# 2
放課後。
「橋本、来月ある修学旅行のしおり、作ってくれないか?」
教室を出ようとした奈津稀を、担任は呼び止めた。
「あ・・・・。はい・・・・・」
「頼んだぞ」
そう言うと、担任は奈津稀に25人分の計200枚ある紙を渡した。
外では、運動部の声が聞こえ、校舎には、
吹奏楽部の音色が響き渡っていた。
奈津稀は、窓際にある自分の席に座って、しおりを作り始めた。
ふと、サッカー部のほうを見てみると、昴大が目に入った。
サッカー部のそばでは、マネージャーの3人がいて、その中には姫咲もいた。
「・・・いつの間に、離れたんだろうね・・・・」
ポツリと奈津稀が呟いたそのとき、ガラッと言う、
教室の扉を開ける音がした。
ビックリして音のした方を見ると、一人の男子生徒が立っていた。
「あれ。委員長、まだいたんだー」
そう言いながら傍へ寄ってきたのは、
サッカー部で、昴大の親友でもある聖仁だった。
「あ・・・有岡くん・・・・」
「うわー。もう修学旅行なんだー。うちの学校ってさ、
修学旅行、1年と3年の2回あるんだって!珍しいよなー」
そう言いながら聖仁は、紙を一枚、手にとった。
「あの・・・部活は?・・・」
「あー。忘れ物取りに来た。っつーか、委員長、これ全部やんの?」
聖仁はほとんど減っていないしおりのページの山を指さした。
「あ。うん・・・・。先生に頼まれたから・・・・」
「先公もさ、いくら学級委員長だからって任せすぎただよな」
そう言いながら、聖仁は奈津稀の前の席の椅子に座り、
奈津稀の手からホッチキスを取り、プリントをまとめ始めた。
「えっ・・・・!有岡くん、いいよ・・・!
部活だし・・・・・一人でも大丈夫だし・・・・・」
「委員長、遠慮しすぎ(笑)ってか、アイツもこんな場面だったら、
手伝うだろーなって思っただけ。真似した(笑)」
そう言うと、聖仁はボールを追いかけている昴大を指さした。
「あ・・・・ありがとう・・・・」
「おう!」
それから30分後。
突然、放送が流れてきた。
『サッカー部1年有岡 聖仁。どこ行ってんだああああ!!!!!』
放送から聞こえてきたのは、サッカー部顧問であり、
学校の教師のなかで一番厳しく、怖い飯田先生だった。
「やっべ!ごめん!戻るわ!!委員長、頑張ってな!」
「あ。ありがとう!」
そう言うと、聖仁は走って教室を出て行った。
机の上を見ると、まだ1時間も立っていないのに、
残り5人分だけが残っていた。
聖仁が来なければ、おそらく、
まだ10人もできていなかったのかもしれない。
聖仁に感謝の気持ちを持ちながら、奈津稀は作業を続けた。
作業が終わる頃には、空は紺色に染まり始めていた。
奈津稀は戸締りをして、できたしおりを持って、職員室に持っていった。
帰り道。
校門の近くにある自転車置き場の前を通ると、
「委員長!」と言う声がした。
見ると、聖仁と、隣には昴大がいた。
「有岡くん、昴ちゃん・・・・!」
「もうしおり、できた?」
「う・・・うん・・・。有岡くんのおかげです・・・・」
「いいって(笑)」
「しおりってなに?」
「あー。さっき俺、忘れ物取りに教室行ったじゃん?
そしたら、来月の修学旅行のしおり、委員長が一人でやってて。
手伝ってたわけ」
「ふーん。・・・っつーか、聖仁、弟の迎え、行かなくていいのか?」
昴大が聖仁にそう言うと、聖仁は腕時計を見た。
そして、「うわっ!やべっ。またな!昴大、委員長!」と言って、
さっさと校門を出て行った。
「・・・じゃあ、私も。昴ちゃん、ばいば「なんで?」」
「え?」
「家、隣なんだから一緒に帰ろうぜ」
「で・・・でもっ・・・・・」
そう言うと、「昴大ー!」と言う声が背後から聞こえてきた。
声の主は、姫咲だった。
「山本、なんだよ」
「冷たいなぁ。一緒に帰ろうよ!」
姫咲はそう言って、昴大の手を掴んだ。
「昴ちゃん・・・・山本さんと、帰って?私、一人でいいから」
「ホントに?!橋本さん、ありがとぉ。
ほら、昴大、橋本さん、いいって!」
姫咲が昴大にそう言うと、昴大は姫咲の手を振り払った。
そして、「最初に奈津と約束したから」と言って、
奈津稀の手を引っ張って走り出した。
「こ・・・昂ちゃん・・・!」
「ん?」
「や・・・山本さんと帰りなよ・・・・」
「ばーか。幼馴染のほうが大事だっつーの」
そう言って昴大は奈津稀の頭をポンポンと軽く叩いた。
「んで?しおり、聖仁に手伝ってもらったの?」
「うん・・・!有岡くんって弟さん、いたんだね?」
「あー。あいつ、見かけは不良なのにな(笑)
親が共働きだからって、弟の迎え、毎日行ってる。不良じゃねーよなw」
そう言うと昴大は笑った。
「ってか、こうして2人で話すの、久々だなー」
「・・・立場、全く違うもんね」
「どこが?」
「どこがって・・・!昂ちゃんは友達に囲まれてるけど、
私は一人ぼっちだから・・・・」
「はあ・・・・。お前、馬鹿かよ(笑)
友達っつーか、家族がいんだろ。ここに」
そう言うと、昴大は自分を指さした。
「友達より、家族いたほうが、俺は嬉しいと思うけど?^^」
「昂ちゃん・・・・・・」
「ほら」
そう言うと、昴大は奈津稀に手をさし伸ばした。
「な・・・なんで?!」
「昔は毎日繋いでたじゃーん。っつーか、家族だろ!
なんも問題ねぇし(笑)」
昴大の『家族』という言葉に、奈津稀の心がチクッとした。
(・・・なんだろう)
奈津稀は大丈夫だろうと思い、恥ずかしがりながらも、昴大の手を握った。
あの人に見られていると気づかないまま・・・。