# 1
- 16年前 -
市内の病院で、2人の赤ちゃんが生まれた。
男の子 と 女の子。
関係がなければ赤の他人だが、親同士が親友で、
偶然にも、赤ちゃんが生まれる日にちが同じだった。
橋本家に生まれたのは、
2856㌘で生まれた「奈津稀」と名付けられた女の子。
大倉家に生まれたのは、
3237㌘で生まれた「昴大」と名付けられた男の子。
これからあんな関係になることは、誰も知らなかった。
- 5年後 -
「昴くん、待ってよぉー」
「なっちゃーん、早くー」
5歳になった奈津稀と昴大は、生まれたあの日から、ずっと隣で育ってきた。
出かけるのも、誕生日パーティーも、旅行も、
大体が橋本家と大倉家は一緒だったからだ。
ある日。奈津稀の母親と父親は、7回目の結婚記念日で、
その日も大倉家で、奈津稀と昴大は一緒にお祝いをしていた。
「ママー、けっこんきねんびってなーに?」
「なっちゃん、結婚記念日って言うのはね、なっちゃんのママとパパの
気持ちが一緒になった日なのよ」
「どうすれば、結婚記念日ができるの?」
「それはね、なっちゃんが、16歳を過ぎて、なっちゃんの決めた男の子と
気持ちが一緒になって、結婚したら迎えられるんだよ」
「じゅうろくさい?今、5歳だからぁー・・・」
そう言って、奈津稀は自分の手の指を一つ一つ折り始めた。
奈津稀の行動を見て、隣にいた昴大も同じように折り始めた。
折り終わった奈津稀は、母に「あと11歳だあー」といった。
「なっちゃんママ!俺もあと11!」
「昴くんは、あと13歳かな。男の子は女の子と違って18歳なの」
「ええー!じゃあ、俺、18歳になったらなっちゃんと結婚するー!」
「なっちゃんも!昴くんと結婚する!」
「楽しみだね^^」
5歳のあの日。
奈津稀と昴大は小さな約束をした。
- 11年後 -
「橋本ー、理科の課題、クラス全員の集めて、職員室に持ってきてくれ」
「はい・・・・」
担任に頼まれ、奈津稀は教卓の前にたった。
そして、口を開き、「理科の課題、持ってきてください・・・」と言った。
しかし、誰も聞いてはいない。
「あの・・・・理科の課題・・・・」
何度言っても、クラスメイトの耳には届かなかった。
奈津稀はしょうがなく、黒板の真ん中に赤チョークで書いた。
その字に気づき、やっとクラスメイトは課題を提出し始めた。
そんなとき。
クラスでも中心的な男女グループの会話が奈津稀の耳に入った。
「えー。課題なんてあったっけぇー?」
「あったんじゃね?っつーか、やってねぇー(笑)」
「昴大、やったぁ?」
奈津稀の耳には、『昴大』と言う、幼馴染の名前もしっかり入った。
「やってねぇーしwww 奈津ー」
そう言うと、昴大は奈津稀の名前を呼んだ。
「昴ちゃん、なに?・・・・・・・・」
「理科の課題っていつまで?」
「ご・・・ごめん・・・・。わかんない・・・・・」
「そっか。サンキュ」
そこで、奈津稀と昴大の会話は終わった。
「知らないとか、マジ勘弁ー。マジで橋本さん、役に立たないよねー」
「ってか、会話も暗くね?(笑)昴大と橋本さんって幼馴染っしょ?」
「んー?そうだよ?」
「お前も可哀想だな(笑)あんな地味で暗い女が幼馴染って(笑)」
「は?そんなことねー「もう!みんな橋本さんが可哀想でしょ?」
昴大の声を横切って奈津稀を庇った声の持ち主は、
校内で男子に一番モテ、昴大と『美男美女カップル』と呼ばれている、
姫咲だった。
「昴大と幼馴染ってほうが可哀想だよぉ」
「ぶはっ(笑)それもそうか」
「お前らなー・・・。山本、お前、酷くね?(笑)」
「えへへー。ごめんね♫」
その笑顔で、昴大以外の男子は、姫咲にイチコロだった。
「姫咲は、宿題やったのー?」
「もちろん!もう橋本さんに渡したよぉ」
「早っ!んじゃ俺、奈津に写させてもらう」
そう言うと昴大は、奈津稀のところへ歩こうとした。
すると、「昴大!」と言う姫咲の声がきこえた。
「・・・んだよー」
「橋本さんが自力でやってるのに、それを写すなんて酷いでしょー」
「山本、厳しいわ」
「幼馴染って、利用するためにあるんじゃないんだよ?」
「へいへい・・・・」
そう言うと、昴大は自分の席に戻り、課題を渋々やり始めた。
15年たった今。
奈津稀と昴大の同じはずだった立場は、いつの間にか真反対になっていた。