第二十一話 緊急事態!?
「緊急事態! 緊急事態です!!」
黒猫形態のアルが慌ただしく僕の部屋に転がり込んでくる。書き物をしていた僕は一旦、手を止めてアルに向き直った。
「どうしたんだい、アル? 君が慌てるなんて珍しいじゃないか」
「私だって神ではないのですから慌てることだってあります!」
アルは乱れた息を必死で整える。僕はアルの息が落ち着くまで待つ。
やがてアルは落ち着いたようで、重々しく口を開いた。
「ついに、ついに自衛隊がこの屋敷に向かって出動しました。時を同じくして、米軍もここに向かっております」
その報告に、僕は少しだけ目を見開いた。
「ふぅん、自衛隊がねぇ。日本の上層部は腰抜けばかりだと思っていたけれど、まだ骨があるのがいるらしいね」
「魔王様! そのように暢気なことをおっしゃっている場合ですか!? 早急に対処せねばならないでしょう!!」
アルが吼える。……ん? 猫が吼えるって………。
少しだけおもしろくて僕は笑った。アルは僕が笑う姿を見て声を荒げる。
「笑っている場合では無いでしょう! 早急にご指示を!!」
「君は面白くないのかい? アルが吼える、っていうんだよ? 猫は吠えないじゃないか」
「はぁ? 魔王様、何をおっしゃっているのですか?」
アルが、何言ってんだこのバカが、とか思っている表情をしていた。
しまった、セリフ間違えた。
僕は一つ咳払いをして全てを誤魔化して、もう一度、威厳をもって言う。
「アル、君は面白く無いのかい? 自衛隊がしゅつ……」
「言い直すのですか!?」
「ちょっと、アル。ちゃんと言わせてくれないか」
「あ、すみません」
アルは呆れたように諦めたように、素直に頭を下げた。僕は威厳をもって口を開く。
「アル、君は面白く無いのかい? 自衛隊が出動したということは、我々が社会にとって有害な悪であると認識されたということ。つまり、僕らは政府を倒す組織として正式に社会に認められたということさ」
「またしょうもないことで喜んでおられますね………」
アルは呆れたように大きくため息をついた。少しアルの態度が気になるけど、今は緊急事態。気にしないことにしよう。
「アルっ! 屋敷にいる隊長クラスを全員呼び出して!!」
「承知いたしました」
アルは今までのおちゃらけた雰囲気を吹き飛ばし、颯爽と僕の部屋から去っていった。
さて、僕も会議室へ移動するとしようか。
会議室と銘打った客室の一つに、僕をはじめとする魔王軍の幹部が一堂に会した。
僕は上座に座り、会議室に集合した面々を見渡してから、おもむろに切り出した。
「さて、全員、ここに軍隊が迫っていることは聞いているね?」
全員が無言で頷く。その表情は真剣そのもの。しかし、一切の悲壮感もない。
僕はその頼もしい面々に満足に頷き、指令を送る。
「沙雪さん! 貴女の鬼隊は先陣を任せます」
沙雪さんは、にやりと笑みを浮かべる。
「了解。他の部隊の出番が無くなるくらい暴れてくるね」
沙雪さんはそう言って会議室を後にした。僕はそれを見送って、次に目を向ける。
「レイ! 君のヴァンパイア隊は夜まで待機。日が沈んだ後、敵本陣に奇襲!」
「りょ、了解です!」
レイはふらふらと駆け足で会議室から出ていった。………大丈夫かな?
僕は気を取り直してアルの方へと目を向けた。
「アルは後方支援と各部隊への連絡を担当して!」
「了解いたしました。猫又の神通力の真髄をお見せしましょう」
人間形態のアルは、颯爽と会議室から出ていった。
会議室には僕だけになる。
「ふふふ……。これから、僕の世界征服が始まるんだ………」
僕は一人、自分が支配した後の世界を想像してほくそ笑んでいた。
「………って感じを僕は求めてるんだよ!」
僕は力説していた。アルと沙雪さんを前に。沙雪さんは非常に楽しそうに、アルは何言ってんのこいつという感じで聞いていた。
「あの、これで満足ですか? 魔王様」
うんざりした様子で問うアル。あ、なんかムカつく反応。まだまだ聞きたいってことかなぁ?
「いやいや、まだまだ僕の野望の話は続くよ」
「………」
アルはこの世の終わりでも来たかのような絶望にどっぷり浸かった表情になった。分かりやすい奴だなぁ。
「朋、ちょっと………」
「え?」
僕がアルへの嫌がらせに新しい話をしようと思った矢先、沙雪さんが深刻そうな表情で僕に声を掛けてきた。沙雪さんのこんな表情、初めて見た………。
沙雪さんは僕の前ににじりより、ずいと顔を近付けてきた。
「どうして………?」
「え?」
「どうしてなの………!?」
「へ?」
沙雪さんは必死に僕に何かを訴えようとしている。その必死さが、尋常じゃない何かを感じさせて、僕は身構える。
かくして沙雪さんは言葉を紡いだ。
「どうしてあたしの出番があれしかないの!?」
「………」
あんまりだった。あんまりだったから言葉を失った。ぶっちゃけどうでも良かった。どうでも良かったから、ぞんざいに返した。
「だって、沙雪さんの立ち位置ってそんなもんじゃない?」
「ひどっ!? この前まではメインヒロイン級の扱いだったのにっ!!」
沙雪さんは僕の胸倉を掴んでガクガク揺する。脳みそがいい感じにシェイクされて、意識が飛びそうになった。気がつくと僕は必死に謝っていた。
「ごめっ、ホントごめん! 謝るから! 反省するから! だから揺らさないでー!」
「もっとあたしに構ってよぉーー!」
駄目だ、聞こえてない! かくなる上はアルにっ、アルに助けを求めるしかないっ!!
「アルっ! 助け………」
僕は絶句した。先ほどまでアルがいたところは、既にもぬけの殻になってしまっていたのだ。つまり、僕を助けられる人間は皆無………。
沙雪さんは相も変わらず、僕を揺すって、叫ぶ。
「扱いの改善を要求するぅー!」
あ、なんかもう、意識を保つのが馬鹿らしくなってきた………。
僕は沙雪さんの腕を揺りかごに、喚き声を子守歌に意識を手放したのだった。
お久しぶりです。本当にお久しぶりです。この小説は実に5ヵ月ぶりの更新らしいです。
更新サボってすみません。待っていてくださった方は本当にありがとうございます。
今後はちまちま更新するので、是非よろしくお願いします。




