第五話 遅刻とお姫様抱っこ
僕です。魔王の滝川朋です。未だに魔王らしいところとか、僕の格好良いところとかが出ないのはどういう事だ!!僕が情けないっていうのが定着したらどうしてくれるんだよ!!………今回も僕の不幸と情けなさ全開です。それではどうぞ(泣)
僕は走っている。それはもう全力で走っている。脚が千切れるんじゃないかという速度で走っている。百メートル日本代表になれるんではないか、ってくらいに走っている。全ては遅刻から逃れる為。担任の鉄拳制裁から身を守る為だ。
「朋、大丈夫ぅ?」
隣から聞こえる能天気な声。僕は辛うじて返事を返す。
「これが、大丈夫にっ、見える……!?」
ちらりと横を見ると、全く平常の状態で沙雪さんが走っていた。汗のひとつもかいていない。僕はあまりの理不尽さに馬鹿らしくなって立ち止まった。なんとか息を整えようと悪戦苦闘する。
「ちょっと、朋! このままじゃ遅刻するよ!」
「もうどうでもいいんだ。沙雪さんは僕の屍を越えて……」
僕はがくりと膝をついた。正直なところ脚が限界だった。気力が切れた僕がそうなるのは必然だろう。
沙雪さんはやれやれ、とでもいうように肩をすくめた。そして僕を持ち上げる。……いわゆるお姫様抱っこで。
「ちょっ、沙雪さん!?」
「朋が遅刻しない為にはこれが一番でしょ?」
「まぁそうだけど……」
恥ずかしいんだよ! 仮にも男である僕が、か弱い(外見だけ)女の子にお姫様抱っこだよ!? こんなの知り合いとか姉とか妹とかクラスメートとか沙雪さんファンクラブ会員とかに見つかったら僕は死ぬしかない。
僕はなんとかして下ろして貰えないかと思考をフル回転させる。
「沙雪さん、下ろ……」
「本気で走るから、しっかり掴まっててね?」
そう言って沙雪さんは僕を自身により引きつけた。何か柔らかいもの、つまりは身長の割に大きい沙雪さんの胸が僕の腕に当たる。あぁ、なんかもうどうでもいいかも……。
「それじゃ、行くよ!」
「へ?」
沙雪さんの声と共に急に流れ出す景色。内臓を吹き飛ばすかのようなG。竜巻が直撃しているような風圧。無理矢理例えるならば、飛行機にしがみついて空を飛んだ、そんなイメージ。
それはあまりにも強烈な衝撃で、僕の意識はガラスのように砕けて消えていった……。
僕が目を覚ましたのは白い部屋だった。名称を言うなら保健室という。
「あ、良かったぁ。大丈夫だった?」
そう言って椅子に座った沙雪さんは、僕の顔を覗き込む。正直なところ、気分は最悪だ。
「大丈夫なわけないよ。鬼と人間じゃ体力とか体の丈夫さとかが根本的に違うんだから……」
「ごめんね?」
沙雪さんは申し訳なさそうに目を伏せた。
水瀬沙雪さんは、鬼と呼ばれる種族だ。外見は人間と殆ど変わらないが、強靱な肉体と底のない体力を持つ。沙雪さん個人に限って言うなら、ゴ〇ラも一撃の下に粉砕してしまいそうだ。ついでに沙雪さんは鬼の中では子供で、信じられない話だが年齢は僕より十は上らしい。
沙雪さんはちゃんと反省しているようだ。僕は体を起こして、沙雪さんの頭にぽんと手を置いて優しく微笑む。
「まぁ、次から気をつけて。今回は多目に見るから」
「ありがと。やっぱり朋はいい男ねっ!」
そう言って沙雪さんは僕に抱きついた。彼女のその……、胸が当たって非常に気持ちい……、じゃなくて居心地が悪い。
「沙雪さんっ、離れて! 誰かに見られたら……」
僕の命が危ないんですっ!
しかし沙雪さんは離れない。
「まぁいいじゃない。見せつけてあげれば」
何を言っているんだこの人はーー!! マズい、マズいぞ。どうにかしてこの人を引き剥がさなきゃ……。
そのとき突然、保健室の戸が開け放たれた。
「すみません。湿布をくださ、い?」
そう言って硬直する少女。彼女の瞳は僕と沙雪さんをばっちり捉えている。ちなみに沙雪さんは気付いていないようで、僕の胸の辺りに頬摺りしていた。
僕は無駄と知りながら、取り敢えず弁明を試み、
「あの、これには深い訳とかが……」
言い訳の一つも思いつかない。このままでは、あの少女からあること無いこと噂が広まり、僕は沙雪さんファンクラブに磔にされてしまう!
