲しい、よりも、ワクワクするこの気持ちがそうさせたのだった。





エミリオがレストランを後にし、走り去った。その姿を店主の奥さんは見えなくなるまで見守った。


約15年前、ドメイライトの大通りへ買い物に来ていた奥さんは妙にうるさい人集りを見つけ、横眼で覗くと青髪の幼い少女が店主と思われる男に捕まっていた。少女はリンゴを2つ抱え、店主は激怒していた。

少女はリンゴを盗み、持ち去られる前に店主が少女を捕まえたらしい。

5、6歳の少女相手に怒鳴る店主だったが、少女は泣くでも怯えるでもなく、不思議そうに首を傾げていた。何とか言ってみろ!と叫んだ店主相手に少女は少し考える素振りを見せ理解出来ない言葉をクチにした。

すると暴風が吹き、店主の手から少女が離れ、その少女は笑い走り去った。


子供に恵まれなかった奥さんは少女の存在が気になり、追った。

すると少女裏路地の更に奥にある、誰も近寄らない古い小屋に入っていった。奥さんは小屋をノックし、古い扉を開くと少女が不思議そうな顔でリンゴを頬張り首を傾げた。


話しかけても返事はなく、それどころかこちらの言葉を理解していない様子。髪もボサボサで服も汚れ、クツもなく裸足。


奥さんはとにかく自分は怪しい者ではない事を必死に伝えると少女はニッと笑いリンゴをひとつくれた。


それが奥さんとエミリオの出会いで、それからエミリオは奥さんと暮らし言葉を覚え、ルールを覚え、今旅立っていった。


「....ドッカーンやドドドドじゃ、どんな状況だったか伝わらないよ。あの子は全く...、。さ、夕食時までに仕込みを終わらせるかい。アンター!手伝っておくれー!」



懐かしい記憶と少し寂しく、そしてどこか嬉しい気持ちになった奥さんは夜に向けてレストランの準備を再開させた。





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