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チャプター14

「さてと、誰からやる?」

 盗賊を睨みつけ、品定めする。強い奴から倒そうか、弱い奴から倒そうか。もしくは、全員大して強くないのか。

「あんまり深く考えなくても、よさそうだけどね!」

 おびえて動けないでいる盗賊を、右端から攻めようと駆け出したツァイネ。革製の簡素な鎧に刃渡りの短いナイフ、丸腰の一般人には十分な装備でも、歴戦の戦士である二人には、ものの脅威ではなく、まして今はしっかりと装備を身につけている。ツァイネが慎重になる理由はなかった。

「なるほどな! じゃ、俺は左から!」

 こちらも負けじと反対側から攻めようと駆け出すゲートムント。槍にしろ剣にしろ、ナイフとは明らかにリーチが違う。有利不利は明らかだった。

 鮮やかな剣さばきで盗賊たちを叩き伏せて行くツァイネと、長いリーチを活かして縦横無尽に戦うゲートムント。一人二人と倒されて行く盗賊。命を奪う事はしないが、今しばらく目覚めぬよう、しっかりと気絶させる。

「くっそ! こいつら強いぞ!」

「ひるむな! う、うわぁぁぁぁ!!!」

 やる気は十分でも、所詮ナイフでは敵いっこない。二人が参戦した時点で、一方的な負けが確定していた。

 二人も、それを鼻に掛けるでもなく、淡々と、むしろ事務的に盗賊を討伐していた。この程度の相手に、感情を入れる事はない。

「さて、残り一人! どっちがやる?」

「いいよ、俺がやるよ。重たい槍より、こっちの方が楽ちんだし」

 言っている側から、もう最後の一人も倒されていた。雑魚を討伐するのは、雑作もない。せめて、十人で束になって襲って来たのなら、多少は苦戦したかもしれないが、二人の活躍に、揃いも揃って足がすくんでいた。

「粋がってても、一般人相手の悪党じゃ、こんなもんか」

「だね。魔物一匹と戦う方が、よっぽど苦戦するよ」

 気絶している盗賊たちに縄を打ちながら、のんびりと会話している。これが、悪党と本職の実力の差だった。

「よっし、これで全員だな」

「でも、ないみたいだよ」

 十人全員を縛り終えると、ツァイネは険しい表情を作った。それだけで、状況を判断する。ゲートムントとは、以心伝心。詳しい事を言わなくても、伝わる。

「考えてみりゃ、これだけの人数、そんな多くないとはいえ、頭目がいないのは不自然だもんな」

「でしょ? リーダー、じっとこの状況を隠れて見てたんだと思うよ。俺たちの強さや戦い方を判断するためにね」

 茂みの奥から現れたのは、細身で長い黒髪の男。身につけた鎧は先ほどの盗賊が身につけているような簡素な革の鎧ではなく、ちゃんとした鉄製の鎧。手にした武器も、護身用の短いナイフではなく、しっかりとした刃渡りの長剣。少なくとも、装備品と視線の鋭さだけは、手下たちとは明らかに違うように見受けられた。

「俺の子分たちが世話になったな……」

「やっぱり、リーダーか」

「この盗賊たちよりは強そうだけど、俺たち二人と戦うっての? いくらなんでも、分が悪いんじゃないかと思うけど……」

 果たして、この不利な状況で勝てる見込みでもあると言うのだろうか。このまま戦っても、負けて終わりのように見える。それでも逃げずに出て来たのは、単に部下の仕返しがしたいのか、自信があるのか。自棄になっているようには見えない。

