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紅戦鬼と地獄の門番  作者: 逢沢くいな
第一章 かの地に舞った紅の蝶
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白い大蛇と六文銭

何処か高い場所から落下しているような感覚。

暗闇。


(僕は死んだのか?)


落下しているらしい方角に小さな光が見えた。

光は次第に大きくなり、瞬時に一帯を明るく照らした。


ーーードスッ。

ロウは無防備に地面へ横たわる。


相当な時間落下していたような気がしたのだが、特に怪我をした様子はない。


シェリカが召喚したと思われる大鎌の者に斬られた傷もない。


ロウは自身の身に何が起こっているのかも分からないまま、ゆっくりと体を起こした。


「ここは何処なんだ?」


辺りは見通しの良い荒地。

褐色の土に紅く暗い空。

幅3メートル程の崖のような曲がりくねった1本道が、遥か先まで続いている。

無風、無音の世界。


とりあえず此処にいても仕方ないと、ゆっくりと歩き出したロウ。


どれくらい経っただろうか。

まるで時間の間隔も無く、歩いても歩いても先の見えない道に疲労と不安を覚えた。


(誰かいないのか?)

そう思った瞬間、背後から突然声を掛けられた。


「疲れたかい?乗せてってやろうか?」


ロウは振り返る。

そこにいたのは全長20メートルはあるであろう白い蛇のような生き物だった。

金色の目、鋭い牙が見え隠れする口、鱗の隙間からひょろりと窺える前足に、朱色のたてがみ

頭には大きなつのもある。


これはロウの父、ハルトが故郷から持って来ていた絵本に出てくる「龍」という生き物に似ていた。

ロウは驚きを通り越して只呆然とその生き物を見上げていた。

(これはきっと夢だ。こんな世界が有り得る訳無いし・・・。)


「乗るんだったら六文ろくもんよこしな。」

「ロクモン・・・?」


ロウは何を要求されているのかが分からず巨大な蛇に聞き返す。


六文銭ろくもんせんだよ、三途の川の渡り賃だよ。」

「三途のって、冗談じゃねぇよ。そんなの持って無いし、渡る気も無い!僕はまだ死ぬ訳にはいかないんだっ!」

「少年よ。人は何かと未練を残して死に絶える事が多い。現実を受け入れてそれでもまだやり残した事があるなら、この先にいる鬼に会うといい。」

「・・・鬼?」

「この先は地獄。極楽へ行くも、更に地にに堕ちるかもお前次第だ。」


巨大な蛇は顔を近づけてまじまじとロウの顔を見た。


「悪い奴じゃなさそうだな。ひとつ忠告しておいてやるよ。」

「・・・何?」


この世界に存在する者の忠告。

聞いておいて損はないハズである。

ロウは近付けられた巨大な蛇の顔に動じる事無く話に集中する。


「鬼と直々に契約をした者は絶大な力を手に入れる事が出来る。ただし、輪廻転生りんねてんせいの時間軸から弾かれる。力に溺れるなよ。契約を交わしたその時から、永遠の孤独が始まる。」

「・・・・・?何言ってるか分かんねぇよ。」


ロウの集中力は早くも切れた。


「・・・・・。悪い奴じゃなさそうだが、頭は悪そうな奴だな。」

「・・・・悪かったな。頭の出来がよろしく無くて。」


ロウは軽く睨むとひと呼吸置いて再び辺りを見渡した。


「まぁいいや。此処がどういう所なのかも大体分かったし。ありがとな、お前も金にうるさくて口は悪いけど、いい奴じゃないか。」

「まぁな。二言余計だが。いい奴なんだよ、オレって奴は。・・・じゃあな、また会おう。」


巨大な蛇は頭をウネウネと揺らして去って行った。

ロウは右手を左右に振って見送る。


『また会おう。』


此処は恐らく死者の通り道。


「また会おうって・・・何か複雑な気分だな。」


数刻振りに話をしたせいか、気分も少し晴れた。

『まだ死ぬ訳にはいかない』

勢いで言ったものの、大層な理由なんて無かった。

自分の死に様が納得いかなかったのは確かだが。

シェリカがあんな事をする訳が無い。

あれはきっと何かの間違いだ。


きっとそれを証明したかったのだろう。


更に数分歩くと、遥か彼方まであるかのように見えた道がいつの間にか終着を迎えた。


目の前には空まで続きそうな大きな扉がある。


ロウは冷んやりと冷たい扉に触れてみた。


すると、触れた場所から不思議な波紋が広がり、辺りが徐々に闇に包まれて行く。



ーーーポタッ。

ロウの汗が顎を伝って落ちた。

辺りが暗闇に包まれると同時に何かの気配を感じる。


「・・・何だ?この禍々しい気配は。」


恐る恐る振り返ると、一面の闇の中に青白い光がぼんやりと現れた。


続いて二つ、三つ。


「・・・コレって鬼火おにびか?」


鬼火の照らす光でほんのりと周囲の様子が窺える。


「ここは・・・村にあった洞窟か!?」


鬼火と共に何かが近付いて来る。


コツ、コツ、コツ・・・ピタッ。


ロウはこれまでに感じた事の無いような威圧感に息を呑んだ。


「ようこそ、地の牢獄ろうごくへ。」


「ろ、牢獄・・・?」


「そう。ここはお前達人間が地獄と呼ぶ場所だ。」


鬼火を纏わせて現れたのは、頭部に禍々しい二本のツノを持つ人の姿をした異形の者だった。




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