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ヒーローになれなかった彼の償い方、そして残したもの

作者: 筧 耕一

感動ものにするつもりが、どんどん暗い感じになってしまいました。


短編ですので、登場人物に名前はいれませんでしたので、少し分かりにくいかもしれません。

 俺は人殺しだ。

 別に殺意があったというわけではない。


 他の人達は、ただ運が無かった事故だ。そう言って俺を励ますが自分のなかでは到底、事故ですまされることではないことを知っていた。


 もしかしたら、あの時の俺はヒーローきどりだったのかも知れない。

 もっと上手く、たち振る舞えていたら死なせずにすんだはずだ。

 あの日以来、死なせてしまった9才の女の子が俺を怨んでいる夢を毎晩みている。


 あの日、トラックに轢かれそうになっている女の子を偶然見た俺は、女の子を助ける為に道路に飛び込んだ。

 現実は漫画のようにいかない。 よくそういう台詞を聴いた事があるだろう。全くその通りだった。


 俺はとっさの事で、女の子を突き飛ばして救おうした。まるで漫画である1シーンみたいな感じだ。

 次の瞬間、もちろん俺は車に跳ね飛ばされて重症をおった。


 しかし悲劇はそこで終わらなかった。


 女の子は突き飛ばされて受身もとれずに、頭をガードレールにぶつけてしまい大怪我をしていた。

 その後、俺と女の子は救急車で病院に運ばれたが一命をとりとめたのは……



 俺だけだった。



 あの日以来、俺は死に場所を求めている。

 なにが、足りなかったのだろうか? もっと速く走る脚力か? それとも、女の子を衝撃から守れるような頑丈な肉体だろうか? 

 あの時、突き飛ばしたりせずに女の子の手を引いて避けるべきだったのか? だが、そんな時間はなかった。

 突き飛ばす力の加減をもっと弱くするべきだったのか?


 俺は毎日のように後悔をしていた。 状況から判断して俺には罪は無く、女の子は事故ということになっていた。女の子の家族からは非難が殺到していたが……。

 俺はヒーローだったのか? それとも……

 

 俺も一緒に死んでいたら、もしかしたら女の子の家族の俺に対する憎しみは少しは軽減されたのかもしれない。

 だが俺は生き残ってしまった。


 それ以来俺は変わってしまった。


 なにもかもが嫌になり家族とも縁を切った。 子供を1人成人まで育てるのに1000万円ほどかかるとなにかで言っていた気がする。俺は働きまくって1500万円稼いでそれを渡して縁を切った。

 

 いつでも死ねるように遺書を書いたが、自殺するつもりはさらさら無い。

 どうせ死ぬなら誰かの為に、そして今度こそは誰にも迷惑をかけずに。


 最近は必要最低限の時しか外に出ておらず、ほとんど毎日家で肉体トレーニングしかしていない。

 だが、生きるためにも生活必需品の買出しは必ず発生する。


 俺は仕方なくトレーニングを中断して、外に買出しに行くことにした。

 外は晴天だった。 スーパーに行き、1週間分の食材やらなんやらを買い込むと、いつの間にか両手いっぱいになっていた。

 

 俺は両手に買い物袋を持ってスーパーから出て、大通りを通って帰ることにした。

 帰り道、こちら側の歩道を母親と一人の少女が手を繋ぎながら遠くから歩いていたのが見えた。


 あの女の子もあのぐらいの年だったな。 もうあの事故から4年経つんだな。 

 俺は歩きながらも、その親子をなにげなく眺めていると、少女はアスファルトに覆われている歩道から懸命に生えている花に夢中だった。

 正確にはその花に吸い寄せられた蝶々を見ていた。

 少女は母親の手を離して屈んで観察していた。

 

 やがて少女は花から飛び立った蝶々を追って道路に出てしまった。

 そこに一台の車が少女に迫ってきているのが見えた。 母親は少女が道路に出ていたのに気づいていなかった。


 今の状況に気づいているのは、おそらく俺だけなのだろう。

 くそっ! 俺が助けるしかないのか。 今度こそは誰にも迷惑をかけずに終わらせる!

 俺は素早く両手の荷物を捨てて道路に飛び込んだ。

  驚愕な表情をしてブレーキを踏む運転手、迫ってくる車を見ているだけの少女。 俺には全てがスローモーションに見えていた。

 

 大丈夫 間に合う。冷静になれ! この距離なら少女を腕に抱えて車を避ける事はギリギリできるはずだ。 いつもトレーニングをしていたのはこの為だろうが!!!


