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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【始まり】
2/759

◇1



【皇都ドメイライト】

この世界には四つ大陸があり、四大陸のひとつ【ノムー大陸】で一番大きく、栄えている都市がこの【ドメイライト】だ。この街は段階層に分かれている街で一番下...一層目が一番広く作られている。

この一層目が通称 街。

店や酒場、必要な装備品の店や家具屋、他にも色々な店があり人々が住む家も沢山ある。

わたしもこの街で小さな部屋を借りて一人住んでいた。毎日コレといってやる事もなく、1日1日を好きに過ごしている....仕事は一応【冒険者】だ。

冒険者はクエストとよばれる仕事をこなし、お金を稼ぐ職業。クエストにも種類があり、その難易度で報酬も変わる。

報酬が多いと危険度が高く内容も過酷になるだろう。中でもモンスター討伐系は下手を打てば自分が討伐される可能性も。


そんな危険と隣り合わせの職業が冒険者だ。

今日も街で困っている人を助ける為、元気に頑張る正義の味方的な仕事が冒険者で、わたしはこの街【ドメイライト】で数少ない冒険者の【エミリオ】さんだ。


わたしは先程、遅めの朝食をとるために行ったレストランで店主からクエストをもらった。冒険者っぽく言うとクエストを受注した、になるのか?正直、冒険者と言っているわたしだが、冒険者がどんなモノなのか知らない。

この街では困った事などがあれば全て【騎士】にお願いするのかセオリー。わたしみたいな冒険者など一人もいないし、騎士達は妙に冷たい。

それもそうだ。冒険者にお願いするとお金やらを払わなければならないが、騎士にはお礼金など必要ない。

そのせいもあり仕事は毎日あるワケじゃない。それに仕事と言ってもお手伝い程度の内容で、メインの稼ぎグチはモンスターを討伐し、その時入手したアイテム等を売ってお金を稼いでいる。

今回のクエストも内容は “店に飾る花の採取” つまり採取クエスト。白色の花なら何でもいいらしく、内容はどう見てもお手伝いレベルのクエスト。しかし一度受注したクエストは全力で頑張る。それがわたし 冒険者【エミリオ】さんの良いところであり、魅力のひとつ....と自分に言い聞かせなければやってやれない!と、愚痴ってみたり。


わたしは街を出てすぐの平原に咲く白く小さな花を採取するため、平原へ進む門を目指す。右腰から吊るしている武器、細く軽めの剣、細剣フルーレの鞘を撫で、見えてきたアーチ状の門を潜るため歩く速度を上げた。

街は城壁に囲われ、唯一の出入り口が2つある門。

そこには門番の騎士が居る。しかし出入りする者に声をかける事はまずしない。怪しいヤツや危険な物を持っているヤツ等には声をかけるが、この街には【ドメイライト騎士団本部】があるので怪しく危険なヤツなどまず現れない。


わたしは門番へ軽く挨拶し進む。またお前か、と言う様な視線を飛ばされるも、止められる事なく門を潜り抜ける事に成功し。


門を抜けると一気に世界が広がる。城壁の外は心地良い風が吹き、わたしの青髪を揺らした。

門から抜けた時に感じる風は毎回違う気がする....さて、今回のクエストは採取。討伐系ではないので危険度も高くないが油断はできない。

平原には無数のモンスターが生息しているのでいつ何処からモンスターが顔を出すかわからない。何度も平原でモンスターを狩っているが、奴等は危険な存在だ。

自分で言うのもアレだが、わたしは戦闘には多少慣れている。しかし戦闘に慣れていない者がモンスターと遭遇すれば高確率で死んでしまうだろう。新人とはいえ訓練を積み重ねた騎士でさえもモンスター戦闘で負傷する事もあると聞く。偶然遭遇した平民レベルでは即死だろう。


わたしは右腰にある武器フルーレを撫で、平原の大地を強く踏み込み進んだ。今回のターゲットは白い花。種類などの指定はないが出来る限りいい花を探してみよう。街で売っている花を届けても話にならないだろうし。

そして大事な部分!そう、報酬だ。今回の報酬はお金【1500ヴァンズ】となっている。ので!最低でも1500vで取引される花を採取しなければ冒険者として格好がつかない。嫌われるくらい格好つけたいわたしは1500v以上の花を探すのだ。


