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第二十三話 襲撃

昼でも薄暗い路地裏。その奥の少し広くなっている袋小路で、僕こと滝川朋は絶対絶命の危機に晒されていた。

「僕に何か用ですか?」

僕は平静を装って、僕を取り囲む黒スーツを着たその筋の人達五、六人に問う。その中の一人、アゴヒゲを生やした中年男が僕の問いに答えた。

「ああ、気の毒だが。とある旦那の依頼でなぁ、君をその方の屋敷まで連れてかなきゃならんのよ」

男の右手に握られた長ドスが光を反射してキラッと光った。僕は身震いをする。敵は全員がその手の人間な上に武装しており、僕は徒手空拳。圧倒的不利どころか、如何にしようと勝ち目が殆ど無い状況だった。

 うちの義兄達の中の誰かの仕業なのだろうけど、これはやりすぎじゃあないか? 抵抗したら僕、死んじゃうじゃん。ついて行けばついて行ったでロクな事にはならないだろうし。

 僕がしばらく黙っていると、敵の中でも特に短気そうな男が痺れを切らしたように怒鳴る。

「だんまりかワレぇぇえぇ!! ナメた真似してっと、その女みてぇな顔、ズタズタにすんぞ!!」

怖っ! ヤクザの人怖っ!!

 長物さえあれば、僕もどこかの物語の主人公みたいに大立ち回りをやってみるんだけど、長物が無いんじゃどうしようもない。大人しくこいつらに付いていくしか………、


『ニャ〜〜』


と、僕が諦めかけたそのとき、僕の目の前を黒猫が颯爽と横切って行った。………あれは、アル?

「貴様等ッ! いい大人が一人の学生脅して情けないとは思わないのかッ!!」

その黒猫に導かれて現れた人物は、

「貴様等のひん曲がった根性は私、奥寺里香が正してやるッ!!」

一人の阿呆………、もとい奥寺里香だった。というか名乗ってどうする。ヤクザに目をつけられたら大変だぞ?

 ヒーローのように現れた里香に、ヤクザの人達は一瞬我を失い、

「ナメんなやゴラァッ!!」

気を取り直した瞬間、得物を構えて里香に飛びかかった。リーダーっぽい人を除いて。

 あーあ、やっちまった。こんな三下ヤクザ共では、竹刀を携えた里香にはかなうまい。これでめでたく里香はヤクザに追われるハメになり、僕は彼女に恩義を返さなくちゃあいけなくなるわけだ。全く、面倒臭い。

 里香は不敵に笑み、竹刀を正眼に構えた。彼女が狙っているのは、おそらく喉元。どんな相手でも一撃で悶絶する急所だからだ。

 里香は小さくため息をつく。

「つまらん。少しもなってはいないではないか」

そう呟いて、動いた。いや、消えた。少なくとも僕の視界からは。そして簡抜入れずに、ぐしゃりと何かが潰れる音が連続で僕の耳に届いた。続いてドサドサと人がコンクリートの地面に倒れる音。里香はどうやら全員を殆ど一瞬で葬ったらしい。

「ふむ。これで二対一となったが、どうする?」

里香は残ったリーダーの人に木刀の切っ先を向けた。リーダーの人は肩をすくめておどけて話し出し、

「嬢ちゃんにはまいったな。これでこの仕事は失敗になっちまったわけだけど」

極悪な笑みを浮かべる。

「だがな、ヤクザってやつはナメられたら終わりだからよ。………覚えとけよ」

ヤクザのリーダーの人はそう吐き捨てて、下っ端たちを蹴り起こして去っていった。

「さて、君。これでだいじょ………って滝川朋!」

里香は今更気が付いたのか目を剥いて驚き、あからさまに舌打ちする。

「ちっ、お前なら助けは必要なかったな。余計な世話だった」

「いやいや、助かったよ。ありがとう」

僕が素直に礼を言うと、里香は詐欺師を見るようなじと目で俺を見た。

「………お前が素直に礼を言うと、胡散臭いな」

「心外だなぁ。僕だって礼を言うべきときは礼を言うさ」

僕はおどけた調子で話す。心が少しだけ傷ついたのは秘密だ。

 里香は、ふんと鼻を鳴らしてきびすを返した。

「どこまでが本心なのだか。ではな」

「いや、ちょっと待って。君が用が無くても僕は用がある」

僕は去っていこうとする里香を慌てて引き止めた。里香は嫌そうにゆっくりと振り向いた。

「………なんだ?」

「君が打ち倒した相手のことは分かってるかい?」

「ヤクザだろう? それがどうかしたか?」

里香は至って平然と言う。まぁ、一般人にはこの程度の認識か。その上、さっき楽に倒したとなると尚更、だな。

「君はヤクザの恐ろしさを知らなすぎるよ。彼らは言わば恐怖と暴力のプロだ。恐怖の目を向けられる為には何でもするんだ。それが法律的に極刑に繋がることでも、ね」

「ふぅん?」

里香はイマイチ納得の行かないというか理解が及ばないというような表情で首を傾げた。やっぱり口じゃ分からないか。それなら………、

「アル。頼むよ」

僕は里香の背後の闇へと声をかけた。

「分かりました。魔王様」

「っ!?」

里香は背後に唐突に現れた気配と声に反応し、素早く飛び退く。が、

「失礼します」

アルが右手のハンカチを里香の口と鼻に押し当てる方が早い。それに染み込まされた薬品を思い切り吸い込んだだろう里香は、気を失ってアルの腕の中へと倒れ込んだ。

「ってクロロホルム!? それって後遺症が残るんじゃ無かった!?」

「いえ、適量であれば大丈夫です。それよりこの少女は屋敷に運んでおきますか?」

「いや、里香は僕が連れて行く。それよりアルは………」

僕は里香のポケットの中を漁って生徒手帳を探し出し、それをアルに渡した。

「里香の姉、美里を保護して来てくれ」

「承知いたしました」

アルは生徒手帳を受け取ると、颯爽とその姿を消した。

 僕はため息をつく。

「計らずとも全面戦争ってことになっちゃったけど………」

僕にとっては好都合だ。血縁だからといって容赦するつもりも全く無い。

「僕に手を出したことを後悔させてあげるよ、兄さん達………」

僕はこみ上げてくる暗い衝動に身を任せ、高らかに笑った。

注)作者はクロロホルムについて全く知りません。ぶっちゃけイメージでしか書いていないので、話を上手く進める為のアイテムだと思ってください。




というわけで第二十三話でした。お話も佳境に入り、シリアス要素の増加に伴いコメディ要素が減少するといった、コメディ屋として少し面白くない事態が発生しています。なんとかコメディ方向へ持っていけないかなぁ。

ところでこの作品、そろそろ打ち切ります。壮絶なる兄弟喧嘩編の終了(おそらくあと2〜3話)あたりが一番区切りが良いかなぁ、と思ったり思わなかったりしたので。

次の更新がいつになるかわかりませんが最後まで根気よくお付き合いくださると嬉しいです。

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