003「笠碁」
登場人物
姉――――高校二年生。ツンデレ。ヘボ。
姉友――――高校二年生。ツンデレ。ザル。
妹――――中学三年生。
友妹――――中学三年生。
読了時間:約16分(7,514文字)
小学生のころ流行った遊びというと、遊戯王を真っ先に思い出します。
ゲームこそが何よりものコミュニケーション手段。昔はサッカーや野球などで培われていたものでしたが、最近では、ゲーム関係で友達を作るという小学生も多いのではないでしょうか。かく言う僕もゲームを何よりも重視していた少年時代を送っていて、特に遊戯王は友達の間で大流行していました。
小学生同士の遊びといえども、当時の僕たちにとってはまさしく真剣勝負です。勝負で勝てば偉いものとされて、周囲から一目置かれるようになる。お互いに大事なカードを賭けて勝負する。それからやはりコミュニケーションの手段として勝負する。当時のころは、遊戯王をやっているだけで友達に認定できる風潮さえありました。そのため全く話したことの無いクラスメートであれど遊戯王をするためだけに家へ訪問したこともあります。
いざ勝負するとなると、やはり盛り上がるものです。お気に入りのカードを使ってお互いに勝負する、それが燃えるわけです。各々がお気に入りのカードを主軸にデッキを組むわけですが、しかし今から思い返せば実に稚拙なものばかりでした。上級モンスターを入れすぎて下級モンスターが出せなくなる友達。守備力の高いモンスターばかり入れて勝負を泥沼化させる友達。出せもしないのにゲード・ガーディアンや究極完全対・グレート・モスを入れる友達。禁止カードでもお構いなしに入れる友達。何の考えも無くエクゾディアをぶっこむ友達……まあこれは僕のことなのですが。
そんな稚拙なデッキばかりだったのにも拘わらず盛り上がっていたのは、お互いの実力が僅差だったからでしょう。勝負というのは、勝つか負けるか分からないものこそ面白い。逆に言えば、強すぎる友達や弱すぎる友達はあまり相手にされません。じっさい一人だけ強すぎと称される友達がいたのですが、その友達は何となく周囲から浮いていて、結果として除け者にされがちでした。「そのカードを入れるのはズルい」「そんなのを入れたら勝つに決まってる」。そんな言葉を浴びせられて、泣く泣くその友達は強すぎと称されるカードをぶっこ抜かざるを得ませんでした。……まあこれも僕の事なのですが(エクゾディアを入れただけでチート扱いされていました)。
勝負事というものは勝つか負けるか分からない相手とやってこそ面白い。それは何も遊戯王に限った話ではなく、娯楽として行われる勝負であれば全般的に言えることだと思います。例えば盤上遊戯。オセロ・将棋・囲碁などでも、どうなるか分からない勝負であれば、初心者同士でも白熱するものでしょう。
けれども勝つか負けるか分からないからこそ勝ちたい強く思うのもまた事実。仲の良い友達とやっていても時折りムキになったりして、娯楽として始めたはずなのに喧嘩にまで発展してしまうことも偶にはあるわけでございますが……
*
姉友「あ! ……ごめん。この一手だけ待ってくれない?」
姉「なに言ってるのよ。待ったなしでやろうって言ったのはあなたじゃない」
姉友「それはそうだけど……。でもこの一手だけお願い! ここを待ってくれたら、あんたのも一手だけ待ってあげるから!」
姉「ダメよ」
姉友「……ダメ?」
姉「ダメ」
姉友「……ふうーん。あっそう。待たないんだ」
姉「待たないから、早く打ちなさいよ」
姉友「はいはい。はあ……。いいとこ打たれたわぁ……。油断しちゃった……。どうしよう……」
姉「…………」
姉友「……ねえ」
姉「何?」
姉友「いいでしょ? 一手くらい待ってくれてもいいじゃない?」
姉「ダーメ」
