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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【バリアリバル】
21/759

◇20




空腹の限界が近い。

そんな状態でも今は歩くしか出来ない...。この街アルミナルには食べ物屋が少なく、今日到着したばかりのわたしは鍛冶屋ビビの店さえも何処にあるのかハッキリ覚えていない。


迷うのは勘弁だ。わたしは道で色々な人に声をかけては道を聞く作業を繰り返していたのだが雨だというのに観光客は眼を輝かせて外を歩いている。何故だろうか?道を聞くついでに質問したところ、この街には雨の日に本気を出すオブジェが存在するらしい。

気にはなったが見に行くとなると話は別だ。面倒なので写真を見せて貰ったのだが...。


髪の長い女性の像が中心にある噴水。

雨が降る日はこの像の真の美しさが見れるらしい。雨水を浴びると真っ白だった像に色が付く。原理などは謎らしいが雨水でなければ色は付かないらしい。

肌は肌の色に髪は海の様に深く鮮やかな青色、瞳につけられた宝石は一際輝く。

小雨程度では何も変化しないらしく、今日の様な雨は落ち着いて見物できるとか。まぁ強い雨だと落ち着いて見るのは難しいだろうけど...芸術芸術っていい加減飽きてきた。

やり過ぎ芸術に付き合っていられないのでペースを上げ鍛冶屋へ。

雨の中を数分走り迷う事なく到着。不思議と壁の絵が気にならなくなってきた。ローブについた雨水を払い落としドアを引く。

お客の来店を知らせる小さな鐘が鳴り響き続いて声が届く。


「おかえりー」


何処と無く疲れた表情を浮かべ向かえてくれたのは店主のビビ。ただいまーと返しローブを脱ぎフォンへ収納する。

腰にあるレイピアを外し、ビビ様へお礼を言いつつ返すとレイピアをじっと見つめ徐々に表情が雲っていく。


「コレ持って行ったの?」


何かマズかったのか?急いでいたとは言え一応、レイピアを借りると声をかけたハズだが....。


「コレ、ただ重く作った刃のないレイピア...模造剣なんだよね。大丈夫だった?」


「はぁ!?なにそれ、何でそんなモノ作ったの!?使わなかったけどもさ」


言った様に今回武器は使っていない。わたしは魔術だけで戦っていたので抜いてもいないが、もしレイピアで戦う流れになっていたらゲキヤバだった...刃のない重い武器って..鉄の塊じゃないか。本当に何でこんなモノを作ったのか考えてもわたしには解らない。

そして作った本人も何で作ったのか解っていない。鍛冶屋ビビの気まぐれで作った本物より数倍重い模造剣を持って地竜に挑んでいたなんて...頭のオカシイ死にたがりではないか。


「大丈夫だったみたいだね、よかった よかった。こっちも無事終わったよ。今奥の部屋で眠ってるから騒がないでね」



無事終わった。その言葉を聞いてやっと心に絡み付いていた何かが無くなる。肩の力を抜くように息を吐き質問する。いつ痛みがなくなるのか、いつから自由に扱える様になるのか、その後は放置でいいのか等々の事を聞いてみると少し考えて質問の答えを言う。


「痛みが無くなるのに2ヶ月、そこから10ヶ月リハビリやらをしてやっと普段の生活に戻れるけど冒険者に戻るならそこにプラス3、4ヵ月かな。早い人 でね」



2ヶ月+10ヶ月+4ヶ月。

1年4ヶ月で冒険者に戻れる。で、ではなく、も と思ってしまう。


ノムーでワタポと共に旅をする事になってから命について何度も考えた。

人間の命を奪う事は他の魔女も普通にやっていた事だし、人間もわたし達の命を奪おうとする。悪魔も、他の種もそうだ。自分が死ぬのは嫌だから殺そうとする相手を殺すのは当たり前の事じゃないのか?当たり前じゃない。と言うならば相手がモンスターでも同じ事を言えるのか?

