第三話
【登場キャラクター】
ぼく 南さんに興味がある男子高校生。
南さん 南にしか興味がない女子高校生。
南さんというのはぼくのクラスメートの名前だ。
校則というあってないようなものに従い、スカート膝丈を貫き通す彼女は生徒の模範となるべき存在である。ちなみに彼女がいつも履いているのは『ニーソックス』である。これは余談だが、日本において一般的に『ニーソ』と呼ばれているものは、膝上丈の靴下である『オーバーニーソックス』を指すものであり、膝丈の『ニーソックス』とは別物であるため、これは誤用である。同様に『ニーハイ(knee-high)』も、本来の「膝丈」という意味を「膝上丈」と誤って捉えて広まった、典型的なカタカナ日本語である。まあ整理すると、ハイソックス、ニーソックス、オーバーニーソックス、サイハイソックスの順に長い靴下となるということを最低限押さえておけば良いだろう。
話が逸れたが、ともかく南さんが履くのは『ニーソックス』だ。膝丈より上でも下でもない。彼女が座っているときにスカートの内側を確認したので間違いないはずだ。
あと意外に思うかもしれないが、実はぼくは脚フェチである。
ともかく、ぼくの興味の大部分は脚と南さんの二大政党である。だから目の前に南さんとその脚があれば、ぼくがここを動く理由なんてなかった。
「あいた!」
席を立った南さんに、ぼくは教科書で頭を叩かれた。
「何見てるのよ、気持ち悪い」
失礼な。ぼくはただ南さんが座る席の正面で正座しながら、膝下を見ていただけじゃないか。あとどうしてその程度のことで叩くんだ? どうせなら蹴ってくれればいいのに。―――って思ったけれど、さすがに口には出さなかったし、そこで自重できるぼくは偉いと自分でも思った。
南さんはぼくを冷たい目で見降ろすと、鼻を鳴らして教室の外へと歩いて行く。
「南さん、どこに行くの?」
この後授業があるというのに、真面目優等生の南さんがどこかへ行こうとしている。彼女が勉強よりも優先するものなんて、一つしかないだろうけど。
「そんなの南に行くに決まってるでしょ」
そう言って南さんは、教室を後にした。今日はもう帰ってこなかったから、どうやら早退したらしい。
あのブレなさこそ、南さんたり得る所以だろう。でもまあ、たまにストッキング(サイハイソックス)を穿くくらいの浮気には目をつむれるような、広く寛容な心を持てるようになりたいとぼくは思った。
「南さんは南にしかいない」
原作: 伊更木音哉/伊古元亜美
執筆: 伊古元亜美