姉友「……あっそ! あーはいはいはい。これだけ言っても待ってくれないんだ」
姉「待ったなしで始めようって言ったのはあなたじゃない」
姉友「はいはい。そこまで待ってくれないんならね……、あたしだって、言いたくないことの一つでも言わなくちゃならないわよ」
姉「……? 何よ。遠慮しないで言ってみなさいよ」
姉友「あー言ってやりますとも。言わなきゃ納得してくれないんだからね」
姉「いったい何の話よ」
姉友「一昨年の暮れの話。あたしたちが中学三年生のころの話だけど……」
姉(ずいぶん古い話を持ってくるのね)
姉友「あんた、お金を貸してほしいと言ってきたわよね。サンタのコスプレ衣装を買うために五千円を貸してほしいとせがんできたわよね」
姉(ああ。そういえばあなたとクリスマスパーティーするためにそんなもの買ったっけ……。恥ずかしい話を持ち出すなぁ)
姉友「あたしは五千円を貸しました。その時あんたはこう言ったわ、『次の月になったらお年玉もらえるからその時に返す』って」
姉「言ったわね」
姉友「あたしは待ちました。年が明けて元旦。それから二日・三日・四日と過ぎました」
姉「過ぎたわね」
姉友「結局あんたが返したのは二月になる頃。それまであたしはずーっと待ち続けました」
姉「……それはそうだけど」
姉友「その時あたしは文句なんて一言も言いませんでした。ずーっと待たされたけど、あたしたちは昔っからの幼馴染、それくらい許してあげたものよ」
姉「…………」
姉友「あの時あたしは『待てない』なんて言わなかったでしょ?」
姉「それを言いたいがためにあの話を引き合いに出したの!?」
姉友「いいじゃない! あたしは一ヵ月も待ってあげたのよ? それに比べたらここで一手待つくらいなんだってないじゃない! 待ちなさいよ!」
姉「確かにここで待つくらいなんでもないけど……」
姉友「じゃあ!?」
姉「でもね、お金と碁は違うでしょ」
姉友「いや! そんな区別できる話じゃないわ。お金でも碁でも待ってあげるのが人情よ」
姉「あなたねぇ……」
姉友「とにかく待ちなさいよ」
姉「……。そんな話を聞かない内ならまだ待てたわよ。でもそんなにしつこく言われたら、わたしだって待ちたくなくなったわ」
姉友「あんた強情ね」
姉「ええ。強情ですとも。昔から強情で通ってるんだもの。それはあなただって知ってるでしょ」
姉友「……あっそ。あっそっ」
姉「分かったら打ちなさいよ」
姉友「…………」
姉「…………」
姉友「まったく。碁を始めたばっかりにこんな下らない喧嘩にまでなっちゃって……」
姉「あなたが昔の話を引っ張り出したからでしょ!?」
姉友「こんなことになるくらいならね、碁なんてやめりゃいいのよ」
姉「は? 投了するの?」
姉友「投了なんてしないわよ。こんなものはね、こうするのよ……」
と、碁盤をめちゃくちゃにかき回す。
姉「ちょちょちょちょ!? 何してんの!?」
姉友「喧嘩するくらいなら碁なんてやらなきゃいいのよ」
姉「……何も壊すことはないじゃない。あなたもずいぶん強情ね」
姉友「ええ。強情ですとも。昔から強情で通ってるんだもの。それはあんただって知ってるでしょ」
姉「わたしの台詞をパクるな!」
姉友「ふん。別にいいでしょ」
姉「……。もういいわ。そんなことする人だとは思わなかった。もうあなたとは付き合ってられない」
姉友「…………」
姉「じゃあわたしは帰るから」
姉友「……帰る?」
姉「帰ります。もうあなたの家になんて居てられない」
姉友「……。ふん。好きにしなさいよ。帰れ帰れ。……このヘボ」
姉「ヘボ……? 今わたしのことをヘボって言ったの!? 待てとか何とかさんざん言ってきたくせに!」
姉友「ヘボでしょ。あたしの方が勝率は高いわ」
