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紅戦鬼と地獄の門番  作者: 逢沢くいな
第一章 かの地に舞った紅の蝶
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慣わしと思い人

修繕を終えたロウは小屋に入ると、壊れたテーブルの代わりに置かれている木箱に目をやった。

木箱の上には淹れたてと思われるコーヒーが用意してある。


「ロウ、お疲れさん〜。いやぁほんとに器用で助かるよ〜。」


気の抜けた声でハルトが声をかけた。


「父さん、あんまり危ない物その辺に置いとかないでよ。」


「ごめんごめん。置く場所に困ってね。リスターさん、どうもお待たせしました。」


話を逸らすかのように奥の部屋にいるリスターに声をかけるハルト。


「なんじゃ。てっきり獄生にやられたのかと思っとったんじゃが・・・。薬剤の管理ぐらいしっかりやらんか。」


「はは。すみません〜。」


ナギを連れて奥の部屋から出てくるなり、ハルトを叱るリスター。


ロウは幼い頃に母を亡くしている。

こんな時に小言のひとつでも言ってくれる存在がある事は、ロウにとって頼もしい事この上なかった。


それぞれが机代わりの木箱周辺に楽に腰を下ろすと、リスターは早速と言わんばかりに用件を話し出した。


「ロウよ、お前さんも早いもんで間もなく15の歳じゃ。この島に住む者の務めは分かっておるな?」


「この世に在らざる生物「獄生」の殲滅。だろ?」


ロウは得意げに答え、リスターは小さく頷いた。


「しかし村の現状を見ての通り、戦いにおいて死者も多く、獄生と満足に戦える若い者も少なくなってきた。そこで、じゃ。」


リスターは持っていたコーヒーカップを木箱の上に置いて、真っ直ぐにロウを見た。


真剣な眼差しに口に注がれたコーヒーを飲み込むのも忘れ、動きを止めるロウ。


「・・・お前さん、成人の儀と共に祝言を挙げい。」


ブーーーッッ!!


ロウは口に含まれたままだったコーヒーを一気に噴き出した。


「な、な、何をっ、そんな。唐突な!」


思いもよらぬ話に、噴き出したコーヒーを拭くのも忘れ、絵に書いた様な動揺を見せた。



祝言ーーーつまり結婚。

この島の住人は日々戦いと隣合わせの為、より強い能力を持った子孫を残す事を望まれる。

互いの能力や相性によって、生涯を共にする者を決められる戦略婚が一般的だった。


「ちょっと待って下さい。私はロウの父親として納得できませんよ!まだ早過ぎる。それに・・・!」

「悪いが、これはこの島に産まれ育った者の問題じゃ。他所よその者は口出し無用じゃ!」

「・・・っ!」


珍しく眉間みけんに深いシワを刻み、出てこようとする言葉を抑えるハルト。


彼は元々はずっと東の小さな島国で暮らしていた。

医療の研究の為旅に出たが、嵐に巻き込まれ辿り着いたのが、この鬼ヶ島と呼ばれる島だったのだ。



ごうに入っては郷に従え。

ハルトは独自の文化に口を挟むような事はしないと口を閉ざす。


他所の者がこの島に住みついたという話は、後にも先にもハルトだけであった。



「ハルおじさんとアリシアさんは、この島では異例の恋愛結婚だったんだよね。興味深いなぁ。」


黙々とロウが噴き出したコーヒーを片付けながらナギは、今までに読んできた本の物語と重ね、想像を膨らませた。


ナギはとても勤勉で努力家である。

さすがはリスターの孫、そしてシェリカの弟といった所だろうか。


「父さん、いいんだ。じいさんの言ってる事も分かってるつもりだ。・・・で、肝心の祝言の相手は?」


ロウは落ち着きを取り戻して座り直した。


大人ぶって聞き分けの良いフリをしていたが、ロウは祝言の相手にわずかな期待を持っていた。


歳も近く、戦いにおいて相性も良い。

そんな女性ひとはロウの中では決まっていたのだ。


シェリカしかいないはずだ、と。



「打撃系のお前さんには良い組み合わせじゃ。とにかく写真を用意したから見てみろ。」


差し出された二つ折りの台紙を受け取ると、

緊張する両手でゆっくりと開く。



「・・・・。」


ロウは沈黙した。



ーーー現実とは所詮こんなものだろう。



開かれた写真に映っていたのは、シェリカではなかった。










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