「んし...っと」


一度伸びをし、自分に気合いを入れベルトポーチから秘密アイテムを取り出す。冒険者には絶対必要で最近では冒険者以外も持つ携帯端末型の【フォン】と呼ばれるアイテム。

多彩な機能があるこのフォン。数ある便利機能からわたしが選んだのは【マップ機能】だ。一度通った道を記憶し記録するマップ機能。わたしは何度も平原に出ているためマップもそこそこ埋まっている。

指でフォンを撫でマップを表示。気になる所を拡大すると地形の詳細まで確認出来る。もちろん、一度そこを通った道やマップデータを持っている事が条件だが。


「んーと、ここの丘に花がありそうだな」


マップを見て、その方向を確認し、足を進める。

モンスターの気配も無いのでフォンを右手に丘を目指す。

途中で馬車とすれ違い、他に花がありそうな場所等を聞いたり、無謀とも思える徒歩移動の商人に街までの道を教えたりと、いつもと変わらない日常。

刺激的な日々を心のどこかで求めているエミリオさんだったが、何事もなく目指していた丘に到着し、小さな白い花も見つけた。

近くで見ると薄っすら青白い花びらを持つこの花は街で2300vで取引されている花だ。これはいいモノを見つけたぞ!

花へ左手を伸ばし優しく摘む。そこでわたしは左手を止め、右手に持つフォンを操作する。このまま持って行ってもいいのだが、帰り道モンスターと遭遇しないとは言いきれない。マップ機能を閉じアイテムポーチ機能を選び、摘んだ花をフォンに近づける。するとフォンが花の【マナ】を感知し、アイテムポーチに収納できる場合は画面に固有名と、ポーチに収納しますか?との文字が出る。花はポーチに収納可能で、わたしはyesをタップすると持っていた花が一瞬は微粒子となり、消えた。

これでアイテムポーチに収納完了。ポーチ機能のまま同じアイテムを収納する場合はこのやり取りは不要、サクサク採取しサクサク収納出来るのがポイント。別アイテムとなれば今のやり取りが必要になる。

限界数になると、収納できません。と文字が出て今収納されている数が画面に表示される。

わたしのフォン画面には【青白の花 20/20】と表示される。

この花の名前と所持数/限界数だ。


「お、MAX20なんだ..んし!帰ろうかな」


収納できる限界数の採取を済ませ、フォンのアイテムポーチを閉じ腰のポーチへフォンを入れる。まだ花は咲いているが無駄に摘む必要はない。個数指定が無かったため最大数をとりあえず持っていけば何とかなるだろう。わたしは丘を後にしようと立ち上がり、背伸びしていると視界の端に何かが。

帰り道...街とは逆の方向に見えた人影。そう離れていない距離。普段なら別に気にせず街へ戻る所だが、様子がおかしい。


「んん~?なんだ?」


走る人を追う影....あれはモンスター!?それも見た事ないモンスターが、1...2....5匹!


わたしは無意識に丘を蹴り、その方向へ走っていた。知ってる人なのかもわからない。助けてヒーローになりたいのか?....それも違う。

この世界、この街に来て、ひとり住み、生活に慣れ、毎日似たような事を繰り返すだけの日々に、わたしは退屈していたからだ。無意識に出る行動こそ本心に近いのだろう。


右腰に吊るされた細剣フルーレへ手を伸ばし鞘を走らせる。

シュィン、と軽く澄んだ音が短く鳴るも、その音を置き去りに、わたしはただ走った。

あの人を助けるためでもなく、見た事もないモンスターと戦いたいからでもなく、ただ...ワクワクしたから。





根の様な足をうねらせ器用に走る植物系モンスター。胴は球根..玉ねぎの様に丸々太くそこに大きなクチ、左右から伸びる蔓の腕。眼...だろうか?小さな2つの点がり、頭には赤い花。正直、キモい。

そしてそのキモンスターに追われる人間は男。

まさか平原でこんな絵を見る事になるとは...なんて幸運なんだ!このくらいの刺激がなきゃ毎日やってられん!


