# 10
「ほれ。まず、海に入れ」
昴大は先に海に入り、奈津稀に言った。
しかし、奈津稀は入らなかった。
「どうした?」
「こ・・・こわ・・・い・・・・」
「あれがまだトラウマになってんのか・・・・」
- 3年前 -
奈津稀と昴大が中学生だった頃。
中学2年生から中学3年生のときが一番、奈津稀に対する虐めがひどかった。
昴大が、どんどん大人っぽくなって行くにつれ、
女子からもだんだんとモテるようななった。
それと同時に、と幼馴染と言うことを恨む女子が急増し、
奈津稀を虐める女子が多くなった。
そんな冬のある日。
その日は氷点下を上回るほどの寒い日だった。
放課後。
奈津稀はクラスの女子にプールに呼び出された。
プールに行くと、クラスの女子の他に、ほかのクラスの女子、
あるいは、全く顔の知らない女子もいた。
学年の女子の中で一番リーダーシップのある女子が口を開いた。
「橋本さん」
「は・・・はい・・・・!」
「あんたさぁ、大倉くんと付き合ってんの?」
そう言われ、奈津稀は首を思いっきり横に振った。
しかし、それまでの奈津稀と昴大の行動は、幼馴染というよりも、
恋人っぽかったと女子からは見えていた。
「どうだか(笑)ここにいる子たちはね、みんな大倉くんのことが好きなの。
でも、大倉くんは、橋本さんのことしか目にないように感じる。
大倉くんのことを好きな子はみんな、橋本さんが邪魔なの。分かる?」
「・・・・はい・・・・」
「んじゃあ、大倉くんと関わらないでよ」
「・・・え」
「単なる幼馴染でしょ?引っ越までは言わないわ。
でも、必要以上のことは、話さないでよね。じゃあ、そういうことで」
そう言うと女子たちはプールから立ち去ろうとした。
そのとき、「いやです・・・・」と言う声が奈津稀の口から聞こえた。
「は?」
「い・・・いやです・・・・!」
「あんた、今の立場、わかってんの?」
「だ・・・だって、昂ちゃんのことを、好きになろうが構いません・・。
けど!昂ちゃんと一緒にいようが、
いないが、私と、昂ちゃんが決めることです・・・!
幼馴染なんだからしょうがないじゃないですか・・・!だから・・・・」
「はぁー。ありえないんですけど(笑)」
見ると、女子の目は、奈津稀を睨んでいた。
そして、女子の数人が奈津稀を押して、プールに落とした。
「きゃっ・・・・!た・・・たすけ・・・・・!」
「あんた、泳げるじゃん。自分で上がりなさいよ。
それとも、王子様が来てくれるのかしら?(笑)」
「「「あははははは」」」
リーダーの言葉を聞いて、他の女子は笑った。
「あんたがあのまま承諾しておけば、落とさずに済んだのに。
全部あんたが悪いのよ」
そう言って女子たちは、奈津稀を助けないまま、プールから去っていった。
「た・・・すけ・・・・・・・て・・・・。
こ・・・うちゃ・・・・ん・・・・・・」
いつのまにか、奈津稀はプールの中で気を失っていた。
目が覚めたときは、病院のベッドの上に寝ていて、そばには、昴大が奈津稀の手を握っていた。
「昂・・・・ちゃ・・・・ん・・・・・」
「奈津!!!!大丈夫か?!すぐ先生、呼んでくるから!!!!」
昴大はそう言って病室を出て行った。
数分後。
昴大は医者を連れて戻ってきた。
「先生・・・私は・・・・・・」
「学校のプールがあまりに冷たすぎ、そのまま気を失っていました。
命に別状はありません」
「・・・・・・・」
「何があったか話せますか?」
「・・・・・・・」
奈津稀は無言のままだった。
「・・・・話せるようになったら、ご家族の方にでも話してください」
「・・・はい」
「では」
そう言うと医者は病室を出て行った。