「へっへっへ、俺の事は、あんまり甘く見ない方がいいぜ?」

「なんだって?」

「ゲートムント、後ろ!」

 一瞬で、盗賊の頭はゲートムントの背後を取った。ツァイネの一言で慌てて振り向くが、その素早い動きに、防御をするしかなかった。

「くっ!」

 振り下ろされた長剣が、槍の柄を鋭く叩く。その勢いも重たく、柄も含めて金属でできているこの槍でなければ、一撃で折られていたかもしれない。

「どうだ? 俺のスピードは。まだ、本気じゃないんだぜ?」

 頭もまた、下品な仕草で剣を舐めている。これは先ほど倒した盗賊と同じ仕草だ。移ったのか真似したのかは分からないが、彼がこの盗賊団での元祖なのだろう。

「にゃ〜ろ〜!」

「雑魚の集まりだと思ったか? こいつらは雑魚でも、俺だけは、油断しない方がいいと思うぜ?」

「……みたいだね」

 スピード自慢で動体視力に優れたツァイネが、不意を突かれたとは言えその動きを目で追うのが精一杯だった。この男は、一体どういう出自なんだろうか。

「俺になら、やられるかもしれねーなー。金目の物を置いて行くんなら、命は取らねーぜ?」

 下卑た笑いを浮かべながら、こちらの動向を伺っている。この自信、金目の物が手に入ればよし、手に入らなくても勝てそうだからよし、とでも考えているのだろう。まるで、考える時間を与えてくれているかのようだった。

「ツァイネ、どうする? 戦ってもいいいけどよ、思った以上に手強いぞ?」

「ま、俺がやってみるよ。まずゲートムントを狙ったのも、俺の方が素早いって見抜いての事だろうし。二人を、エルちゃんとおじさんを守ってて」

 剣を鞘に納め、ツァイネが一歩前に歩み出た。何をするのかと、頭は距離を開ける。ツァイネの見立て通り、彼はそのスピードを自分に匹敵するレベルと認識しており、戦うならゲートムントから、と見ていた。その、スピードに勝る方のツァイネが歩み出たのだから、警戒しない方が無理という物だ。

「ねえ。話をしようよ」

「話? なんのつもりだ?」

 頭は警戒を解かない。それはそうだろう。だが、ツァイネは臆する事なくもう一歩、もう一歩と近付いて行った。

「その装備、どこで手に入れたの?」




 同じ頃、二人の活躍を見ていたエルリッヒと御者は、すっかり安心して、緊張も解けていた。

「あの二人、やっぱり強かったね」

「さすがは、この国が誇るギルドの戦士。私も、こうして御者としてお世話ができて、鼻が高いよ」

 あっという間に十人の盗賊を蹴散らし、縄を打つ。その手際の良さには、もはや脱帽である。殺してしまうのは簡単だが、そうしないという事は、思いの外難しいのだ。

「でも、あの頭目、速いね」

「ああ。私の目では追えなかったよ」

 どこで身に付けた物なのか、頭のスピードは常人のそれを逸する物だった。気付いたら姿が消えていて、気付いたらゲートムントの後ろに立っていた、という感じだ。

 エルリッヒにしても、もちろんその動きを捉える事はできていたが、あまりの素早さに驚いた事は、事実だった。

(あの素早さ、一体どこで……)

 修行で身に付くような物なのだろうか。それとも、彼自身どこかまだ見ぬ種族の出身で、純粋な人間ではないのか。

 興味の矛先は、そういう所に向けられていた。

「それにしても、私たちが狙われなくてよかったよ。私たちが人質にでもされたら、さすがに二人も戦いにくいだろうから」

「ん? そっか、そういう事か。おじさん! いい事言った!」

 あれだけの速度で行動できるなら、なぜ自分たちを狙わないのか。自分たちを人質に取るだけのスピードはある。そうすれば、一方的に行動する事もできるというのに、そうはしていない。それはつまり、二人を倒す自信があるという事に他ならない。逃げるなら、すでに逃げているはずだ。

(何か、算段でもあるのか……?)

 さすがにスピードだけでは二人を相手にするのは辛いはずだ。それでもこれだけ自信満々な態度を崩さず、卑怯な事をするでもなく、相対している。先ほど見せたあのスピードが本気でないという言葉が本当だったとしても、秘策がなければできない事だ。

「おじさん、気をつけた方がいいよ。あいつ、何か隠してる」

「え? それって……」

 不安が表に出る前に、ツァイネが謎の行動に出た。武器を納めて歩み寄る。一体なんのつもりなのか。




〜つづく〜

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