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チャプター72

ー王都 城内の謁見の間ー




「ーー以上が今回の件の顛末になります」

「なるほどな……とてもすぐには消化できぬわい」

 王都に戻ってすぐ、御者と別れた三人はその足で城へと向かった。数日ぶりに帰って来た王都は何も変わっていなくて、それが嬉しいやら悲しいやら、少し複雑な想いがした。

 結局、ルードヴィッヒが消えてしまったのに合わせて、姫の残した日記も消えてしまった。本来の場所に戻ったと言う事なのか、どういう事なのかは分からないが、とにもかくにも、今回の一件にまつわる不思議な力で三人の目の前に現れた、という事なのだろう。

 そして、ゲートムントはルードヴィッヒが消えた事を知り、ひどく悲しんだが、そこは持ち前の前向きさですぐに気持ちを切り替えた。

「俺たちも、全然消化できませんよ。数百年の時を超えて生きていた王様、実際に時を超えたゲートムント、用を果たしたからかなくなったお姫様の日記。そもそも、悪魔と戦うという事も初めての経験だったし」

「そうだな。今の報告によると、魔法を駆使していた、という事のようだしな。魔法とは一体なんなのだ?」

「それが分かりゃ苦労いらねーよなぁ」

「ちょっとゲートムント、王様の前でしょ? 言葉遣いに気をつけなよ。っとに、すみません、不敬で……」

 ルードヴィッヒとのふれあいからか、ゲートムントの態度はどこか横柄に見られた。が、王は無礼だと言う事もなく、話を続けた。

 無頼の戦士にそのような物はなくてもよい、という考えからだ。そもそも、こうしてすんなり謁見を許している時点で、その相手のすべてを受け入れる、という気持ちの現れなのだ。

「あっ、すんません。いやでも、あいつの剣には炎がまとわりついてたり、本気になってそれが黒い炎になったり、ワケ分かんなかったっす」

「うぅむ。勇者が魔王を倒すまでは、我々人間も魔法の力を使っていたと言うからな、悪魔と言う存在が魔法の力を使うというのも、無理はないが……それにしても、魔王の復活か。噂には聞いていたが、頭の痛い問題だな」

「ですね。でも、確かどこかで勇者が立ったんですよね? だったら、大丈夫じゃないんですか?」

 その噂はエルリッヒも聞いていた。町の食堂という環境柄、噂は耳に入りやすい。どこかの国の勇者が魔王討伐に立ち上がった、という所までは聞いている。尤も、町の小さな食堂を営むエルリッヒには無縁の世界という認識だが。

「うむ……その勇者が何者なのかまでは、聞き及んでおらぬがな。かつての勇者の末裔なのか、ただの力ある若者なのか。いずれにせよ、この国に訪れた際は、最大限の支援はしたいと思っておる」

「最大限の支援、ですか。まさか陛下、俺たちに同行しろって言うんじゃないですよね」

「げ!」

 二人は懸念の声を上げた。王に勇者の仲間となって旅立てと言われれば、国民としては拒否できない。だが、行きたくないのが本音だった。

「なんだ、そなたら勇者の仲間と言う肩書きは欲しくないのか?」

「いや、一緒に世界平和のためにこの戦闘能力を使うのは楽しそうですが、俺にはまだまだこの街に守りたいものがありますから」

「お、俺も。旅に出て大暴れするのも楽しそうだけど、自分の周りの奴らや、そこにいるエルちゃんを、俺たちで守りたいっす。魔王が本格的に活動したら、この街も危険に晒されちまいますしね!」

 決して逃げ腰ではなく、弱腰ではなく、ちゃんとした前向きな理由、前向きな気持ちで、二人はこの街にいる事を望んだ。元々駆り出すつもりはなかったとはいえ、この反応には王も笑みをこぼさざるを得なかった。

「余の臣民は、これほどまでに強き心を持っておるのだな。頼もしいぞ。しかし、支援と言っても何をすればよいやら。資金援助くらいしかできぬな。何しろ、この国には魔王討伐に役立つ伝説の武具や神秘の道具など、伝わっておらぬ故」

「ぷっ! 言われてみれば。でも陛下、気にしなくてもいいんじゃないですか? 相手が本当に勇者と呼ぶのにふさわしい人物なら、そんなアイテムがなくても活路を見出すでしょうし、アイテムによる援助がなくても文句なんて言わないと思います」

「だな。それに、勇者が来るかどうかもまだ分かんないのにあれこれ考えたって、意味ねーと思いますです」

 ”勇者”という存在は、エルリッヒにとっては懐かしい存在だった。直接見た事はない。旅の身空でその武勇伝を耳にした程度だが、確実に同じ時代を生きていたのだ。当時は長きに渡る魔王の影響下と言う事もあり、重苦しい空気が世界中を覆っていた。そんな中で聞く勇者の活躍は、街の人たちに一条の明るさをもたらしていた。そして、料理人になって食堂を開きたいと思ったのも、同じように、街の人々の笑顔を作りたいからだった。

