中編
小学六年生の夏――
セミがうるさいくらいに鳴く季節になった。私は、お母さんとお父さんと一緒に、自分の家から少し離れたお祭りに参加した。絶対、楽しい思い出にしようと思ったんだけど……
「まいったなぁ……ここ、どこだろ……」
前から自分は方向音痴だと自覚していたけど、まさか……両親と一緒にお祭りに来たのに、気づけば神社の前。アハハ。笑うしかないね、これは。
まだケータイを持っていなかった私に、通信手段はない。おまけに履いていた鼻緒の緒が切れて、歩けない始末。
「どうしよ……」
急に、不安が襲ってきた。
もし、お母さんたちが私のことを見つけてくれなかったら……
「あ」
涙が、自然と出てきて止まらなくなった。昔からなんでもマイナスに考えちゃう私は、どうすればいいか分からなくなった。
その時、誰かが私に話しかけてきた。
「大丈夫か? もしかして、迷子?」
私と同じくらいの歳の人だった。とても大きな猫のお面をつけていて、顔は見えなかった。
泣いていた私は声を出したら震えると思ったので、頷いた。
「親ときたのか?」
「う……ん」
「俺と同じくらいの歳のくせに、情けねぇな」
「……! ご、めん……」
その子は私のことを元気づけようとしたのだろうけど、私は泣いちゃった。
「わ、泣くな! おわびに、親捜すの手伝うから」
「……どうやって?」
すると、その子はニヤリと笑って、
「こうする……っと!」
「!?」
私の体がフワッと浮いたと思うと、その子は私を両手で抱えた。
……え、この状態って……
「ちょ、降ろして下さい!?」
「いいだろ、どうせ歩けないんだし」
私の緒が切れていることに気づいてくれてたんだ……って、そうじゃなくて!
「そうだ、名前は?」
「……佐緒里です」
「分かった……佐緒里、暴れんな」
お面のせいで顔が見えなかったけど、絶対に優しい人なんだと私はすぐに思った。
「なぁ、あの二人カップルか? まだ小学生だろ?」
「そうじゃない? こんな所でお姫様だっこって、勇気いるもん」
そんな声が聞こえた。私の顔の温度が、一気に上昇した。
「やっぱり、もういいです……」
「そんなに恥ずかしいことじゃない」
彼は平然と言った。だけど、耳が真っ赤だったのは見えた。
「これ」
その子は私に、自分がつけていたお面を被せた。
「これで、恥ずかしくないだろ」
「!」
自分だって恥ずかしいのに、私をかばってくれた。ダメだ、心臓がドキドキしてきた。
「佐緒里の親いますかーー!!」
そんな中、その子は大声で私の親を捜索し始めた。かなり動揺したけど、彼の方が絶対恥ずかしい。
お母さんやお父さん以外に、初めてこんなに優しくしてもらった私は自分の気持ちを整理できなかった。嬉し過ぎて……
「いないなーー。どうするか」
お祭りの中を一周してきても、お母さんたちはいなかった。
「もう、大丈夫です。自分でどうにかします。これ……」
私はお面を外そうとしたが、その子は「つけていろ。あげるから」と言った。
「とりあえず、花火みるかーー。俺、それが目的だし」
「友達とは、来ていなかったんですか?」
「あぁ。俺、あんまり友達いないんだよ」
そう言って、彼は私を降ろしてくれた。
「ほら、上見てみろよ。綺麗だろ?」
「……わぁ……!」
私が上を見た時、盛大な花火が上がった。黄色をベースにした大きな花火で、その形はまるで向日葵のようだった。
その後も、次々と夜空を色とりどりな花たちが飾っていた。まるで、夜空に花が咲いたみたい……
「俺の父さんが、あげてるんだよ。あの花火」
「あなたのお父さんが!?」
涙はもう、出なかった。
「そう……敬語は使うな。何歳?」
「十二」
「じゃ、俺と一緒だ」
その子は、お父さんの話をしてくれた。
お父さんはいろいろなところで花火を打ち上げる仕事をしているらしい。でも、仕事の関係でけっこう転校しているらしい。
「来年はもう、ここにはいないんだよ。俺」
「そうなの?」
「でも、三年後には帰ってくる。……ほら、あそこの丘の上に立っている建物あるだろ? あそこは、高校なんだって。俺はあそこに通う予定だ。だから、その時もう一回会おうな!!」
嬉しかった。また会おうと言ってくれるなんて思わなかった。
小学生の時からいじめられていた私は、友達なんて一生出来ないと思っていた。だから、絶対に将来彼氏なんて出来るわけない。そう思っていた。
でも。
私は、この人のことが好きになった。いつか、告白しようと思った。
高校生になって、絶対に合って、お礼をもう一回言うんだ。そう決めた。
「佐緒里!!!」
不意に、後ろから聞きなれた声がした。お父さんとお母さんだった。
「お父さん! お母さん!」
私は全力で二人のもとへ走り、抱きついた。
「じゃあ、俺はこれで」
「君は、佐緒里の友達かい?」
