◇29
もう何時間経っただろうか...遠くの空がうっすらオレンジ色に染まり始めている。
ワタシとビビさんは交代でエミちゃへヒールを、ユカは魔力や体力回復効果のある音楽と集中力を高める音楽を状況をみて奏でる。
そんな事が数時間続き、そろそろワタシ達の集中力を音楽で高める事が出来なくなってきた頃、情報を集めていたキューレさんがワタシ達を見て言った。
「ビビ、ワタポと交代せぇ。まだ確認しとらんからデマの確率もあるが...アタリの確率も捨てきれん情報が入ったぞ」
キューレさんの言葉はワタシの曇った気持ちを、不安を拭ってくれる様な希望の言葉。
すぐにビビさんと交代し、ワタシはその情報を買う事にしたのだが、50/50の情報なのでお金等は全部終わってから になり、ワタシはキューレさんの話に全神経を集中させて一言も漏らさず聞き入った。
◆
再生術を使う人物。
ドラゴンに詳しい人物。
この2人がこの街 バリアリバルに居る。
キューレさんの情報だと再生術師は治癒術のレベルも高いらしい。協力してくれるなら その辺の治癒術師よりも心強い存在になるだろう。
ドラゴンに詳しい人物は詳しいだけではなく、何度もドラゴンを見た事があるらしい。この人も協力してくれると助かる。あの武器はドラゴン素材で作られたモノ。ワタシ達ではドラゴンの知識も経験も何もない。
幸運な事にこの2人は同じギルドに所属していて、一緒に行動している事が多い。
2人が居そうな場所も聞いた。
「クゥ!集会場まで一気に走って!」
クゥは全力で地面を蹴り、人混みは飛び越え集会場まで一気に走る。心に残るモヤモヤを誤魔化しワタシは集会場のスイングドアを一気に押し開け冒険者達を見るが...それらしい人物は見当たらない。
すぐにクゥの背中へ戻り、次は2人がよく行く酒場 星の番人。
空虚の酒場の近くにある星の番人。
この2つは人気も高く、空虚の酒場を気に入っているギルドが多く、毎晩賑わっているらしい。
星の番人はギルドと言うより冒険者、2~5人で足を運ぶ人が多いらしく毎晩落ち着いた雰囲気でお酒を飲める場所らしい。
この事から2人は騒がしい性格ではないと予想したけど...会ってみれば解る事だ。
星の番人へ到着する頃、空は真っ赤に染まっていてクエストを終えた冒険者達がレストランや酒場を訪れる時間帯に。
店の外装はレンガを使ったどこか懐かしい雰囲気。
扉を開くと薄暗い店内を照らす ほんのり青い光。床は濃いブルーの石材。
星の番人...名前の通り青黒い夜空に浮かぶ星の中へ入っているかの様な何とも幻想的で落ち着いた雰囲気。
いらっしゃい。と声をかけて来たのは店主か?妙に小さい姿でほんのり赤い肌。尖った幅広の耳...人間じゃない。
挨拶を返し適当にイスへ座る。よく見てみるともう数組の客が店内にいた。この中に噂の2人は...。
確かキューレさんの情報だと、金髪の方がドラゴンの知識に優れた人物。綺麗なピンクの長髪が再生術師。
残念だけど今この店にそれらしい人物は居ない...。
最後のヒントもハズレてしまったが悔しんでいる暇はない。脳内でキューレさんから聞いた情報をもう1度整理していると、カラン カラン と優しい鈴の音が店内を小さく色付ける。
ドアから入って来たのは金髪の女性とピンク色の長髪を揺らす女性。
間違いなくあの2人が探し求めていた2人!
すぐに話しかけたいが、2人が纏うオーラ...雰囲気はただ者ではない。でも!
「あの、」
「ん?...ひぃちゃんの知り合い?」
金髪の女性がワタシの声に反応してくれた。
ワタシは言葉を続けようとクチを開いた瞬間、もう1人の...再生術師であろうピンクの髪の女性を見て言葉を失った。
驚くほど整った顔。
妖精と言われれば信じて疑わない程 美しくどこか凛々しい顔立ち。
「知らない」
「そかそか、あの...ボク達に何か用ですか?」
金髪の女性は ボク達 と言った。妙にしっくりくる...そんな事を思っている暇はない!
