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紅戦鬼と地獄の門番  作者: 逢沢くいな
第一章 かの地に舞った紅の蝶
5/14

最期の夜 ★

月明かりの眩しい深夜2時。


ふと目を覚ましたロウは喉の渇きを感じて水を飲みに起き上がる。


「・・・いつの間にか眠ってたのか。」


物音ひとつ無い静かな夜。

獄生ごくしょうの気配も感じない。

飲み干したカップを置くと、夕刻に聞いた祝言の話を思い出す。


「・・・なんだ、シェリカじゃないのか。」


「冗談は辞めてくれ。」


思わず漏らした言葉は小さな抵抗だったかもしれない。

返ってきたリスターの言葉が耳に焼き付いて離れないでいた。


「冗談?僕じゃ役不足って事かよ。」


なかなか寝付けず、闇を照らす満月に誘われるかのように、フラリと屋根に上がってはぼんやりと月を眺める。


「シェリカが知ったらどんな顔するかな・・・。」


曇った表情で考える事はシェリカの事だった。


「何してるの?こんな所で。」


突然声をかけられ、目を丸くして振り返ると

シェリカが立っていた。


「シェリカ!?お前こそこんな時間に何してるんだよ。」


ロウは驚きを隠すように聞き返した。


満月草まんげつそうを探してたらロウが見えたから。」


そう言って優しく微笑むシェリカを背に、頭から離れないリスターの言葉がまた思い出された。

何故か胸が痛む。


「満月草は洞窟に行かないと見られないよ。」


満月の夜にしか咲かない花。

薄暗く湿気の多い場所で、一定の周期で美しい花を咲かす。

その周期が満月の日と重なる為、満月草と呼ばれているらしい。


全ては花が好きなシェリカから聞き学んだ知識だった。


「洞窟は獄生ごくしょうの巣だ。一人で行くなよ。」


「分かってます。・・・ロウ。最近調子はどう?」


シェリカはロウの横に座るとうつむいたままたずねた。


「相変わらずだよ。なんだよ、急に。」


もしかしたら祝言の話を何処からか聞いたのかもしれない。

どちらにしても近いうちに知れる事。


ロウは自分から祝言の話を切り出した。


「明後日の成人の儀に祝言を挙げる事になった。相手は・・・」

「ロウが・・・祝言っ?」


話を遮って覗き込むように身を乗り出すシェリカ。


ーーー近い。


挿絵(By みてみん)

思わず赤面して言葉に詰まっていると、シェリカがサッと立ち上がり、両手を組んでは満月を見つめ、眼を輝かせていた。


「素敵っ!!」


「・・・・。」


予想に反した反応に少し肩を落とすロウ。


「それで?どんな人なの?」

「島の外れの集落に住んでるらしい、見たこともない女。」


嬉々ききとして聞いてくるシェリカに、淡々と後にリスターから聞いた情報を伝える。


「そっかあ。うん。楽しみだね。」

「それだけ?もっと、こう・・・「私、寂しい」とかないのかねぇ。」


ロウはシェリカの口真似をしてみせた。

クスクスと笑うシェリカを横目に、力なくゴロンと屋根に寝転ぶ。


シェリカはいつも笑顔を絶やさず、何にでも一生懸命で明るくて強く誇り高い。


ほんの少しでいい。

そんなシェリカの悲しむ顔が見たかった。

それが本音だった。


いつの頃からか芽生えた感情に終止符を打つ時が来たのだ。


「ロウ。おめでとう。・・・幸せになってね。」


「・・・サンキュ。」


ありがとう。

心にもない言葉。


シェリカには・・・シェリカにだけは、幸せになってね、なんてありふれた言葉言われたく無かった。


嫉妬でもしてくれれば、納得のいかない祝言でも心は晴れたかもしれない。


届かない想いも少しは報われたかもしれない。


本当に届いて無い?


僕はずっと前からーーー。




穏やかな風。

優しい月明かり。


二人は静かに村を見渡した。


この日がこの村の最期となる事を知らずに。






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