少女は俯いて僕達の方につかつかと歩み寄って来た。これは予想外の行動だ。
少女の存在にようやく気付いた沙雪さんは少女を睨みつけた。
「何よぉ。今良いところなのに」
いや、ちっともそんな雰囲気じゃありませんでしたから! 誤解を招くような発言するとほら、そこの子が勘違いしちゃうから!
少女は僕の前まで来ると殺気の籠もった視線で僕を射抜く。
「滝川朋。貴方、姉さんに続いて水瀬さんにも手を出しているの?」
「え? 僕は君の姉さんに手を出した覚えは無いって言うか、君が誰なのかも分からないんだけど……」
少女は素早く僕の首へ右手を伸ばす。沙雪さんに抱きつかれている僕は為す術もなく首をがっちりと掴まれた。そして締め上げられる。あれ、なんか既視感?
「私は奥寺里香。奥寺美里の妹」
ああ、美里さんの妹さんかぁ。まさかうちの学校の生徒だったなんて知らなかったなぁ。……あ、なんか意識が……。
「あんた、あたしの朋に何してくれてんの?」
僕の意識が闇に落ちる寸前、沙雪さんは里香の手首を掴む。瞬間、ごきりと鈍い音がして里香はさっと手を引いた。って折ったの!?
「げほっ、げほげほ……。はぁはぁ……」
何とか意識を失わずに済んだ僕は里香の右手に目を向けた。見事にぷらんと下を向いている。
里香は右手を左手で庇い、沙雪さんを睨みつける。
「水瀬さん。貴方はその滝川朋という最低な男に騙されているんです」
里香は断言する。
全く知らない女の子に最低とは言われたくないなぁ。
沙雪さんも同じ考えのようで里香を睨み返した。
「あんたね、知りもしない人間を、それも朋を最低扱いするとは良い度胸ね。……殺されたいの?」
沙雪さんの目は本気だ! 里香の出方によっては本当に殺しかねない。僕が止めなきゃ……。
「沙雪さん、抑えて……」
「大丈夫よ、朋。ちゃんと跡形もなく消すから」
何が大丈夫なのですか!? 問題しか残ってないような気がするのは僕だけですか!?
里香は沙雪さんの本気に気圧されたのか、ほんの少し後退した。
「く、今は分が悪い……。滝川朋、次に会うときはお前の最期だと思え」
里香はそう言って保健室を後にしていった。全く、何だったんだ?
沙雪さんは僕から体を離して僕に殺気を放った。
「いつの間に、奥寺里香と仲良くなったのかなぁ? さらにその姉に手を出しただって?」
その殺気は阿修羅とか毘沙門天さえ泣いてひれ伏しそうな、そんな殺気。僕は震えが止まりません。
「そそそそれは誤解です! 確かに彼女のお姉さんとは中学生の頃に知り合いましたけど、里香には今日初めて会いました!!」
沙雪さんは激烈な殺気を放ちつつ僕の目をじっと覗き込む。無性に目を逸らしたいが、逸らした瞬間に殺されるだろう。
睨み合いは五分程続き、沙雪さんもようやく殺気を消してくれた。
「まぁ、嘘は無いみたいね。許してあげる」
「ありがとうございます……」
僕はあまりの心的疲労でぱたりとベッドに倒れ込んだ。
「そうだ。沙雪さんは彼女、里香のこと知ってる?」
「え、知らないの!? 彼女、一年生にして剣道部エースで夏のインターハイで優勝してる有名人だよ。その他にも、不良掃討でも有名なのよ?」
「そうなんだ。知らなかった……」
僕は執拗に襲ってくる睡魔についに抗えなくなる。
「じゃあ、お休み沙雪さん。僕は寝るよ……」
それだけ言って、僕は意識を手放したのだった。
こんにちは、黒猫のアルです。朋様の弁護をさせていただきます。朋様はそれはもう……(以下略)………以下略とは、陰謀としか思えませんね。まぁ、朋様にはこれから活躍して貰いましょう。最後に良いことを教えて差し上げましょう。作者は非常にムラッ気が激しいです。感想や評価を与えると更新速度が上昇するかと思われます。朋様の活躍の為に是非とも評価や感想をお願いします。