 今回の悪魔復活の事件が、魔王復活に伴う封印の弱体化にあるとすれば、やはり諸悪の根源は魔王の存在かもしれない。

 復活と言う事自体、当時倒しきれずに封印に留まっただけだったのか、弱らせただけだったのか、完全に息の根を止めていた上での復活なのかも分かっていない。

 勇者のその後の動向も分かっていない。子孫がいるのかいないのか、後継者がいるのかいないのか。そもそも、今の時代は魔法が使えない。勇者とてあの頃のような実力は発揮できまい。それとも、魔王が本格的に復活すれば、人間にも魔法の力が戻ってくるのだろうか。

 考えれば考えるほど、神妙な顔つきになって行くエルリッヒだった。

「……エルちゃん?」

「え? どうしたの?」

 ついつい、ツァイネに声をかけられてしまう。下手に取り繕うのも変なので話を合わせるが、正体を疑われやしないかという考えは、常に頭の片隅にあった。

「いや、勇者って人の事を考えてて。この国に来る道中、過去の話を色々聞いたし、伝記は色んな街にあったから」

「そっか。魔王だの勇者だの、遠い世界の話に思ってたけど、そうも言ってられないのかもね」

「辛気くさいのはなしにしようぜ? 魔王はともかく、魔物が攻めて来たら俺たちで倒す、それでいいじゃねーか。はっ! また王様の前で俺は! すんません!」

「いや、よい。悪魔を倒すほどの実力者がこの国の戦列におるのだ、これほど心強い事はない。城勤めの騎士たちは、王都の治安維持で手一杯だろうからな」

 その言葉に呼応するように、脇で控えていた親衛隊員がツァイネに目配せをする。「街は守るから、国を守れ」と言っているかのようだった。

「そうですね。俺たちは陛下の臣民ですけど、しがらみが嫌で城を出たんです。その分、自由に守らせてもらいます」

「俺は、こいつの相棒ですから、一緒に、色々守ります!」

 決して彼ら二人だけが心強いわけではない。そう考えると、「この国は大丈夫だろう」という、確固たる安心が湧いて来た。

「うむ、結構! さて、それでは、報告はこの辺りでよいか? 公務もまだ残っておるでな。褒美は後日取らせるとして、恐らくはフェリペたちの一団も数日後には戻ってくるだろうしな」

「はい。じゃあ、陛下、俺たちはこれで。行こうか。」

「あの、王様、いいですか?」

 臣下の礼をとって謁見の間を出ようと二人を誘ったツァイネを押しのけ、エルリッヒはおずおずと手を挙げた。

「なんだ、何か話す事が残っておったか?」

「はい。さっきお話しした、グランリュージュ王ルードヴィッヒ陛下についてなんですが、お墓を作ってあげたいと思います。そのための遺品ももらって来ました。ついては、どこか王都内に場所を設けて頂けないでしょうか」

「あ……」

「そっか、そうだよな」

 あの時のやり取りを思い出し、ツァイネの瞳が一瞬潤んだ。その瞬間は寝ていたが、後で話を聞かされていたゲートムントも、しんみりとした表情になる。

「なるほど、あい分かった。グランリュージュ国は、我が国が今よりも狭い領土だった頃に滅んでおった国ではあるが、今の地図で言えばこの国の領土、本来であれば、並び立っていたかもしれぬ国だからな。よし、ではその議はしかと引き受けた。改めて場所を決定した上で、我が国の流儀ではあるが、丁重に葬ろうではないか」

「ありがとうございます!」

 王の寛大な配慮に感謝し、勢いよく、深々と頭を下げると、ゲートムントたちを連れ立って謁見の間を出た。

 二人も、約束とは言え忘れずに伝えたエルリッヒの優しさに、心を打たれていた。

「さー、この後はお姫様の子孫探しだよ。大変かもよー?」

「だね。でも、案外近くにいたりして」

 謁見の間のドアが閉まったのを見計らい、そんな会話が繰り広げられる。ツァイネの言った言葉にはつい苦笑してしまうが、もしそうならこれほどありがたい事はない、とも思った。

「だったら苦労いらねーよ。っと、そういえば、フォルちゃんの所にも挨拶行かねーと。一杯アイテムくれたし、城から逃げるのに役立ったろ」

「おっと、そうだったね。じゃあ、明日改めて行こうか。お城はさすがに直接行かないとと思ったけど」

「んー、そうだね。私も服を洗いたいし!」

 さすがに血まみれになった服は捨てて来たが、女の子としての矜持として、女の子同士で会う時の身なりは気を抜けなかった。

「じゃ、明日お昼の鐘が鳴る頃にギルドで落ち合おう。で、いい?」

「ん、いいよ」

「りょーかい」

 悪魔事件、やる事はわずかに三つとなっていた。フォルクローレへの挨拶と、銀の剣の返納と、リュージュブルク城で見つけた剣の管理依頼、それに、姫の末裔の捜索。

 城を歩きながら、事件の終わりに少し寂しさを覚える三人だった。




〜つづく〜

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