わたしは迷う事なく植物系モンスターに向かい、腰にあるフルーレを抜刀した時、モンスターに追われる人物がわたしに気付く。

どうする?このまま逃げるか?一緒に戦うか?と言う様な視線を送ってみるも、男は軽装備で武器を持っている様子もない。しかし男は両手を腰背へ伸ばし前へ飛び、空中で身体を捻りモンスターの方向を見る。戦う...という事だろう。武器は腰背にあったらしく、両手に装備された爪....クロータイプの武器。手の甲から伸びる鋭い爪を擦り構える。

わたしも真似したいが剣が一本しかないので、柄を握り直し構えた。


「あのモンスターはキッズマウスフラワー、クチから吐き出される粘液は鉄を溶かし蔓の様な腕は切れ味抜群や!頭の花だけを斬り落として戦う、いけるか?」


「よゆーよゆー!」


男は素早く最低限の説明をし、即戦闘開始。

キッズマウスフラワーと呼ばれるモンスターは1度腕を縮めたかと思うと勢いよく伸ばす。わたしは左、男は右に回避し、男は言う。


「お互い近くの花を狙え!」


おっさん風味の声で叫び、男は近くのキモ花をターゲットに選んだ。

蔓を余裕で回避しつつ接近。植物系モンスターは力技を繰り出した後、高確率で硬直に襲われる。これはもう勝っただろう。わたしは横眼で男の行動を観察し、もう勝った、と思ったが振られた腕は何かに弾かれ、攻撃チャンスは潰された。

シュルル、とキモい音をたて1匹わたしの近くに来たが、わたしは斬らず素早く蹴り飛ばし男へ声をかける。


「何がどーなったよ!?」


「多分、周りの花が助けたんやろな。腕いてー」


そう言い右手をぶらぶらと揺らし男はキッズマウスフラワーを見る。

数は5匹...匹でいいのか?など今どうでもいい事を考えてしまったわたしに男は言った。


「君は魔術使えるタイプか?」


魔術───魔法だ。

武器を使ったワザは槍でも爪でも、剣術やらと言われ、回避等は体術、魔法は攻撃系が魔術、回復系が治癒術、補助系がバフだ。

補助系は魔術以外でも存在し、それもバフと言う。

男の言葉は、攻撃魔法は使えるか?と聞いてきた事になる。

わたしの答えはイエス。と言うかわたし個人、剣術や体術よりも魔術が超得意なのだ。質問に対し言葉ではなく頷きで答え、それを確認した男は「よし」と言い、続きを話す。


「俺が花の気を引く、その間に魔術の準備をして合図を出したら頼むわ。火が効くんやけど」


「え、今のは火と火傷をかけた感じ!?」


「まぁな。そんなん、ええからやるで!」


「りょ。んなら出来るだけ敵を集めて。一気に燃やすから!」


男は何も言わず戦闘体勢へ。それが答えだと判断し、わたしは大きくバックステップを入れ、魔術の詠唱を始めた。

詠唱は魔術を使うためにはほぼ必須。詠唱を必要としない魔術や、詠唱しなくてもある程度の魔術なら使える者も存在するが、基本的には必要。魔女語を詠み唱え、空気中にあるマナと自分の魔力を混ぜ合わせる様にすると、ほんのりと赤いオーラの様な粒子がわたしから少し溢れ、詠唱を終えると消える。詠唱中や詠唱後は喋ったり大きく動いたりするとマナや魔力がブレて不発───ファンブルしてしまう。戦闘中にファンブルするとそりゃもう大変な状況に陥るが、わたしは天才の中の天才なので詠唱中も動けて詠唱後、少しなら喋れる。


「おっけ!」


「....よし!今や!」


男の声を合図にわたしは魔術【下級火属性魔術 ファイアボール】を発動させた。わたしの前に小さな赤い魔方陣が展開され、そこから火球が放たれる。スイカやメロン程の大きさで燃える球体は迷う事なくモンスターへ襲いかかる。ファイアボールは基本的に火球の数は3つ。しかし魔力を多く使い詠唱すると多少威力と数が増やせる。ま、わたしレベルだと通常の詠唱速度で倍の6つ出せちゃう。ちなみに個人的な新記録最は8つ。

空気を焼き進む火球は完璧にヒットしキッズマウスフラワーは燃え消滅した。余った火球は空高く飛び、球は小さくなり消える。

ファイアボールは下級基本魔術。威力も低く長距離火球を飛ばすと燃え尽き消える。しかし多少ならば方向を操作でき、魔力消費も少ないので使い勝手がいい魔術でもある。


「サンキュー、助かった」


武器をしまって男は安心した様に言う。わたしもフルーレを鞘へ戻し「おつかれー」と答えた。


「助けてくれたお礼に、この先の街で何か奢るわ」


「お?そーゆーの待ってた」


奢ると言われ断るのは失礼だろう。それに理由もないので街へ戻って御馳走になる事に。キッズマウスフラワーなんて平原で1度も見た事ないモンスター。そんなモンスターに追われていた理由を聞きたいがこんな場所でダラダラするワケにもいかないし、ゆっくり聞きたいので、この話題は街へ戻ってからにしよう。