「はい。見つかって、よかったです……またね」
彼は、それだけ言って、去っていった。
『またね』という言葉は、『また会おうね』という意味を込めて言う言葉だ。
彼は、またねと言ってくれた。
「うん! 絶対、会おう!」
私は彼に手を振った。でも、振り返ってくれなかった。
「……わぁ! 青春じゃん! 恋じゃん! いいなーー!」
美紀に話し終えた後、私はがっくりとうなだれた。
「どした!? めっちゃいい話だったじゃん。私、感動した!」
「それがさぁ……」
名前、聞き忘れたんだよ。
「…………バカかっ! あんたはバカか!!」
「ご、ゴメン! でも、聞き忘れちゃったんだもん!」
はぁ、と美紀はため息をついた。
「もったいない! でも、そんないい人、うちの学校にいる?」
「約束したもん! だから、私は絶対にここに入るって決めたし」
すると、美紀は自分のノートを取り出した。
「それ、なに?」
「私が一年間努力して集めた生徒のデータよ。お父さんが花火師の人、探せばいいんでしょ?」
……考えたこと、なかった。さすが、美紀。生徒のデータをどこから採集していたのは知らないけど……
「えーと。花火師の親を持っている生徒は……!」
ペラペラとノートをめくっていた美紀の手が止まった。
「見つかった!?」
「……きゃあーーーっ!??」
美紀がいきなり、悲鳴を上げた。美紀の母親が、「うるさい!」との一言で美紀は黙り込んだ。
「どうしたの!!」
「佐緒里! 絶対に祭りに来なさい! 絶対よ!! それじゃあおやすみっ!」
ものすごく早口で美紀は言った。一体、何なの!!
それだけいい、朝まで恋バナをしようと言っていた本人が寝てしまった。ノートは、美紀が抱きしめているので、見たくても見られない。
「もう……私も寝よっと」
あの美紀の焦りよう、なんだったんだろう? 絶対にお祭りに行けって……
私は、スケジュール帳を開いた。美紀が誘っているお祭りの日は、空いている。そして……
「あの子が助けてくれた日……」
偶然って重なるかな。私を助けてくれた人が、もし来ていたら……
よし、行こう。魁人が来ようと、関係ない!!
私は、美紀の横で寝た。
「あーー!! 佐緒里!!」
浴衣姿の美紀が私に向かって手を振ってくれた。隣には、佑太君と……魁人。
「君が佐緒里ちゃん? 話すのは初めてだよね。僕は佑太。よろしく~」
「……はい!」
佑太君はとても背が高くて、顔もカッコイイ。美紀も可愛いし、お似合いだな……
「ほら、ボケっとしないで行こう!!」
美紀は軽く佑太君と腕を組んで走っていった。わぁ、なんかいいなぁ。
「ん」
魁人が、私の前に手を出してきた。
「なに、その手?」
「佐緒里がいいなーって顔してたから、俺がやってやろうかと」
「……バカっ!」
もう、なんなの!!
魁人は笑いながら逃げていった。追いかけようとしたけど、私は美紀と同じく浴衣を着ていたので、上手く走れなかった。
「じゃ、遊ぶか!!」
「もう、待ってよ!」
自然とできるよね。このチームは。分かっていたけど……今日は、目的があってきたんだもん。
意気込んで、私はお祭りの中に行った。
「リンゴ飴、どこかな??」
美紀が大好物の「リンゴ飴」を、佑太君と探しているみたいだ。私は、わたあめ探し。
「なに探してんの?」
「わたあめ。どこかな?」
「あぁ、さっきあったぞ。とって来てやるから、待ってろ」
「え? あ、有難う」
魁人は私に背を向け走っていき、人ごみの中に消えた。
やさしいよな……こういうとき。だから、もてるんだろうな。
私は魁人に言われたとおりに、ちょっと人ごみから離れたところで待っていた。気づけば、美紀たちはいなかった。きっと、二人で楽しんでいるんだろうな。
魁人を待ってから約三分。
「あれ、遅いな……?」
待っていろと言われたので、動くわけにはいかない。すると、いきなり誰かに声をかけられた。
「よぉ、ねぇちゃん。一人?」
全然知らない男子二人だった。多分、年齢は私と同じか少し上だと思う。
「……いいえ、友達と来ています」
「なんでこんな所にいるんだよ。俺たちと、あそばねぇか?」
ヤダ。変な人にからまれちゃった。どうしよう……
「結構です……!」
「ほら、どうせ彼氏とかいないんだろ?」
「っ……!」
「わ、こいつ泣きそう。可愛いじゃねぇか」
強引に引っ張られていく。誰か……助けて!
その時、誰かの声がした。
「俺の彼女に手を出すな!」
「!」
あの、猫のお面をつけた少年が立っていた。手にわたあめを持ちながら。
読んで頂き、有難うございましたm(_ _)m
次回、最終回の予定です。佐緒里を助けようとした少年は――
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