モンスターは死んだ後に微量のリソースマナを出して消滅するがそれは再生や蘇生ではなく、同じ種を新たに産む為だ。モンスターだから殺してもいい、モンスター相手にそんな事すら考えない。と言うのが当たり前になっているがその、今殺したモンスターは1匹しか存在しない個体だろう。新しく同じモンスターがリポップ...産まれてもそれは見た目や種等が同じなだけで大きさも違えば自分と出会ったという過去もない中身は別の存在にならないか?


深く考えれば考える程、命の存在価値が解らなくなっていた。でも自分は死にたくないし.... まだ死ねない。

中身は別物でも同じ種、パッと見は同じモンスターがまた産まれるならいっか、生きる為だし。と自分に言い聞かせモンスターを殺している。多分これは今後も続くし人間とモンスターどちらをとる?と聞かれれば理由を言う必要もなく人間だ。


命の事も大事だが、今わたしは命を奪うよりも残酷な事をした。と思ってしまった。


死ぬのは苦しいし怖いし、多分痛い。でも死んだ後は考える事も苦しむ事もないだろう。しかしワタポはこれから1年4ヶ月、痛みに堪え、思い悩み苦しんで生きなければならない...。ワタポが騎士またはギルドの人間として進んでいたであろう1年4ヶ月をわたしは奪った。


何とか再スタートしたとしても、周りは今この瞬間も進んでいる。1年どころか痛みが消える2ヶ月の時点で差は眼に見えて開くだろう。自分が再スタートした時、他の人達とあり得ないレベルの差があったら...わたしなら自分を止めた相手を怨む。



「エミリオとワタポに何があったか知らないけど、自分の正体をわざわざ言って片眼も差し出すなんて相当な覚悟と強い想いがなきゃ出来ない事だ。あの子もきっとエミリオを怨んだりしないよ」


本当にわたしを怨まないだろうか...最初は殺したい程わたしを怨んでいたハズ...。


「あ、あとワタポからの伝言。先に行ってて準備が済んだらすぐに追うから。との事です」



先に行け?追う?...何を言ってるんだ?

見捨てて行け、と言っている様なモノだろ。ワタポ以外なら話は別だが、そんな事ワタポ相手に出来る訳ない。腕を奪ったからとか時間を奪ったからとかじゃない。単純にワタポが好きなんだ。一緒にいて楽しいしこれからも一緒に居たいし一緒に色々見たいと思っている。

そう思う相手を捨てて行く何て出来ない。



「捨てて行け、って意味じゃないね」


ビビ様がポツリと呟いた言葉にわたしは反応してしまった。その反応を見てビビ様は、やっぱりね。と呟き言葉を続けた。


「捨てて行けって意味なら別の言い方をする子だと思う。先に行け準備が済んだら追う、と言ったんだよ?ビビは文字通りの意味以外ないと思うけど、2人の間だと別の意味があるのかもね」


...確かにワタポならもっと相手を傷付けない言い方で、捨てて行け。と伝えるだろう。

わたしとワタポの間で他の意味...。


腕直しの旅をする前もわたしの背中を押してくれたのはワタポだった。今回も似たような感じになるだろう。と予想していたのか...それであの伝言。進め、と。グズってるわたしに言うために。


「ビビ様、義手代払うよ。それと伝言お願い 先行ってるから早くおいでよ。って」


「了解」


そう言ってビビ様は義手等を装備する為にする手術の麻酔薬を取り出した。

義手代は600万ヴァンズ。普通ならそんなお金簡単に用意出来ないが、わたしはその気になればそれ以上を産み出せる。

人間や悪魔 他の種の間で、魔女の瞳は超高額取引されている。殺さず瞳だけを奪えば馬鹿げた魔力を秘めた素材になる。その瞳を使って武具やアクセサリーを作れば魔法特化のモノが完成する。しかし魔女の瞳を殺さずに奪う事など不可能に近い。