自分のスイッチを気合いで入れ直し、開いたクチから言葉を吐く。
「はい、あの、2人にお願いしたい事があって...」
友達を仲間を助けてほしい。と続けようとしたのだが、妖精の様に美しい女性が一言、ついてきて。と言ったので頷き店の外へ。
無言のまま外へ出るピンク髪の女性とは真逆に、金髪の女性は笑顔で店主に また後でねー と手を振る。
外へ出てすぐの狭い通路へ入った時、2人は足を止め振り向き言った。
「私達に用っていうのは?」
「あ、はい。あの、仲間を...友達を助けてほしくてワタシじゃ助けられなくて...2人なら助けられるかもと」
そこまで言うとピンク髪の女性は一瞬キュッと眼を細め、鋭く言葉を吐いた。
「誰に私達の情報を?」
場の空気が一気に張り詰める。
「情報屋のキューレさんからあなた達の情報を...お願いします!ワタシの友達を助けてください」
ワタシには頭を下げお願いする事しか出来ない。
助けてほしい。助けてくれるなら何だってする。
「ひぃちゃん、この人は信じて大丈夫だと思うよ。ボクからもお願い!この人の友達を助けてあげて!」
「ちょ、ちょっとプンちゃん!」
「わざわざ来てくれたんだしさ、お願い!」
何だ?何が何だ??
どうしてこの人も頭を下げているんだ?
ワタシが2人に対してお願いしているのに...。
「この人はさっき2人にって言ったでしょ。プンちゃんにもお願いしてるんだよ」
そうそう、そうなの。
ワタシはあなたにもお願いしてるの。
「そっか、よし!ボクに出来る事があるなら力になるよ!ほら...ひぃちゃんも頑張ろうよ」
「私はまだ...」
「よいでは ないかぁ~、減るモンじゃないし」
「減るわよ!私にお願いって絶対治癒系でしょ!?魔力が減るわよ!」
「そかそかぁ~それなら、減った魔力の分だけボクが撫で撫でしてあげるよ!」
「な、なに意味の解らない事言ってるの!大体いつもプンちゃんは」
「ひぃちゃん お願い!」
「...う...も、うぅ、プ、プンちゃんがそこまで言うなら力を貸さない事もないけど」
「おー!さっすがぁ~!よ!ひぃちゃん!」
な...何だこの2人...。
と、とにかく、助けてくれるらしいので...うん。よし!
「ありがとう、ワタシは」
ヒロ と名乗るべきなのか ワタポと名乗るべきなのか一瞬迷い言葉を切った。
その隙に金髪の女性が割って入る。
「そんな事はあと!」
「急いでるんでしょ?早く行くわよ」
「うん!ありがとう!」
こんな路地に呼ばれた時はどうなる事かと思ったけど、力を貸してくれる事になった。
最初に2人を見た時感じたオーラは一体何処へいったのか...。
とにかく今は2人をエミちゃと会わせないと!
ワタシはすぐにクゥを呼び背中へ。2人は驚きつつも同じ様にクゥの背中へ乗る。
「クゥお願い!」
ワタシの声を合図にクゥはマネキネコ亭へ急いだ。
◆
「なるほどね、それじゃボク達はキミの友達に刺さったままの熱い剣と その怪我を見ればいいって事だね?」
クゥに乗り移動中、ワタシは2人へ簡単に説明した。
ユニオンの事等は言う必要もないので怪我と状況を簡単に。
長い金髪を太めの三つ編みにしている女性はすぐに返事、反応をしてくれたがピンク色の髪をした女性は表情1つ変えない。
「うん、剣を抜こうと考えたけど傷口から血が溢れちゃうし...」
「抜かなくて正解ね」
ピンクの髪の女性がポツリと呟いた言葉に金髪の女性はすぐに頷き続きを変わりに言った。
「それに多分...簡単に抜けないと思う」
「....?」
剣の刃には返し等は無かったハズ...引っ張れば抜けると思うけど...話、言葉だけでこの2人はある程度その状況や状態を把握した?
「あれだね?マネキネコ亭!」
指さし元気に言う金髪の女性。ワタシが頷き答えようとした時、クゥの背中から2人は飛び着地の余韻を残さず中へ急いだ。
「え!?ちょ、、えぇー...」
助けてくれるのは嬉しい。急いでくれてる気持ちも凄く嬉しい。けど...ワタシ部屋の場所言ってないよ...。
とにかく急がなきゃ。2人を探しつつ部屋まで行こう。と思っていたが、奇跡的に2人はエミちゃの居る部屋を1発で当てた様子。少し開いているドアの中へワタシも急ぐ。
中へ入るとすぐに声が届く。
「やっぱり...この剣は簡単に抜けない。ひぃちゃん傷は?」
「大丈夫」
「な、なんじゃ!?」
突然部屋に現れた2人が何者なのか、この状況は何なのか、理解できずキョロキョロするキューレさんへワタシは簡単に説明した。
「そっか、よかった...これで助かるんだね?」
疲れきった表情のビビさんがそう言うとピンクの髪の女性は突然詠唱をしビビさんへ治癒術を。
「ご苦労様、あなたがここまで運んで来たのでしょ?」
確かにビビさんがユニオン本部からここまでエミちゃを運んでくれた。でもどうしてそれを?
