第六話
【登場キャラクター】
ぼく 南さんに興味がある男子高校生。
南さん 南にしか興味がない女子高校生。
南さんというのはぼくのクラスメートの名前だ。
南さんは文字通り南にしか進むことができないごく普通の女子高生だ。でも現役キャピキャピのJKが南にしか進めないとは、色々と苦労も多いのではないかとぼくは思う。
「南さんは普段の登下校はどうしてるの?」
「はあ? どうしてそんなことを聞くのよ?」
南さんは相も変わらずゾクゾクする視線を向けてくれるので、つい悦に浸ってしまうからいけない。これだから会話がいつも止まってしまうのだとぼくは己が身に鞭打って、続きの問いを口にする。
「だって南にしか進めないなら、登校はよくても、下校はどうするのさ?」
対して南さんはぼくの真意に気づいてくれたらしい。こほんと咳払いを入れると、真剣な面持ちで説明をしてくれた。
「行きは普通に歩きね。ただ帰り道はそのまま南下して飛行機に乗るわ」
「えっ、まさかの地球一周?」
「まあ周るわね、南に向かって」
そう言い残して去る南さんを、ぼくは呼びとどめることはできなかった。まあ発言があまりに衝撃的だったのと、これからフライトする人を邪魔できないという二重の意味で、だけれど。
ともかく南さんはその名にふさわしく、南街道をまっしぐらに進んでいるということだろう。
ついでに南さんの家は徒歩圏内にあるのか……、とぼくは感慨深く思った。
「南さんは南にしかいない」
原作: 伊更木音哉/伊古元亜美
執筆: 伊古元亜美