そんな理由で魔女の瞳は1つ数億の値段が付けられている。

他にも、魔女を殺した時に必ずその場に残るモノ...魂。それは瞳等と比べ物にならない金額だろう。魔女が死んだ時黒紫の炎が身体を焼き付くし消滅するが魂は魔結晶となりその場に残る。魔女を倒した時のドロップアイテムだがそう言うとモンスターみたいでいい気はしない。

他の種はどうかは知らないが魔女はこんな感じなので、それを狙う人間と大昔戦争になった事がある。ま、わたしはその時産まれてないけどね。


それに今回は魔結晶じゃなくて瞳、それも片方だけだ。それで両腕が直るなら安いだろう。早いとこサクっと終わらせてもらいたいのだが、ビビ様は思い出した様に言った。



「昼間何してたの?」


「昼間...あー、フレから連絡きてモンスター倒しに行ったの。倒せなかったけどね」


「へぇーどんなモンスター?」


質問してくるくせに手は止めず麻酔薬を注射器に注いだりと作業をする。


「地竜の...ギガースドラゴ?余裕の負けだったけど酷い怪我もなかったし、一応部位破壊はしたよー」


「ギガス!?部位破壊した素材は!?」


突然声を大きくし作業も止めて言う。ギガス...ギガースドラゴでギガスか。何かダサいけど言いやすい。

自分自身が部位破壊で得たアイテムの存在を忘れていたのでフォンで確認してみる。


恥ずかしがる地竜の鱗×8

魔結晶[ギガースドラゴ]×1


魔結晶!?

一瞬鱗の数にビックリしたが、部位破壊した時に弾け飛んだ岩の数を思い出すと少なく思える。

そしてやはり...この魔結晶には驚きを隠せない。

魔結晶なんて産まれて初めてドロップした。こんな解りやすく表示されるのか。等と思っているとビビ様が気になりすぎてフォンを覗き込む。


「魔結晶!?すご、ギガスの魔結晶は武具にすると防御力や頑丈さが結構上がるよ、最高値ではないけどその辺の防御系魔結晶よりは有能だね。マテリアに加工して装備する場合は防御力と地属性の攻防が上がる」


地属性に防御か。と肩をガクっと落とすとビビ様はわたしの思考を即座に読み取り言った。


「必要ないならそれ譲って!なんかエミリオの瞳とるのが嫌だったんだよね。その魔結晶だけで1000万vはする!」


「まぢ?」


「マジ」



迷わず魔結晶を取り出しビビ様へ渡した。初めて見る魔結晶は予想以上に岩っぽくてガッカリ。

1000-600=400。400万v払うよ、とビビ様は言うが、わたしはここで試しに言ってみた。


「この鱗使って防具作れる?鎧じゃなくてスマートで...動きやすい感じのヤツで、耐性とかいいから魔術使った時の負担?的なのを軽減できるヤツ」


「出来るよ」


即答だった。ならば!と強欲が出てしまい更に続ける。


「武器は?細剣で頑丈な感じの!でも重すぎないヤツ」


「任せて」


これまた即答。最後に値段を聞いてみると、防具で150万、剣はスペックにもよるが頑丈で軽いだけなら80万らしい。わたしは魔術主体で戦うタイプと伝える武器の値段が変わり150万になった。恐らく何かしらプラスしての150万なのだろう、何の問題もないのですぐにお願いすると3日で作り上げてくれると言う。

武具作成中の3日間、ワタポは1度も眼を開かなかったが状態は安定しているし、義手義足の手術をすると大体1週間は眠り続けるらしい。


今回使った鱗の数は4つ。お金は300万。残りの鱗と100万はワタポにあげて。と言ってわたしは鍛冶屋を、アルミナルを後にした。


新たな武具を装備し目指す場所は、バリアリバル。

ギルドや冒険者の街だ。


連日降り続けた雨が嘘の様に思える程、今日の空は濃い青色をしている。

ここからバリアリバルまではソロだ。

今までワタポが居てくれたから無茶な戦い方でもやれていたが1対多になった時は落ち着いて対処しなければ簡単に殺されてしまうだろう。それ程までにモンスターは危険な生き物。


