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チャプター37

『性懲りもなくまた斬り込んでくるか! 大人しく逃げていれば見逃したものを!』

「悪魔の言葉なんて、信じられると思う?」

 今度の戦いは気が楽だ。逃げる事を想定しての隙を作る行動。そして、後ろに二人がいる。二人の行動に少しでも注意を引かないように、そして、少しでもじっくり準備をする時間を作れるように。

 体力が回復した事もあわせて、余裕を持って戦う事が出来た。そして、それ以上に、やはり剣の打ち合いは気持ちいい。

『先ほどより、太刀筋が鋭いな。あの話し合いに何があった?』

「仲間が後ろで見守っててくれるって思うだけで、気が軽くなるものだよ。悪魔には、理解できないだろうけどね!」

 勝てない事は分かっている。それでも、あわよくば一太刀浴びせたい、それくらいの気持ちで戦っていた。気負わない事が、むしろ攻撃の鋭さに繋がっていた。

『あの槍使いの男と、そこの小娘か。ひどく個性的な仲間を持ったようだな』

「悪くないでしょ? 俺にとっては、大事な仲間さ!」

 打ち払う剣は、悪魔をわずかに後退させるだけの威力があった。その隙に一瞬だけ背後を見ると、二人はまだ準備をしているようだった。



 ツァイネの行動開始にあわせて、二人も行動を開始する。まずは台車に駆け寄り、爆弾の様子を確認する。短い時間だが、何か異常があっては危険だ。湿気って爆発しないくらいならまだかわいいが、それでも作戦失敗に繋がる危険だ、危ない事に変わりはない。

 二人は台車の左右からそれぞれ載せられた爆弾を確認して行く。手持ち式の物、タルに火薬の詰まっている物、花火のような大玉の物、それぞれを詳細に見て行く。外から触って湿気っていないか、導火線が切れていないかなど、意外と面倒だ。

「よし、こっちはよさそうだ。エルちゃん、そっちは大丈夫?」

「ん、こっちも使えそう。全部オッケーって事じゃない? 後は、これを台車ごとあの悪魔に突っ込ませて、あいつの剣の炎で引火させるって事だね。んじゃ、ちょっとこのロープは縛り直した方がいいかもね」

 台車に爆弾を括り付けているロープは、一見しっかりと結ばれているように見えるが、もし緩んでいたら、作戦失敗に繋がりかねない。それどころか、自分たちも怪我をしかねない。しっかり結んでおかなくては。

「そっか、そうだな」

「じゃ、そっちは任せたよ。私はこっちを縛り直すから」

 こうした地道な作業が、作戦を成功に導くのだ。手間取れば手間取るほどツァイネに負担をかけてしまうが、ここで焦ったりずさんな作業をするわけにはいかない。しっかりと確認し、安全を確かめねば。

「どう?」

「ばっちりだ! 後は、ツァイネの合図を待てばいいだけだな」

 剣戟を三回連続で繰り出したら、という合図を待つだけだ。これには、ツァイネ自身のタイミングやリズムも影響するのだろう。こちらの準備が出来次第、というほど簡単な物ではないようだった。

「ツァイネー、頼んだぞー。しっかりやってくれよー」

「見守るしかないっていうのは、やっぱり性に合わないね。じれったい!」

 二人は台車のそばで、ただひたすらにその時を待った。



『何のつもりだかは知らないが、こうして打ち合ってばかりいても、私には勝てんぞ?』

「へぇ、勝たせてくれるの? 今だって、本気を出せばあっという間に俺に勝てる、ていう前提で戦ってるんでしょ?」

 相手の実力を見誤らないよう、こちらの実力を全て見せぬよう、色々と考えながら戦うのは骨が折れる。それでも、この軽い気持ちはそういう煩わしさを吹き飛ばしてくれる。

 とりあえず、悪魔は本気ではない。いつでも勝てるという見積もりがあるからこそ、これだけ余裕で接する事が出来て、互角に近い力で戦う事が出来るのだ。そして、それを読み取っているからこそ、ツァイネも不用意な発言は控え、殊勝な言葉に留めていた。

「勝ったつもりのぬか喜びなんて、まっぴらごめんだからね!」

『ぬぅ! そう、謙遜するほどの事ではない! 貴様は間違いなく、この数日で戦ってきた者たちよりも強いぞ? そして、かつて私が過ごしたあの時代の騎士たちにも、これほどの実力を持った者は、少なかった!』