 俺は全速力で少女の元へ走り、腕に抱えて回避した。

 皮肉な事に俺はガードレールに頭を強打した。

 

 薄れる意識の中、俺は突っ込んできた車の方を見ると、中から運転手が出てきて救急車に連絡していた。

 「大丈夫。俺は……あんたの車には…ぶつかって……いない。だからあんたに責任はないはずだ。」

 俺はそう運転手に伝えた。


 俺は死に場所を求めていた。今度こそ完璧に人助けをして、だれにも悲しい思いはさせない。

 腕の中には、女の子がぐったりとしていた。気絶していただけのようだったが、すぐに目を覚ました。

 どこかでぶつけたのか少し血がでていた。

  

 生きていた! 今度こそ救えた。

 あとはこの少女に伝える事がある。もう俺の命はほとんど残されていないのがわかる。身体の感覚はないし、それに凄く寒い。

 「おまえは…生きろ! 必ず!」

 最期の力を振り絞ってそう言うと、少女は頷いたように見えた。

 

 ように見えた。と表現したのは俺はもう視界が真っ暗だからだ。

 最期に幼い声で、ありがとう と聞こえた気がした。

 それだけで俺は満足だった。

 そうして俺は意識を手放した。



 もう二度と意識は戻らなかった。







 わたしは人殺しだ。

 別に殺意があったというわけではない。


 他の人達は、ただ運が無かった事故だ。そう言ってわたしを励ますが自分のなかでは到底、事故ですまされることではないことを知っていた。


 あの事故からすでに5年経っている。 わたしが車に飛び出して、ある男の人に助けられてからもう5年だ。

 今になって思うと、あの時のわたしが起こした罪がどれほどのものだったか実感する。

 とても正気ではいられないくらいの後悔だ。


 あの時の事故の後、すぐに救急車が来て、幼いわたしと母親、男の人が乗せられた。

 すぐ横では隊員さんが一生懸命男の人を蘇生しようとしたが、どうがんばってもうまくいかなかった。


 

 そうしてわたしは今を生きている。



 わたしは中学に上がり、あの男の人の人生を知りたくなった。 いや、知らなければならないと思った。

 事故が起きた交差点には毎日かかさずわたしはお参りをしている。 そこには毎月18日には花が添えてあるのに気づいた。


 わたしの事故があった日では無い! 彼の誕生日だろうか? でも毎月はおかしい。

 わたしはそんなこともあり調べることにした。 すべてはわたしが元凶なのだから。


 調べた結果わかったことは、彼は昔女の子を救おうとしたが上手くいかずに、それ以来失敗を恐れるようになったらしい。

 彼の服の中からは遺書が見つかった。 その中には、救えなかった後悔や、もし自分がなにかを助けた際に死んだ場合は、その責任はすべて自分が弱かったせいであり自分の自殺願望が叶っただけであり、自分の命に免じてそうしてくれ。 と書かれていた。

 そのせいか分からないが、あの運転手に罪はほとんど無かったらしい。

 彼の保険証には臓器提供の欄にすべて丸がついており、脳だけに致命傷をおった彼の臓器はあらゆるドナー患者に届けられたらしい。最後まで他人の事を考えすぎる優しい人だった。


 わたしは、成長するにつれて幼い自分が引き起こした事故の重さに耐えられずに命を捨てようと思う時があった。 しかしその度に彼の「生きろ」という言葉を思い出す。

 少女を救えなかった後悔を背負っていた彼が 生きろ と言ったのだ。

 おそらく、彼に私を救わせてしまった後悔を背負うわたしが死に場所を求めないようにするために、あの時、わたしに言ったのかもしれない。

 いや、優しい彼ならそうしたはずだ。みんなが事故で不幸にならないように。



 彼はわたしに、生きる希望を残したのだ。それはわたしが守っていかなくてはならない。



 今日は18日、わたしの予想通りなら今日も彼のお墓には花が添えられているだろう。

 わたしはいつも通りに御参りをしていると、遠くから中年の女性が歩いてきた。 だいたいわたしの母親と同じくらいの歳だろうか。

 女性はわたしに近づくと声をかけてきた。

「あのー ここで亡くなった方のお知り合いの方ですか?」

女性はおだやかな声だった。

「わたしは・・・ここで彼に命を救ってもらいました」

 女性は そうですか。 とつぶやいた後に、重々しく口を開いた。

「わたしの娘も昔、この方に命を救ってもらいました。ただ運がなくて車にぶつかるのは防いだものの、頭を強打して亡くなってしまいました。当時は彼を恨みました。・・・でも今はどうでしょう、感謝もしているのです」