先に行ってる、必ず追い付いてよ。


声を出さず、でも確かに言い放ち空気を大きく吸い込み気合いを入れる。


「...、んし!」


颯爽と走り出したい気持ちを押さえフォンを取り出す。

ビビ様がくれたアルミナルからバリアリバルまでのマップデータを開き今度こそ大きく1歩踏み込むと装備の凄さがハッキリ解る。


白の襟付きのシャツと黒ネクタイ、白黒チェックのホットパンツ。黒タイツ と見た目は普通の服の様だが性能は恐ろしい。

全てが前使っていた防具を軽く上回っていて、求めていた動きやすさは想像以上だ。

ブーツも黒を選び、色が白と黒だけの大人感MAX。

ベルトで締め付けるよりベルトを程々でサスペンダーを装備するという作戦も成功。

これでサスペンダーパチンも出来る。

見た目、性能、ネタ、と全てが素晴らしい出来。


武器はフルーレベースで全体が薄青色。前使っていたフルーレやレイピアより少し重いが。あの2つは超初心者武器なので軽く作られている。

これが平均的な細剣の重さだ。十字の様な細剣で鍔が少し長く、鍔から柄の先へと伸びる謎のアーチはフルーレやレイピアには欠かせない部分だ。ロングソードを使った時に両刃の便利さを知ってしまったので今回の武器も両刃でオーダーした。


この新装備でバリアリバルを目指していると、眼の前にモンスターの影が。

草むらから姿を表したのは薄ピンク色の宝石の様なモンスター、数は3匹。

本当に宝石の様な見た目で動きも遅くリーチもないが相手はわたしを敵と認識したのか鉄っぽい鳴き声を小さくあげ迫ってくる。

早速1対多の戦闘という訳か。


フルーレを抜刀すると心地好い音が響きやる気スイッチが自然と入る。

一番近くの宝石モンスター、[クォーツストーン]をターゲットにした時、地面が恐ろしい程揺れる。

バランスを保つ事に精一杯になってしまう程の揺れ。クォーツストーンは揺れをいち早く感知したのか地面へ潜って消えてしまった。

揺れの原因を知りたいが、大きさが馬鹿げてるのでソロ探索は危険すぎるか...振る事なくフルーレを納刀し足を進める。


天気がいい平原は心地好い温度だが、歩くとさすがに暑い。フォンポーチから飲み物を取り出し喉の乾きを癒しつつ進む。モンスターに出会う事なくサクサク進んでいると声が聞こえ、人が走る。

3人でモンスターと戦っている者、6人で平原を走る者、横切った馬車には冒険者しか乗っていない。


これがウンディー大陸、騎士や国王が存在しない自由溢れる大陸。

心が高鳴る中少しペースを上げて進むとドメイライトにも負けない程大きな壁に守られる街が見える。


大きすぎる橋がありその橋を渡れば街、バリアリバル。


やっと来た。

この街で本物の冒険者になる事がわたしの願いだったが、今はそれだけではない。

命の価値観を知りたい。知らず知らず命というモノに興味を持ってしまった様だ。


命とは何か?簡単に答えは見つからないし、そもそも答えなんて無い気がする。

でも、それなら、わたし自身の答えを見つければいい。


セッカは金玉...金の人工魔結晶を見つけられたのか?

ワタポは腕を完璧に我が物にして人工魔結晶の回収と作製阻止を。

わたしは命の価値観と命とよばれるモノの答えを見つける。


探しながら、冒険者としてのレベルを上げる。


魔女はどこまで行っても魔女でしかないのか?冒険者にはなれないのか?人間や他種と仲良くなれないのか?


そんなの、今から知っていく事だ。


馬車が数台通っても歩く余裕がある程大きな橋へ、1歩踏み込み今度は声に出す。




「先に行ってるよ、ワタポ」







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