 炎を纏った剣が振り下ろされ、今度はツァイネが後退する。やはり、激しい。だが、やはり、楽しい。お互い力をセーブしているとはいえ、普段思い切り戦える相手があまりいない反動が来ていた。

『やはり、他の者のように殺してしまうのは惜しい』

「冗談! いくらそっちの方が強いからって、殺されるつもりはないよ!」

 攻撃の合間を縫い、ちらり、と背後を確認する。どうやら準備は整ったらしい。後は、適切なタイミングを作り出すだけだ。

「俺が何百年も前の騎士と比較されるなんてのは、光栄かもしれないけど、あの頃の騎士の方がよかったなんていう確証は、どこにあるのさ!」

『あるさ! 大ありだ! 彼の時代の騎士たちは、魔法の力を使っていたんだよ!』

 その言葉に、一瞬言葉を失った。魔法の力を使う騎士がいたとは。彼らの使う剣術は、戦法は、一体どれほど強かっただろう。一体どれほど多彩だっただろう。今、ツァイネは皮肉にも悪魔によって、そのような騎士たちに匹敵する実力があると認められていた。

 本気の実力を見抜かれているのか、今の時点での実力ですでにそのレベルに達しているのか。いずれにしろ言える事は、ツァイネはまだ「この剣の本領を見せていない」という事だ。

 剣の鍔に不思議な力を持った宝玉をはめ込む事によって、この悪魔が使っているような自然の力を一時的に借りる事の出来る特殊効果。まだ、この機能は見せていない。

「魔法の力を使う騎士と同じレベルだって? そりゃ光栄だ! 俺も、騎士である以上、少しでも強くありたいからね! 多くの人の役に立って、多くの人を守って、多くの人を助けるために、この剣を振るってる! 剣の腕を磨いてる! 強ければ強いほど、光栄だね!」

『だからこそ、殺してしまうには惜しい!』

 剣戟は激しく、三回連続の合図を作り出す事が難しい。だが、それでも、やらなければならい。これも、一つの勝利だ。

「だから言ってるでしょ! 俺は殺されないって! はぁっ! ここだっ! 食らえ、俺の三連撃!」

 言葉の力、会話の勢いも借りて、ここぞとばかりに鋭い三連撃を繰り出した。

『速いっ! なるほど、伊達ではないようだな……』

「そういう事だよ」

 なんとか合図は打った。後は、二人が爆弾を無事にぶつけてくれる事を祈るばかりだ。



「よし、合図だ!」

「じゃあ、行こう!」

 二人は重たい台車をガラガラと引き始めた。爆弾が大量に載っているため、とても重たい。これだけの爆弾が一度に起爆したらと思うと恐ろしいが、城の崩落を狙っている訳ではない。最後は、城の耐久性に賭けるしかないのだ。

「しかし、相変わらず重たいな。こんなんじゃ速度が出せないぜ」

「男の子でしょ? つべこべ言わない! 私もこうして手伝ってるんだし、張り切る!」

 少しだけ、大きな力を出してみた。このタイミングを逃すわけにはいかない。ゲートムントにはメインで頑張ってほしいが、それでは足りない事もあるのだ。今はとにかく速く。

「お、勢い付いてきた! じゃあ、急ごう!」

「おっけー! ゲートムント頑張れ!」

 本当は自分の力が大きいのだが、それは一言も言わないまま、無責任にも聴こえるほど気楽に応援する。もちろん、手押しは続けたまま。

「悪魔めー! 食らえー!」

「おりゃー!」

『なんだと!』

 二人はツァイネが右に飛び退ったのを確認すると、悪魔目掛けて思い切り台車を押した。強い勢いで押された台車はそのまま自走し、悪魔に激突する。

『っ! これは、爆弾!』

「燃え尽きろ!」

「ばくはつしろー!」

 その爆破を確認するよりも前に、三人は正門に向かい走り出した。巻き込まれては、元も子もない。

 直後、作戦通り剣の炎に引火した爆弾は、激しい音とともに爆発する。一つに引火すれば、後の爆弾もあっという間に誘爆する。フォルクローレ自慢の爆弾は、あの時見た物よりも高性能に見えた。

『おのれ卑怯な!』

「卑怯も何も、逃げるなら見逃すって言ったのは、そっちだよ! 明日のこの時間、お城の前庭で決着だ!」

 逃げながら、悪魔にも聴こえるよう大きな声で伝える。ツァイネが本気を出すのは、そこだ。

『絶対に許さん! 許さんぞ〜!』

 爆炎に包まれながら、悪魔の叫び声が遠く響いていた。




〜つづく〜

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