「この方が亡くなったと聞き、少し喜んだ時期もありました。ただ彼がまた人助けをした時に亡くなったと知ったら、なんともいえない気持ちになりまして、彼はわたしの娘を助けたい一心で車に飛び出したのに、私たちはそんな彼を恨んでしまったのです。一度でも彼に ありがとう といえなかったのが残念です。」

 女性は彼のお墓に花を添えた後にもう一度私に向かって話しかけた。

「時にはあなたは事の重大せいに苦しむかもしれません。でもあなたは、彼の分、そして私の娘の分までしっかりと生きてください。せっかく救っていただいた命なのですから」

 そういうと女性はお墓にお祈りをして帰っていった。



 わたしはその後、いろんな人を救う為にレスキュー隊を目指して高校、大学を卒業した。 あの時彼もレスキュー隊を目指せば未来が変わったのかもしれないと思いながら。

 レスキュー隊に入ってから、救えた命、救えなかった命がたくさんあった。何度も自分の行動を後悔したこともある。でも救えなかった命を出来るだけなくすために日々訓練をするしかない。



 それからあっという間に10年ほど経ち、わたしは結婚と同時に引退した。 もう体力に限界を感じたからだった。

 やがて、わたしは妊娠、出産を経験した。


 出産は死ぬほど痛いといっていたがそのとおりだった。 出産中、一度意識が朦朧としていたときに、夫の励ます声とは別に、死んだはずの彼の声が聞こえた気がした。

 「あの時のお譲ちゃんがついに母親になるとはな。よく・・・がんばって生きたな。もう少しで生まれるぞ! がんばれ!!」

 励ます彼の遠くから9歳くらいの少女が彼を呼んでいた。

「おじさーん。もっと遊ぼーよー。次は遊園地行こ? お化け屋敷ね。そのあとは映画館! 最新のアクション映画が見たいなー」

 彼はため息をつきながらも少女に言った。

「俺たち幽霊なんだから、お化け屋敷に行くのはなんかおかしくないか?」

 そう口では言ってるくせに、なぜか楽しそうだった。

「じゃあなお譲ちゃん。立派になったな。まだお譲ちゃんにはあの世の席はないからな。死ぬ最期の瞬間に、自分は良い人生だった。って思えるくらいにゆっくりと自分の人生を楽しめよ。俺たちはそれまで気長に待ってるさ。良い土産話を期待しているぜ」

 彼はそう言い残して少女の元へ歩いていった。 救えなかった少女があんなにワガママ娘とは知らなかったぜ。 と笑いながら呟いて消えていった。



 生まれてきた赤ちゃんは男の子だった。

 名前は昔から決めていた。 夫には少し申し訳ないような気がするが、わたしの人生を救ってくれたあの人と同じ名前をつけたかった。

 彼のように優しく性格に育ってもらい、すべて自分のせいと背負い込む所は、これからわたしが教育して罪に立ち向かう強さを持った子に育て上げる!


 わたしは、生まれてすぐの息子に声をかけた。


「生まれてきてくれてありがとう」 










FIN

 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 最期のほうはグダグダになってしまいました申し訳ありません。 明るく終わらせなきゃ、明るく終わらせなきゃ と考えたら変な方向にいってしまいました。 誰か、いい結末があれば教えてください。


 このような駄文ですが、感想がありましたら気軽にお願いします。


 今回は人助けをするつもりがかえって悲劇を生み出してしまったという悲しい話と、同じ文章を違う視点で書きたい というのをテーマを組み合わせた話でした。


 少しでも気に入っていただけたら、他の作品も見てもらえたらうれしいです。

 などと宣伝してみました。




 以上です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心に響きました ありがとうございました
[良い点] 2人の人生の対比がとてもよく、文章に引き込まれました。また、死んでしまった2人が仲良くやっているという最後のシーンは個人的に好きでした。 [気になる点] 特にない……というのもダメでしょう…
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