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紅戦鬼と地獄の門番  作者: 逢沢くいな
第一章 かの地に舞った紅の蝶
11/14

海上からの襲撃

東の海より僅かに顔を覗かせる太陽。

暖かな光と闇が混ざり合う神秘的な夜明けに、黒い影が忍び寄る。


ロウが洞窟に向かってから三時間程経過しただろうか。

どの大陸にも属さない小さな島に、非常時にのみ鳴る事が許される警鐘けいしょうが響き渡る。


カンカンカンカンーーー!


「敵襲!敵襲ーっ!北東の海より砲撃を確認っ!」

「海?砲撃だと!?獄生ごくしょうじゃないのか!?」


村の者は慌ただしく身支度を整え、見張り台のある村の中心地まで集まった。


「全く。明け方から無作法な奴らじゃな。」


リスターはナギを連れて動揺を煽らぬように、落ち着いた物腰で呟いた。


「戦艦およそ十隻、陸地に接近中です!」


次いで見張り役の青年から双眼鏡を借りたハルトが戦艦の装備を確認する。


「うわ、ドレッドノート・クラスだ!艦体に二頭の獅子の紋章。あれは‥‥‥おそらくシアン公国の者ですね。」


シアン公国は北東にあるリュグベル大陸に属する小国のひとつである。


「ドレッドノート⁉超弩級の戦艦十隻も一国に用意出来るものなのか!?」


ざわざわと声が上がる中、更に砲撃は止む事を知らず、閃光、爆音の後に凄まじい爆風が見張り台まで到達する。


「リスターさん。洞窟の存在を知られれば世界が混乱する。‥‥‥沈めますか?」


見張りをしていた青年がリスターに確認する。


「鬼の一族が住む空間、か。アレは人の目に触れさせてはならぬ。止むを得んな。ただし、相手は人間じゃ。加減を…。」

「遠撃用意!風水系術士は術式の展開、弓術部隊から8名を先頭に此処より五キロ、北東方向に迎撃準備!」

「っしゃあぁあー!」

見張り役より的確な指示が出ると、役目を与えられた村人達は威勢良く駆け出した。


「残りの者は平常通り獄生殲滅に備えて待機!」

指示を終えた青年は、見張り台から降りて上出来でしょう?と言わんばかりにリスターを見てはVサインを送った。

「…むぅ。全く、調子に乗りおって。」

呆れた口調で呟く反面、どこか嬉しそうにも見てとれる表情のリスター。


「さすが、皆さん頼もしいですね。大戦艦を前にしても物怖じしない。」

「当然じゃ。そうでなければこの地では生き残れんからの。」


リスターとハルトは村人達を見送り、ふと辺りを見渡した。

そして、こんな時に1番に現れそうな人物を探す。


「ロウは来ておらんのか?」

「はぁ。それが、家には居ないようで。」

「全く、肝心な時にコレじゃ。」


リスターは頭を抱えて溜息をついた。

北東の地は徐々に土煙で覆われて行く。


轟音の唸る中、海上に巨大な水柱が立ち昇る様子が遠目にうかがえた。


「すっげー‼やっぱ術士もかっこいいよなっ!」

「リズっ⁉」

何時の間にか見張り台に登っていたリズを見上げ、ナギは声をかけた。

「また始まったよ。リズは剣を極めるんでしょ?」

「それは、ソレ!陣の書き方覚えて詠唱も印の組み方も覚えて、そんで剣術の達人の術士ってのも悪くないよな〜!」

リズは頭の中に描かれた自分を想像しながら熱く語った。

「そんなに上手く行かないよ。術士は元々持ってる素質と莫大な精神力がいるわけだし。」

「うんうん。リズは集中力も無いから駄目だと思‥‥‥あ。」

リズの視線に気付いたカイが慌てて口を塞いだ。

「カイっ!お前いつから居たんだよっ!」


いつものように未来を夢見て楽しげに騒ぐ少年達。

それを横目に島に忍び寄る異変にいち早く気付いたのはハルトだった。


「ん?何だ……この匂い。」


爆風に乗ってやって来る、覚えのある匂いに暫く足を止めて懸命に記憶を掘り返す。


「……ユキワリソウ。そうだ!間違いないっ!」

思い出すと同時に全身に悪寒が走る。


「みんなっ、息を!息をするなー!!」


突然突拍子も無い事を叫ぶハルトに、村人達は振り返る。


「息をするなって、何かの冗談?」

「どういう事じゃ?」


リズとリスターは真剣な眼差しのハルトに気圧されながら問う。


ーーーユキワリソウ。

強い毒を含む有毒植物。

本来は鎮痛薬として用いるが、有毒成分のアルカロイドを含む為劇薬とされている。

その中毒症状は、嘔吐、手足の痙攣、幻覚、呼吸麻痺、重症の場合は死に至る。



本日は北風。

無慈悲な砲弾は止む事を知らないーーー。







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