第二話
【登場キャラクター】
ぼく 南さんに興味がある男子高校生。
南さん 南にしか興味がない女子高校生。
南さんというのはぼくのクラスメートの名前だ。
丸眼鏡をかけていて、一見レトロな雰囲気を醸し出す彼女は、机に座ると一昔前の女学生にも見える。三つ編みだったらまさにといった感じだけど、残念なことに彼女はショートヘアだ。いやいや、本当に残念で良かった……。
まあ、しいて他に紹介するとすれば、友達が少ないということぐらいだろうか。数少ないぼくとの共通点だから、ことさらシンパシーを覚えるのはここだけの秘密だ。
「南さん、おはよう」
教室にやってきた南さんに、ぼくは爽やかに挨拶をしてみた。
「………………」
けど南さんは気付かなかったのか、ぼくの目の前を通り過ぎて自分の席へと座り、そのまま机に突っ伏してしまった。うーん、聞こえなかったのだろうか。
「南さーん。おーはーよー」
南さんの机の近くまで移動して、改めて呼びかけてみた。すると彼女は唸りながらも上体を起こしてぼくを一瞥すると、視線で射殺さんばかりの勢いで睨み付けながらこう言った。
「………あなた、誰?」
昨日話しかけたというのに忘れてしまった様子だった。そもそもぼくはクラスメートなんだから、せめて見覚えくらいはあってもいいように思えるけど。でもそんなツレナイところも南さんのいいところだから、ぜひその個性を大事にしていってもらいたいとも思う。
「南さんはいつも同じ席に座ってるよね? それはどうして?」
彼女がどう答えるかなんて、最初から分かっていたけれど、ここでは会話を始める取っ掛かりとして尋ねてみた。
「そんなのここが一番南に近いからに決まってるでしょ」
窓際の先頭を固定席としている南さんが、その驚愕の事実を暴露する。なんと、席替えのたびに「視力が悪いので前の席で」という従来の説明は虚偽だったのだ。
「もういいでしょ。放っておいてくれる?」
南さんはそう言うと再び机に突っ伏してしまった。
どうやらぼくと彼女はまだ友達というやつではないらしい。友達というのは、話をしたら自然となるものだと思っていたけれど、ぼくはまだその域には達していないようだった。
「どうしたら友達になれるのかな?」
友達になったら髪の匂いとか嗅がせてくれるのだろうか。よくわからないけど、友達になったときのために、色々とお願いごとを考えておこうとぼくは思った。
「南さんは南にしかいない」
原作: 伊更木音哉/伊古元亜美
執筆: 伊古元亜美
2015/01/09:誤字訂正