第八話
【登場キャラクター】
ぼく 南さんに興味がある男子高校生。
南さん 南にしか興味がない女子高校生。
南さんというのはぼくのクラスメートの名前だ。
今日はクラスに新しい転校生が来ることになっている。
だから、始業前の教室は少しざわついている。
だけど、南さんだけは違った。
今日の南さんはとても苛立っていたのだ。
「これも全て北家の陰謀だわ!」
南さんは、教室全体に響き渡る声で叫び出した。
「南さん、いきなりどうしたの!?」
「なに?」
「なに? じゃないよ!」
「いきなり叫ぶからびっくりしたよ」
「そうね、ごめん」
南さんは落ちついたのか、自分の席に座る。
「でっ、南さんどうしたのさ!?」
「あいつが来るのよ」
「あいつって誰なのさ! あいつだけじゃわからないよ」
「あいつって言えばわかるでしょ! あいつよ、あいつ!」
そんな会話をしていたら、始業のチャイムが鳴る。
ぼくは、自分の席に座った。
クラスのみんなが座り終わった直後、担任の先生と見知らぬ同じくらいの女の子が教室に入ってきた。
その、女の子は、ロングストレートの茶髪で南さんに負けず劣らずの可愛さだった。
ぼくは、その女の子に見とれているのが、南さんにばれていないか不安で、南さんの方に顔を向けた。
そしたら・・・・・・。
南さんは、鬼の形相で女の子を凝視していた。
「今日は、みんなに新しい転校生を紹介するわ」
担任の先生の一言で、クラスのみんなのテンションが最高潮になった。
ただ一人を除いて。
南さんは、あの女の子が来ることを知っていて、苛ついていたらしい。
僕があの女の子に取られるかもしれないからって、そんな苛つかなくてもいいのに。
ぼくはずっと南さん一筋だよ。
そろそろ、南さんにやられそうだから、ふざけるのはこの辺で。
「じゃあ、自己紹介お願いね?」
「わかりました。初めまして、北と言います。みなさん、よろしくお願いします」
ぼくは、名前を聞いてやっと理解した。
そう、北って苗字・・・・・・。
南さんが嫌いな一族の苗字だ。
「あの~、南さん。北家の人かもしれないけど、また一回落ち着いて?」
「そう!そうよ! あれが、南家に何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も嫌がらせをしてくる北家なのよ!」
「南さん、落ち着いて。何度も何度もってうるさいよ」
「あなたが、何度も何度も何度も何度も話しかけなければいいでしょ!」
「南さんだから、何度もを何度も繰り返さなくてもわかるよ」
「あなたが何度も何度もうるさいのよ!」
クラスのみんなは、またいつもの夫婦喧嘩だと思っているだろう。
でも、転校生はやっぱり違った。会話に入ってきたのだ。
「あら、みなみさんではないですか? 相変わらず南がお好きなんですね」
「あんたこそ、相変わらず北にいるのね。北なんて日が当たらないのに何がいいの?」
「そっちこそ、南なんて下ですよよ、下。北は南とは違って上にあるんです」
「そんな、平面な地図の話をしたって無駄よ」
「そうかしら? あなたが第五話で地球は平面だって言いましたよね。つまり北は南より上に必ずあるんですよ!」
「必ずそうとも限らないとぼくは思うな。地球の向きは、東西南北どっちが上にあるかはわかないよね」
「「あんた(あなた)は黙って!」」
「わかりました。私が今からあなたの目の前まで、向かいますので、そこで戦いましょう」
「そう、わかったわ」
そう会話が終わり、北さんは北側に進み南さんの元へ向かった。南さんは南側にいるのに。
~数時間後~
「お待たせしましたね。みなみさん」
「ふん。待ってないわ」
「じゃあ、早速戦いましょう」
「ちょっと待って、あなたはそれでいいの?」
「どういうことです?」
「私は南。あなたは北。南の私より南側に北のあなたがいるじゃない!」
「ぐへっ!」
いきなり、北さんは血を吐いた。大丈夫なのだろうか・・・・・・。
でも、ぼくは北さんが血を吐いたことより、南さんを心配していた。
「一生の不覚です!私、北家の恥ですよ!」
「ふっ。これでわかった? 北は南には勝てないのよ!」
「まっ・・・・・・、負けたわ」
そうセリフを残し、北さんは意識を失い倒れてしまった。
ぼくは南さんが落ち着いたと思ったので、南さんに話しかけた。
「南さん」
「なに?」
「南さんは、さっき南さんより南側に北さんがいるって言ったよね」
「それがどうしたのよ」
「だったら、南さんは北さんより北側にいるよね」
「(・_・)」
「そうなるね?」
「一生の不覚だわ!私、南家の恥だわ!」
「なんで、北さんと同じこと言うの!」
ぼくがそう返した直後、南さんも意識を失い倒れてしまった。
これから、ぼくはどうすればいいんだ。
先が思いやられる・・・・・・。
「南さんは南にしかいない」
原作: 伊更木音哉/伊古元亜美
執筆: 伊更木音哉