モンスターの死体は灰の様な姿になり、風に吹かれて消え、生き物の体内に存在するマナは自然に還される。マナは空気中や体内など、何処にでもあり、無限と言ってもいい数が生産され続ける。

酸素みたいなモノだ。詳しくはわたしも知らない。

害もなくどれだけ使っても減らない、それどころか増える一方なので学者達も他を優先し、マナについては調べていないと聞いた事がある。

ま、わたしは学者ではないし、どうでもいいし、難しい話は解らない。



街までの道中、わたし達はモンスターに遭遇する事はなかった。





「....くぁーッ!」


豪快にドリンクを飲み干し、声を上げる男。

街に到着後、わたしのクエスト報告を済ませてから、男は酒場ではなくレストランに入った。まだ夜ではないしアルコールを避けたのか、わたしがまだアルコールを摂取していい歳ではないと判断したのかは不明。

注文していた料理等がテーブルに届くと男は話を始めた。


「さっきは助かったわー。森でコイツの修行をしてたらキッズマウスに襲われてな。1匹切り裂いてみたら体液が臭くてな!その臭いが他のキッズマウスを集めるんだ。さすがに焦ったわー」


焦ったわー、と言っているが全然焦った感が感じられない。そして “コイツ” と言って出されたモノはこの辺りでは見かける事がない【魔銃】と呼ばれる武器。初めて見る魔銃に興味がないワケでもないが、魔銃なんてこの辺りでは滅多に見れない代物だ。この男は商人なのか?そもそも名前すら聞いていないが....まぁ名前を知った所でだし、食べよう。


「おお、自己紹介がまだやったな」


わたしの思考を読んだのか、たまたまなのか自己紹介を始める男。それにしても何処か胡散臭い喋り方だ。


「俺はアスラン。まぁ....冒険者やね。無所属やけど」


無所属。“ギルド” に加入していない冒険者という事だ。無所属か....格好いいなそれ。


「わたしはエミリオ。無所属ね」


早速使ってみた無所属だったが、アスランとやらはスルースキルで回避した。


「エミリオか、冒険者なら一緒にクエストせんか?今やってるクエストが中々面倒なんや」


アスランはそう言いフォンを操作し、クエストリストを見せてくれた。クエスト名は...孫に宝石 か。

【孫に宝石】

孫娘がパーティーに参加する事になった。そこでアクセサリーをプレゼントしたいと思っているのだが、平凡なアクセサリーではなく特別なモノをプレゼントしたい。

そこで、小さな花石を6つ集めて来てほしい。

報酬 14000v 、優しい爪×10。


ほぉー.....えぇ!?報酬14000vって高っ!なんだこのクエスト。これが本物の冒険者が受注するクエストなのか?

これは是非とも同行したい、が、わたしはコーラを一口飲み質問をした。


「同行した場合、報酬は?」


「君、金持ってないやろ?」


「なっ....、持ってるし!」


「うそつけ。さっきのクエスト報酬見たが、くっそ安いやんけ。報酬金は全部やるわ、そん代わり素材は全部貰うで」


....まぢかよアスラン!アンタって人は...。

わたしは少々迷うフリを見せ、頷いた。迷うフリをしたのはお金なんてなぁ....ってオーラを出す為だが、恐らく見抜かれているだろう。


「よっしゃ、小さな花石は森....平原の先にある枯れた森に生息するモンスターからドロップできる。15分後、さっきの門集合な」


「おけおけ」


アスランは席を立ちお金を払って出ていった。

アイテムや装備の調整をする為の15分だろう。わたしも料理を食べ終え、フォンのポーチとベルトポーチにあるアイテムを入れ替えた。

腰のポーチは手を伸ばせばすぐ取り出せて便利だがフォンの様にガンガン収納できるワケではない。しかし戦闘中にフォンを操作しアイテムを取り出す時間もないのでベルトポーチのアイテムは目的に合ったアイテムを入れる。

今回の目的地は平原を進む現れる【枯れた森】で、さっきのキッズマウスも枯れた森に生息しているモンスターだろう。一応解毒ポーションもベルトポーチに。わたしは今まで何度か森の入り口を見たものの、森の中に入るのは初めてだ。アイテム、武具の確認を必要以上にし、準備を済ませたわたしは店を出て待ち合わせ場所へ向かった。



平原より遥かに危険な【枯れた森】へ向かうというのに、ワクワクが止まらなかった。






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