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紅戦鬼と地獄の門番  作者: 逢沢くいな
第一章 かの地に舞った紅の蝶
2/14

鬼の住む島★

霧深い海に浮かぶ、小さな島の名も無い村。


そこには決して人間が踏み込んではならない大きな秘密があった。



「さあ、かかってこい!ボクたち三人が相手だ!」

「あ、相手だ!」

「・・・はあ。読みかけの本が気になって集中出来ないや。」


歳の数わずかに7つの少年達は、襲い来るこの世に在らざる生物「獄生ごくしょう」と対峙たいじする。


「こ、怖くなんかないぞっ!ボクたちは強く誇り高い戦士なんだっ!」


三人の中でも一番勝ち気な少年は自分の背丈程ある大剣を振りかぶった。


「・・ガアアァァアッ!・・・アアァ・・!」

獄生は雄叫びをあげながら大剣めがけて突進する。


「・・・・ッ!!」


大剣は大きく弾かれ、少年はバランスを崩して片膝をついた。

「リズっ!」

二人の少年は援護に回ろうと駆け寄る。

・・・しかし、後方に新たに現れた獄生に気付かない。


「カイ、ナギ!危な・・・」


棍円舞序型こんえんぶじょのかた阿修羅旋風あしゅらせんぷう!」


少年達を取り囲もうとしていた獄生は、無数の風に裂かれて吹き飛び、血飛沫ちしぶきと共に大地に叩きつけられては跡形も無く消えた。


「よぉ、三人組!やっぱり実戦はまだ早かったか?」

挿絵(By みてみん)


颯爽と現れた茶色の軽やかな髪に青い瞳の男は、2m程あろう鉄製のこんを、構え直した。



「ロウあに!」

「ロウにいちゃん!!」



背の丈160㎝、歳の数14歳。

今では村一番の手練れと認められる棍術の使い手だ。


「ここは大丈夫だからお前達は、村の入り口を頼む。」


「・・・しょ、しょうがねぇなあ〜。カイ、ナギ、行くぞっ!」


少年達は弾かれた大剣を拾うと村の入り口に向かってこの場を後にした。



村の最奥にある洞窟から現れる獄生。


洞窟から離れた入り口周辺は、最後の砦となる場所ではあるが、そこまで獄生が到達する事はまれで、比較的危険の少ない場所となっている。


「これでひとまずは安心だな。・・・出てこいよ。僕が相手になってやる!」


「・・・ガアァァァッ!」


木々の間から現れた六体の獄生。

この一戦で戦いは終局となりそうである。


「はぁ・・・。まだこんなにいたのか。これは骨が折れるな。」


連日の戦いの疲労もあって、ため息混じりに辺りを見渡した。


「ロウ!援護しますっ!」


整った顔立ちに、ふわふわの長い髪が印象的な少女は、木蔭よりひょっこりと姿を現し、両手を正面に突き出し目を閉じた。


「頼むぜ。シェリカ!」


ロウは愛用の棍を掲げた。


「大気に宿りし数多あまたの水よ、目標を打ち滅ぼすやいばとなりて凝結せよ!」


シェリカは詠唱えいしょうと共に、両手で魔術を発動する『いん』を手早く組んだ。

同時にロウの持つ棍周辺に、魔術の発動を促す円陣が刹那せつなに光る。


大気の異変を敏感に感じ取った獄生は、ロウをめがけて鋭い爪を振り下ろした。


「・・・往生おうじょうしろよ、準備完了だ。」


ロウは迫る獄生の爪をかわすと、天高く舞い上がり棍を四方八方に乱打する。


棍乱舞終型こんらんぶついのかた千手水刃せんじゅすいじん落撃らくげき!!」


天より降り注ぐ無数の水の刃は、獄生を的確に捉えた。


「グアァ・・アアァァア・・・」


獄生の悲痛な呻き声と共に、再び辺りに血の雨が降った。

無惨にも頭を落とされ消え去る獄生。

振り返ったその先でシェリカがホッと肩をおろす様子が見えた。


「・・・さてと。みんなの所へ戻るか。」


ロウは戦いの地を背に、村の入り口に向かって歩き出した。




ガサッ・・・



「お、おやっさん。あの生き物は・・?」

「あぁ、見た事もねぇ。それにあの少年・・・。」


戦闘の一部始終を傍観していた二名の男は、ただただ呆然と立ち尽くしていた。


「まるで戦いの神っスよ!風や水を自在に操る棍術こんじゅつ!あんな人間がいるなんて・・・!」


傍観していた小柄な男は、いまだ興奮の冷めぬ様子である。


「・・・戦いの神だぁ?冗談じゃねぇっ!お前も見ただろ、あの残虐な戦い。アレは神とか、そんな神々しいもんじゃねぇ・・・。」


「おやっさん・・・?」


いぶかしげに巨体の男を見上げ、この地で起こった戦闘を回想してみる。


・・・圧倒的な強さに感動すらしたものの、よくよく現場を見ると辺りは血の溜まり。

神々しいと言われる風景には程遠い。


「あれではまるで鬼の所業しょぎょうだ。とにかく、すぐにこの島を離れるぞ!」


巨体の男は木の枝に手を伸ばすと、軽々と熟れた果実を捥ぎ取り二・三、ふところへ入れた。


「すぐって言ってもオレたちが乗ってた船はもう・・・」


男たちが乗っていた船は難破し、命辛々いのちからがらこの島に辿り着いた所であった。


「木の板にしがみ付いてでもこの島を出る。お前も聞いた事くらいあるだろう。」


巨体の男は、更に摘み取った果実を小柄な男の口に押し込んだ。


「・・・『鬼ヶ島おにがしま』だよ。さっきみたいな異界の生物がわんさか現れる場所だ。残念だがワシらではあの見たこともない生物には太刀打ち出来ん。」


小柄な男は詰め込まれた果実をゴクリと飲み込みうなずいた。


「・・・本当に存在していたというのか。鬼の住む島が。」


男たちは捨て置いてあった小さな小舟を見つけては、そそくさとこの島をあとにした。






この世に在らざる生物『獄生ごくしょう』は、地獄に通じると言われる洞窟より現れ、人々を襲う。


人知を超える力を持って、獄生を一網打尽にするさまは鬼の如し。


その者は獄生の血で濡れた衣を身に纏い、しかばねひとつ残す事はなし。



この島に立ち寄った探検家や迷い人は、獄生と戦う住人達をこう呼んだ。



ーーーあかい鬼。紅戦鬼くれないせんきと。






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