姉「わたしはね、わざと負けてあげてるのよ。適度に負けてあげなきゃ勝負にならないでしょ。それも知らないで勝った気になっちゃって……。このザル」
姉友「サル……? 今あたしのことをサルって言ったの!?」
姉「いやサルじゃなくてザルよ……。あなたの碁はね、隙間だらけなのよ。このザル」
姉友「なに言ってんのよ、このヘボ」
姉「なによ、このザル」
姉友「…………ヘボ!」
姉「…………ザル!」
姉友「……もうあんたとは絶対に碁なんて打たない!」
姉「あっそ! わたしだって助かるわよ!」
姉友「帰れ!」
姉「帰るわよ!」
もうお互いに高校二年だというのに一手待つか待たないかで大喧嘩。挙句に姉は怒って自分の家に帰りました。
*
それから姉は、二・三日ほど買いものやゲームセンターで気を紛らわせました。が、そう長く続いたものでもなく、雨が降り出す時分になると退屈で退屈で仕方がない。こんなとき姉友がいれば碁でもして暇を潰せるのにな、そう思う心は正しく「碁敵は、憎さも憎し懐かしし」というもので……
姉「はぁ……。雨、ぜんぜん止まないわね」
妹「そうだねー」
姉「小雨のくせにぜんぜん止まない」
妹「そうだねー」
姉「……退屈ね。碁でも打ちたいわ」
妹「どこか店にでも行って勝負してくればいいんじゃないかな?」
姉「なに言ってるのよ。店になんて行ったって、わたしに合う相手なんていないわよ」
妹「あれ? お姉ちゃんってそんな強かったっけ?」
姉「バカ言わないで。みんなの方が強すぎるのよ」
妹「あ、それなら納得」
姉「わたしの相手なんてね、あいつしかいないのよ」
妹「ふうーん」
姉「……まったく。喧嘩なんてするんじゃなかったわ」
妹「…………」
姉「でも、あんなにしつこく待てって言ったり、昔の話を引っ張り出したりしてきて……。そんなんじゃわたしだってカチンと来るわよ」
妹「…………」
姉「……あいつ、いま何やってるのかしらね」
妹「さあ……。お姉ちゃんと一緒で、あの人も退屈してるんじゃない?」
姉「……こう雨ばかり降ると、寒くなるわよね」
妹「……? そうだね」
姉「わたしは大丈夫だけど……あいつ、風邪ひいてたりしないかしら」
妹「……。どうだろう」
姉「ひいてたら可哀相よね」
妹「可哀相だね」
姉「あいつ、店番やらなくちゃいけないから寝込むわけにもいかないだろうし」
妹「家で経営してる駄菓子屋で働いてるんだよね」
姉「……見舞いに行ってあげようかしら」
妹「行ってあげた方がいいと思うな」
姉「でもわたしから謝るなんて癪だし……」
妹(意地を張ってるなぁ)
姉「…………」
妹(どうするのかな?)
姉「そうだ。家の前を通ってやろう」
妹(……。まあお姉ちゃんにしては頑張った方かな)
姉「店番やってたら、わたしに気付いてなんか言ってくるはずでしょ。『どこ行くの?』くらいは言ってくるはず……。いや、『寄って行きなさいよ』くらい……」
妹(他力本願だぁ)
姉「よし。決めた。ちょっと行ってくる」
妹「うん。頑張って」
姉「ちょっと傘を貸してね」
妹「あ、ごめん。わたしもこれから買い物に行くんだ。だから傘は貸せないの」
姉「えぇ!? べ、べつにいいじゃない。ちょっと借りるだけよ?」
妹「そんなこと言われたら今晩のおかず買い出しに行けないよ」
姉「……じゃあどうしろって言うのよ。濡れて行きなさいって言うの?」
妹「いやそうは言わないけど」
姉「このわたしが水も滴るいい女だって言うの?」
妹「そんなこと言うわけないけど」
姉「もう、照れるじゃない」
妹「言ってないってば」
姉「困ったわねぇ……。小雨とはいえ傘がないと濡れちゃうし……」
妹「んー。そういえば家に被り笠が置いてあったよね」
姉「お地蔵さんが頭に被ってるあれ?」
妹「そう。あれを被ったら傘替わりにはなるんじゃない?」
姉「えー? あれを被って外を歩くの? ちょっと恥ずかしいんだけど……」
