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第八話 食卓に現れた台風 vs ザリガニ

つまりはね、そういうことなんだよね。あ、僕は滝川朋です。それでね、そういうことっていうのはさ、あれだよ。物語の主人公、特にコメディの主人公はどうしようもなく不幸じゃなきゃならないってこと。僕だって色々野望とかあるのに、全然叶えられないしね。これでも色々努力してきて、今もずっと努力してるって言うのに……(つづく)

「で、沙雪さん。長老たちの反応はどうだったの?」

「それが全然。あいつら頭固いから、このままじゃ全く動いてくれないよ」

「そっか……、やっぱりね。今は全面戦争は無理か……」

僕は頭を抑えてため息をつく。沙雪さんも同じようにため息をついた。


 沙雪さんが今まで家を開けていた理由は、鬼族の長老たちに協力を仰ぐためだった。鬼族が力を貸してくれれば日本の制圧は簡単なんだけれど、鬼というのは基本的に平和主義で楽観的なのだ。人生を楽しんでいる彼らを動かすのは容易なことではないらしい。


「とにかくお疲れ様、沙雪さん」

「うん、ありがと。……それでね、あたしはそこで平然とご飯にがっついてる女が気になるんだけど」

沙雪さんは、何故かテーブルの上座でご飯を食べている女性を指差した。正直に言えば僕もどうして居るのかを切に知りたい。ていうかそれ僕のご飯……。

「美里さん……、どうしてここへ?」

むしろどうやって?

 美里さんは食事を中断して顔を上げた。

「どうしてって、朋くんに会いに来たに決まってるじゃな〜い」

「………」

「………」

僕と沙雪さんは頷きあって関わり合いにならないことを決めた。多分美里さんは酔っ払っているんだろう。そうに違いない。いや、そう信じたい……。

 美里さんは僕と沙雪さんが黙ったのを見届けると、満足そうに頷いて食事を再開した。あぁ、僕のご飯がぁ……。

「それにしても美味しいわね。アルくん、いいお嫁さんになれるわよ〜」

美里さんはキッチンに立っているアルに、からからと笑いながら声を飛ばす。アルはどう答えていいのか分からないようで、

「は、はぁ」

とかいう気のない返事を微妙な笑顔で返していた。

 というか美里さん。アルは男ですよ? 執事服を着てるのが見えないのですか?


「ちょっと朋。何なのこの女?」

隣に座っていた沙雪さんは、ちょんと僕の脇腹をつついて小声で話し掛けてきた。僕も小さな声で返す。

「里香のお姉さんで、中学時代の僕の自称保護者だよ」

「……朋、良くグレなかったね」

「慣れっていうのは恐ろしいものだよ……」

僕はしみじみと頷きながら、美里さんが隣人だった中学時代を思い返す……。



 初めて挨拶に行ったときからいきなりご飯を作れと命令され、それから毎日美里さんの食事を作ることになり、ある日は掃除をしろと命令されて、それ以降は毎週美里さんの部屋を掃除することになり、ある日に洗濯を………これ以上思い出すのは嫌だから以下略で。



 あぁ、よくグレなかったな僕。僕は僕を誉めてやりたいよ。あ、あれ? 頬が何か熱いけど、これは………涙?

「よく、頑張ったね……」

沙雪さんは子供にするように優しく頭を撫でてくれた。僕の心はそれだけで救われーー。

「どうしたの朋くん。美人アレルギー? やだ、わたしったら罪作りな女♪」

美里さんの何気ない必殺の一撃で、僕の心は粉々に打ち砕かれた。というか美人アレルギーって何さ?

「沙雪、さん……。僕はもう、このお姉さんの嫌がらせに耐えられません……」

「耐えて、耐え抜いて! そうすればいつか報われるわ!」

沙雪さんは芝居がかったセリフを大きな身振りと共に口にした。それは僕を受け入れようとするようで、僕は素直に沙雪さんとがっちり包容し合う。

「ありがとう、沙雪さん。僕にも、勇気が湧いてきたよ!」

「あたしは応援するよ」

僕と沙雪さんの間に、不屈の傍若無人キャラ掃討同盟が成立した瞬間だった……かもしれない。

 アルは僕達を痛々しいものでも見るような憐れみたっぷりな表情をして、ため息をついた。

「朋様、沙雪。しょうもない三文芝居は止めて、早くご飯を食べてください」

『は〜い』

僕と沙雪さんは欠片程の名残惜しさも見せずに離れて食卓に戻った。まぁ、元々悪ノリだからね。……でも、三文芝居とは酷いと思う。これは由緒正しい笑いの型なのに!

 ふと、美里さんが今までの騒ぎに関わってこなかったことに気が付いた。稀代の騒ぎたがりが静かだというのは、不思議を通り越して不気味だ。

 ちらりと美里さんの方を覗き見ると、彼女は夢中でザリガニを貪っていた。………ってザリガニ!? うちの食卓には近所のザリガニが出てくるのか!?

 というかザリガニを夢中で食べてる美里さんって一体……。


 その後、ツッコミどころ満載な食事は滞りなく進んだ。僕は唖然と美里さんを見てただけなんだけどね……。

 大量のザリガニに満足したのか、美里さんは箸を置いた。

「アルくん、ごちそうさま。わたし、伊勢エビを食べたのって初めてなの。ありがとうね」

ええぇぇぇ!? 伊勢エビ!? 明らかにザリガニだったんですけどぉぉぉ!?

 アルは極上の営業スマイルを作り上げた。

「また来てくださいね。次も腕を振るいますから」

「ええ、またお邪魔するわ。じゃ朋くん、またね♪」

そう言って美里さんという名の台風は去っていた。ていうかまた来るのかよ……。

「ねえ、アル。さっき美里さんに出してたのってザリガニだよね?」

「さぁ、何のことでしょう? 私は今日、猫の集会があるのでお暇しますね」

アルは適当にしらばっくれて猫になり、窓から身を躍らせた。だからここは二階……。

「何か、疲れたね……」

沙雪さんはげんなりとした表情。僕もため息をついて肯いた。

「そうだね……。何も食べてないのに、何かお腹は一杯だし……」

僕と沙雪さんは顔を見合わせて、大きくため息をついたのだった。

ってことなんだよね。ってあれ!? 僕の愚痴が全部流されてる!? ……まぁ、いいけどさ。僕は愚痴聞くのが専門だから、聞き役は愚痴言っちゃいけないことは分かってるんだよ。それでも、それでも僕は………(以下愚痴スパイラルにつき省略)

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