「ありがとう、もう大丈夫」
「そう。プンちゃん 大丈夫そう?」
もう大丈夫?大丈夫そう?何が...っと、それよりもエミちゃを。
「この剣は火竜の喉骨を素材に刃を作ってるね。それで熱を纏う効果が...そしてこの柄。これが厄介だねー」
「柄?どうして?」
ユカがその柄を見て質問するとビビさんが短く答え、ワタシもユカもキューレさんも驚いた表情を浮かべてしまった。
「柄も相当熱い。両手が火傷したよ」
刃だけではなく柄にも熱が...それでさっきビビさんに治癒術を...。
両手のひらを火傷した状態でエミちゃに治癒術をしていた...。
「急がなきゃ内臓まで焼けるわよ」
「ひぃちゃん サラっと言ったけど本当それ!でも見るからに熱いよね...剣」
焼かれた鉄の様に赤々した熱を秘めた剣は近くで見ただけでも凄い熱を感じる。
でも、
「ワタシなら触れる...ワタシなら抜ける」
どんなに凄い武器でも剣術でも魔術でも。弱点や欠点は必ずある。
この剣の弱点はワタシの存在だ。
手のひら部分が焼け溶けているロンググローブを脱ぎ捨て両腕...義手を見せる。
深い青色で機械の様な両腕。
「.....。一応火耐性を上げるバフをする」
先程とは違った早いリズムの音楽を演奏し火耐性を上げてくれた音楽家ユカ。
「へぇ。サウンドマジックを見たのも聴いたのも初めて。あなたが音楽家ユカ?」
ピンク色の髪の女性がそう言うとユカは短く答えた。
サウンドマジック。音楽魔法。
その存在は聞いた事あったが本当に存在するかすら怪しいと言われていた。それ程サウンドマジックを使う者が少ない、または難しいのだろう。
「サウンドマジックの話はあとにしよう!この剣はオーナーの言うことを聞く剣なんだ。オーナーが触れるモノを焼け と命令していたら、焼き終えたと認識するまで熱を持つんだよ!」
熱は一行に引く気配はない、それどころか更に赤く染まる。
柄に手を伸ばし確りと握る。
ジュウウウ...と焼け溶かす音が室内に響くも、ワタシの腕は熱も痛みも感じない。
初めて義手を手にした時は熱を感じない事に多少寂しさを感じた。でも今はこの性能に感謝している。
「抜くよ!」
「おっけー!ひぃちゃん!」
「うん」
剣を一気に引き抜く、と同時にエミちゃの下に大きな銀色の魔方陣が現れる。
剣を引き抜いたワタシを金髪の女性が強く引き、魔方陣の中からワタシを除去し言う。
「ユカさんヒーリングサウンドお願い!」
音楽家ユカはすぐにギターを弾く。集中力を高める音楽や火耐性を上げる音楽とはまた違った優しく暖かい音を奏でた。
サウンドマジックに対して知識は少ないけど...確か音楽魔法に体力回復系は存在しないハズだ。と言う事はこの音楽の効果は 癒し。
「ビビさんとキューレは氷水を沢山用意して!キミはボクと一緒に街の外まで行くよ!」
「「「え?」」」
「早く早く!」
とにかくこの2人を頼るしか選択肢はない。
言われるがままワタシ達は行動を始めた。
ビビさんとキューレさんは氷水を求め街を走り回る、ワタシと金髪の女性はクゥに乗り街の外へ。
「湖へ行ってシーサーペントの鱗をゲットするよ!」
シーサーペント。湖に生息する水竜...と言ってもワイバーンだ。
「剣を抜いて再生、治癒しても熱は体内に残る。シーサーペントの鱗は熱を吸収する効果があるんだ!」
体内に残る余分な熱をその鱗に吸収させて正常の体温に戻すためにシーサーペントの鱗を狙う。
「急ごう、クゥ!」
焦りを消しきれないワタシの声にクゥは今日一番のスピードで駆け抜け目的の湖 [ケルピー湖] へ到着。
森にある道を進むと夕焼け色に染まる大きく綺麗な湖が眼の前に広がる。
小動物達が多く、小さな光の玉も無数浮遊している。
モンスターの気配はない。
ここにシーサーペントが?
「てか、その剣持ってきたんだね」
「え?」
気付かなかった。剣を抜いた後もずっと持っていた事に。
剣は熱を失い普通の剣と何ら変わらない色になっていた。
「丁度いいや。ワタシ武器無かったしコレ借りよう」