妹「いいじゃん。お姉ちゃん一昨年、サンタのコスプレ衣装を着てたじゃん」
姉「そうだけども……」
妹「お姉ちゃんなら似合うって」
姉「んー……。まあ濡れないためにはしょうがないか」
妹「確か倉庫にあったと思うよ」
姉「うん。じゃあそれを被って行ってくるわ」
妹「行ってらっしゃい。頑張ってきてね」
姉「大したことはしないわよ。家の前を通るだけなんだから」
姉は被り笠を被って家を出ました。
*
一方、姉友はというと……
姉友「退屈ね……」
友妹「雨だからお客さんも来ないしね」
姉友「碁、打ちたいわね」
友妹「店とかに行って打ってくれば? あたしが店番しとくよ?」
姉友「なに言ってるのよ。店になんて行ったって、わたしに合う相手なんていないわよ」
友妹「あれ? お姉ちゃんってそんな弱かったっけ?」
姉友「あたぼうよ。あたしの弱さを舐めないでよね」
友妹「誇るところじゃないと思うけどな……」
姉友「あたしに合う相手なんて、あいつしかいないわ。あいつとじゃなきゃ面白くも何ともないもの」
友妹「…………」
姉友「…………」
友妹「あたしが誘いに行ってあげようか?」
姉友「よしてよ。大喧嘩したの知ってるでしょ?」
友妹「知ってる。一手待つか待たないかで喧嘩したんでしょ。高校二年生にもなってそんなことで……」
姉友「いや違うのよ。確かにあたしは待てって言ったけど……、あれだって別に待ってもらわなくても勝てた勝負なのよ。待ってくれたらありがたいなっていう、そういうことじゃない」
友妹(……何が言いたいのかさっぱり分からん!)
姉友「別に行かなくたっていいわよ」
友妹「どっちかが謝らないとずっとこのままだよ? それならあたしが仲立ちして……」
姉友「いーいーの! そんなことしなくたって、そのうち来るわよ。昔っから知ってる。あいつはそういう性格なのよ」
友妹「…………」
姉友「はぁ……。あいつ、いま何やってんのかしらね」
友妹「さあ」
姉友「……? ……おっ?」
友妹「どうしたの?」
姉友「来た来たっ! やっと来たわよ! ほら、そこの電柱の後ろ! んもう、ずいぶん待たせてくれたじゃない!」
友妹「わ、本当だ」
姉友「見てみなさいよあれ! 決まりが悪くってなかなか入ってこれないんだわ! そんなことしなくてもすぐに入ってくればいいのに!」
友妹「お姉ちゃんの言うとおり、本当に来たんだね」
姉友「そりゃそうよ! あたしが我慢できないくらいなんだから、あいつが我慢できるわけないのよ!」
友妹「どうするの?」
姉友「どうするって、来てくれたらそれでいいのよ! ちょっといつもの部屋に碁盤を用意しておいて! あ、それから羊羹も切っておいて! あいつ甘い物が好きだから」
友妹「はーい。ま、頑張ってよね」
姉友「分かった分かった。……しかしあいつ、変な格好して出てきたわねぇ。被り笠なんて被っちゃって」
*
姉「…………」
姉友(お。こっちに歩いてきた)
姉「…………」
姉友(ずいぶん気を持たせるわね。さっさと入ってくればいいのに)
姉「…………」
姉友(あ、あれ?)
姉「…………」
姉友(ちょ、ちょっと。どこに行くの?)
姉「…………」
姉友「行っちゃった……。あいつ、ここに来たわけじゃなかったの? 何よ……。期待させちゃって……」
友妹「お姉ちゃん? どうかした?」
姉友「どうもしてない! 奥に行ってて!」
友妹「はいはい」
姉友「はぁ……。ほんと、何なのよ」
姉「…………」
姉友(お? やっぱり出て来るの? なによぉ! 来るなら来るでさっさと来ればいいのにぃ!)
姉「…………」
姉友(あんなちらちら見ちゃって……。正面から見据えればいいじゃない。わざとらしいわ)
姉「…………」
姉友(さあ来なさい。……ってあれ? あれれれ?)
