# 7
「や・・・・山本・・・・さん・・・・!」
「あ。橋本さん、ごめんねぇ」
「わ・・・私こそ、見ちゃって・・・・ごめんなさい・・・・」
「あー。あれ?別にいいのよ。あんな雑魚男」
奈津稀は自分の耳を疑った。
今、姫咲の口から「雑魚男」という言葉が聞こえたような気がした。
普段の姫咲は、いつもニコニコしていて、優しくて、とても女の子らしい言葉を使う、THE.女子だった。
しかし、今、目の前にいる姫咲は、ニコニコしているが、姫咲とは縁のないような言葉を使っていた。
「あの男も運良かったよね。女子に相手してもらえるなんて」
「山本さん・・・・?」
「あ。ごめんね。これが本当のあたしよ。みーんな騙されてるけど(笑)」
「ど・・・どうして私の前では?・・・」
「ムカつくからよ」
見ると、姫咲の顔には、いつものニコニコ笑顔はなく、
奈津稀を睨んでいた。
「え?・・・・」
「橋本さんがムカつくの。だって、昴大と幼馴染なんだもん。
それに・・・」
姫咲はポッケからケータイを出し、ある写真を奈津稀に見せた。
それは、昴大と帰ったあの日、昴大と手を繋いでいる写真だった。
「な・・・んで・・・・・」
「これ。幼馴染がやるような子じゃないよね?
昴大、あんたのこと、好きなの?
「そんなことない・・・です・・・・!
でも・・・なんで・・・・その写真が・・・・」
「ああ。昴大と帰ろうと思ったら昴大、あんたと帰ってるから
後を追いかけたの。そしたら、こんなの撮れちゃったぁー♪」
「け・・・消して・・・・ください・・・・」
「はあ?」
「消してください・・・・!」
「なんで?」
「昂ちゃんに・・・・迷惑かかる・・・から・・・・・」
「はあー。その『昂ちゃん』っていうのも
前から気に食わなかったんだよね」
「・・・・・・・・」
「とにかく、あたしはこれを消さない。あと、あたしがこんな性格だって
誰にも言わないでよ?じゃぁね♪橋本さん」
そう言うと姫咲はその場を去っていった。
いつの間にか夜になり、真っ暗になっていた。
おそらく今は夕食の真っ最中だろう。
「・・・戻りたくないなぁ・・・・」
そう呟いたその時、「委員長?」という声が聞こえてきた。
見ると、そこには聖仁が立っていた。
「有岡くん・・・・」
「なんでこんなとこ、いんの?夕飯は?」
「なんか、戻りたくなくて・・・・・。有岡くんは?・・・」
「んー?散歩(笑)」
そう言って聖仁はニッと笑った。
そして聖仁は、奈津稀の隣に腰をかけた。
「え・・・。も・・・戻ろう?」
「委員長は戻りたいの?」
「・・・・・・・・」
「戻りたくないなら無理に戻らなくて良くない?俺もここにいるし」
「有岡くん・・・・・・」
それから2人は、何も喋らずにずっと海を眺めていた。
「はっくしゅん」
「冷えてきたなー」
「だね・・・・。もう戻ろ?」
「そうだな。風邪ひいてもあれだし」
聖仁はそう言って、自分が着ていた上着を奈津稀にかけた。
「い・・・いいよ!有岡くんが風邪ひいちゃう・・・・」
「俺はこう見えて頑丈ですから(笑)」
「本当にいろいろありがとう・・・・・」
「お礼言い過ぎ(笑)」
「ご・・・ごめんなさいっ・・・・!」
「謝んなって。褒めてんの(笑)」
そう言いながらホテルに向かって歩いていると、「奈津!聖仁!」という声が前から聞こえた。昴大だった。
「昂ちゃん・・・・・」
「お前、何やってんだよ!こんな暗いのに・・・・」
「で・・・でも、有岡くんが・・・」
「馬鹿!聖仁がいなかったら一人だろうが!危ねぇだろ!」
「ご・・・ごめんなさい・・・・」
「昴大、もういいだ・・・・・・・・」
その時、聖仁の言葉を遮るように、昴大は奈津稀を抱きしめた。
「こ・・・うちゃ・・・・・ん・・・・・?」
「心配かけんな・・・・・・」
「・・・・・・・ごめんなさい・・・・」
「んじゃ、早く帰ろうぜ。夕飯、なくなるぞ」
「・・・うん!」
「ほら。聖仁も!」
「・・・・あ。おう!」
3人は海をあとにして、ホテルに戻った。