夕刻の訪問者★
「ただいま。」
獄生との戦いも一段落し、見張りを残して家に戻ったロウ。
出迎えるのはロウの父、ハルトだ。
「ロウっ!お帰りっ!ケガは無いか!?父さんに見せてみろ!血だらけじゃないか!すぐに手当てを・・・!」
あたふたとロウの周りを駆け回る父ハルト。
「いや、これは僕の血じゃなくて・・・とりあえず落ち付い・・・。」
ロウが話し終わるよりも先にハルトは足元に転がっていた薬品入りの瓶につまずく。
「わっ!」
ゴロゴロ!・・ドスッ!
勢い余って壁際の薬品棚にぶつかると、棚はグラグラと新たな薬品瓶を転がり落とす。
棚の真下に引いてある衝撃吸収マットを虚しく飛び越え、ヒビの入った瓶は勢いをつけて更に転がり出した。
「お、おいおい。その棚は劇薬棚・・・!」
冷や汗と共に思考は「逃げ」へと切り替わる。
ゴロゴロ・・・。
ガシャン!
転がる瓶と瓶が容赦なくぶつかる。
ーーードカンッ!!
「うわっ!!」
激しい爆音と爆風。
立ち昇る煙は穴の開いた天井に吸い込まれる。
辺りの生活家具は見る影も無く破壊されている。
「・・・こうして、物語はシュウエンを迎えた。オワリ?」
部屋の奥から子供の声が聞こえた。
様子を見ようと本を片手に現れたのはナギだった。
「勝手に終わらすな!」
崩れた棚の下から上半身を出すロウ。
「あ、ロウ兄ちゃん!大丈夫っ?」
「見ての通り。・・・大丈夫じゃないよ。」
思い出したかのようにロウに駆け寄ったナギに、軽く皮肉を言う。
「いやぁ〜危なかったねぇ。皆無事かい?」
ハルトは軽やかに崩れた棚や家具を避けながら近づく。
(何でコイツは無事なんだ!?普通直撃だろ!?)
ロウは心の中でツッコミをいれた。
汚れた服を着替え傷の手当てを受けると、吹き飛んだ屋根の修理に取り掛かる。
「・・・はぁ。あんなんで医者とかありえないよ・・・。」
ふと日の沈みかけた空を見上げ、屋根を補強する作業を続けるロウ。
この村では、度々現れる獄生に住居を破壊される事が少なくない。
度重なる修繕の果てに、住居と呼ぶにはあまりにも質素な小屋が建ち並ぶようになった。
脆くはあるが、休息の場所が手早く仕上がるのが唯一の利点だろう。
「ん?そこにおるのはロウか?」
白く長い髭を胸元で揺らしながら、一人の老人がゆっくりと近付いて来た。
声の聞こえた方向を屋根から見下ろすと、ナギの祖父リスターが夕日を眩しそうに手で覆い、ロウを見上げる。
「じいさんか。ナギなら中で本読んでるよ。」
「うむ、世話になったの。今日はお前さんに話があるんじゃ。待たせて貰うぞ。」
朗らかな表情で訪れたリスターの様子から悪い話ではない事は察しがついた。
「話?成人の儀の事かな・・・」
他に心当たりもないロウは、特に気にもとめず作業を続けた。