第二十四話 魔王様とはーれむ
「魔王様」
「どうしたんだい?」
猫形態のアルは僕のベッドの上にちょこんと座って僕を見上げていた。僕はすらすらと走らせていたペンを止めてアルに向き直る。
「今の状況を一言で表すとするならどのような言葉が適していると思いますか?」
「はぁ? どうしたの、藪から棒に」
アルが言っていることの意図がイマイチ良く掴めない。
そうだな………。兄さんに喧嘩を売ったはいいけど、何も仕掛けられないし、そもそも屋敷から出られないこの状況を一言であらわすなら、
“手詰まり”
これが妥当かな。
そう結論付けた僕が口を開く前に、先にアルが口を開く。ところでアルは猫の声帯でどうやって人語を操っているんだろう?
「何か気づきませんか? この屋敷には、沙雪、美里様、里香様の三人の女性がいるのですよ」
「? まぁそうだね」
アルの言っていることは良く分からない。というより何時もと違う気がするのは僕だけだろうか? なんだかそわそわしているようなウキウキしているような………。
「自覚は無いということですね?」
「ていうか何が言いたいのさ?」
「では、率直に申し上げます。この状況、確かに小規模ながら権力を持つ者のステータスであるハーレムであるということを言いたかったのです! 魔王様。魔王様にも遂に魔王としての在り方に目覚めたのですね!!」
…………はい? 今、アル君はなんと言いました?
いや、聞き間違いだよね。
「で」
「素晴らしいです! 私、200年振りぐらいで感動しております!」
アルは踊り出しそうな勢いだ。
………遂に壊れちゃったのかな?
「アル、正気?」
「ええ、正気ですよ正気ですとも! 遂に魔王様が魔王様らしいことをなさったのです。今日は赤飯を用意せねば!」
駄目だ。目が逝ってる。ていうか何処がハーレムなのさ?
「あのねぇアル。彼女らは僕のお手つきではないし、その予定さえないのに、それはおかしいでしょ?」
「………腰抜け魔王様」
アルは舌打ちをして暴言を吐く。
「そういえば魔王様はヘタレでしたね、ええ。期待した私が愚かでした。それでは」
「ちょっと、アル!」
アルは言いたいだけ言って雷光のような素早さで部屋から出て行った。
最近、アルの態度が悪いのはどうしてだろう? ………調教が必要、かな。
そうやって意図的に黒い笑みを浮かべていると、アルが逃げ去ったまま半開きだった部屋の扉が勢いよく開いた。里香だ。
「滝川朋っ! 貴様、私をこんなところに連れこんで何を企んでいるっ!」
「何をって、ねぇ?」
黒い笑みを浮かべたまま流し目をしてやる。里香は後退りするが、ぐっと気合いを入れて食ってかかってきた。
「答えろっ!」
「………あのね。君がぶちのめした相手のこと、覚えてる?」
「ん? あの黒服共のことか?」
里香は何でもないことのように言う。これだから素人は………。
「あれが問題でね。彼らは本職の方々なんだよ。君の身が危ない」
「何故だ? 復讐に来るなら返り討ちにするだけだ。手応えは皆無だったし」
「それは不意を突かれたからだよ。彼らが本気になれば銃くらいは平気で使ってくる。それでも大丈夫だって言うなら僕はもう関与しないけど、そうじゃないなら僕に任せて欲しいんだ」
里香は青い顔で僕を見る。いかに里香といえど、所詮はアマチュアだと言うことだね。
「わ、分かった。し、しかしお前は大丈夫なのか?」
僕は笑う。自虐的な嘲笑。
「適材適所、だよ。こういうことに慣れてる僕に任せてほしい」
「それはどういう………」
「朋く〜ん! ようやくわたしの良さが解ったのね〜! お姉さん嬉しい!!」
「ごふぅっ!?」
絶叫に似た歓喜の声。腹部への強烈な打撃。一瞬、意識が飛びかける程の見事なタックルだった。
というか、気配が完全に読めないという異常事態だった。美里さん………侮れん。
「姉、さん? どうしてここに?」
「うん。沙雪ちゃんから朋くんと結婚しないかってお誘いを受けたから」
「………え? た、滝川朋、貴様………」
「違うよ! 美里さんはナチュラルに嘘つかないでください!」
僕がすかさず否定すると、美里さんはしなを作り潤んだ瞳で僕を見上げた。
「そんな………。あの時わたしを傷物にしておいて………」
「ちょっ………、そんな口から出任せの嘘が良くスラスラ出てくるもんですね! あ、あの、さ、里香さん? 落ちついて………」
何やら自分の爪先をにらみ殺すように見つめ、ギリギリと拳を握り締める里香。背後には燃え上がる炎のようなオーラが。誰に見えなくても僕には見える。
ヤバいと思ったのか、美里さんはいつの間にか僕から離れていつの間にか里香側についていた。
「滝川朋………」
「は、はひっ!?」
ヤバい。声が裏返ってる。恐怖で体が動かない。蛇に睨まれたカエルだ。
里香は限界まで握り締めた拳を、最大の破壊力が得られる形に当てはめた。
「姉さんに手を出すなと言ったろおぉぉぉぉっ!!」
ごぅという風切り音と共に放たれる凶拳。僕は避けることもせずに甘んじて受ける。
「ぐはぁっ!」
僕の意識はブラウン管のテレビのようにぶつりと切れた。
約1年ぶりの更新です。
お久しぶりの方も初めましての方も読んでくださってありがとうございました。
今後は定期更新を目指して頑張りますので、よろしくお願いします。
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