姉「…………」
姉友「また行っちゃった……。やっぱり来ないの? もしかして、もう帰っちゃうのかしら……?」
友妹「お姉ちゃん。用意してきたよ」
姉友「ああ。うん。ありがとう……」
友妹「まだ来てないの?」
姉友「来てない。……あ。でもあれ、見てみなさい!」
友妹「ん? あ。また電柱の陰に隠れてるね」
姉友「どうしようか迷ってるんだわ! あたしには分かるんだから! ……ふふ。強情なやつね。仕方ない、こっちもちょっと手伝ってやるか」
友妹「どうするの?」
姉友「ちょっと碁盤をここに持ってきてちょうだい。打つ音を聞き付ければ来ないわけにはいかないでしょ」
友妹「はいはい。ちょっと待っててね」
姉友「……しかしあいつ、何度見ても変な格好してるわねぇ。きょうび被り笠を被るやつなんて見たことないわよ」
友妹「持ってきたよ」
姉友「ありがとう。これをカウンターに置いて……。白はあっちで、黒はこっちで……」
友妹「じゃあ頑張ってね。あたし邪魔しないように奥に行ってるから」
姉友「うん。……ふふ。この打つ音につられて来るに違いないわ」
と、パチンと鳴らす。
*
姉(あいつ、まだあのことを根に持ってるようね。わたしが通り過ぎるたびに睨みつけてきちゃってさ……。声をかけてくればいいのに)
姉友「…………」
と、パチンと鳴らす。
姉(……? 碁の音? 聞こえよがしに大きく鳴らしてるわねぇ……。ほんと、わざとらしいなあ)
姉友「…………」
と、パチンと鳴らす。
姉(……いい音ね。あの音を聞くと、無性に勝負したくなっちゃう)
姉友「…………」
と、パチンと鳴らす。
姉(……え? ちょっと待って? 碁の音って、じゃあ誰とやってるの? あいつの相手なんているわけないはずだけど……)
姉友「…………」
と、パチンと鳴らす。
姉(ダ、ダメよ。あなたの相手はわたしのはずでしょ? 誰とやってるか知らないけど、そんなの許さないんだから……!)
姉友(お。出てきた出てきた。やっぱり碁の音につられて来たわね)
と、パチンと鳴らす。
姉(……誰とやってるのかしら? 気になるけど、ちらちらと見るしか……)
姉友(もー! はやく入ってきなさいよ! あんたを待ってパチパチやってるんだから!)
と、パチンと鳴らす。
姉(ん? あ、あれ? 誰ともやってない? 一人でパチパチやってるの?)
姉友(あ! ちょっと! また通り過ぎるの!? ここまで来てるのに……。本当に強情なやつ)
姉(……もしかしてわたしと打ちたいからあんな寂しいことしてるの? まったく強情なやつねぇ)
姉友(ほらほら。そんな迷ってないで、こっちを見なさいよ。はやくはやく)
姉(……やれやれ。ちょっとだけ覗いてみようかしら)
姉友「……おい!」
姉「!」
姉友「ヘボ!」
姉「……! なに? 今わたしに言ったの?」
姉友「ヘボはあんたしかいないでしょ! あんなに頼んでも待ってくれないなんてヘボじゃない!」
姉「なにを勝手なことを……。このザル」
姉友「ザルぅ? ふん。このヘボ」
姉「大ザル!」
姉友「大ザルぅ!? ヘボだかザルだか、白黒はっきりつけようじゃない!?」
姉「望むところよ!」
姉友「……ふっ」
姉「ふふふ……!」
姉友「ヘボだかザルだか……、喧嘩なんてしてたってしょうがないわよ」
姉「そうね。仲直りしましょう」
姉友「昔からの幼馴染だものね。仲良くいこう」
姉「そうとも。こんな喧嘩くらいで絶交するほど、わたし達の絆は浅くないわ」
姉友「さ、打ちましょ」
姉「ええ」
と、俯いて碁盤を見下ろす。
姉友「……あれ? 碁盤に水が滴ってる?」
姉「え? わ。ほんとだ」
姉友「何だろう。雨漏りかしら……?」
姉「ちょっと。すごい勢いで漏れてるわよ。どういうこと?」
姉友「うーん……」
姉「……?」
姉友「あっ! あんた、まだ被り笠を取ってないじゃない!」