第十四話 戦いの結末と校長室
今回で、微妙に消化不良ながら生徒会会長争奪戦編は終了です。……長かった……。
上には上がいるものだというが、今回ばかりはそれどころじゃなかった。つまりは敗北だった。どうしようもないくらい惨敗だった。
橘先輩の動きが見えないわけでも読めないわけでも無い。むしろ、直情的な闘い方をする橘先輩の動きは読みやすかった。
ただ、そのスピードとパワーは桁違いだった。力は沙雪さんには遠く及ばないだろうが、スピードは沙雪さんの上を行く。
その上、体力だけで闘う沙雪さんと違い、武術のマスターらしく、体の運びに無駄がなく隙が少ない。更に急所を的確に突いてくる正確さも持っている。
僕としては、どうして未だに自分が立っていられるのかが不思議で、不可解だった。
「……よく耐えますね。普通の方なら三分は前に屍になっているのに」
橘先輩は感嘆のような呆れたような声を上げる。ていうか屍って怖ぇよ。
「僕も不思議ですよ。はっきり言って全てにおいて惨敗してるのに、どうして急所を外せるのか、………未だに立っていられるのか」
もう何十発のパンチをもらったか分からないが、どれもこれも致命傷には至らず、いたずらに苦痛を増しただけだった。
「こんなに手応えのある相手は、久しぶりです」
橘先輩は楽しそうに口の端を吊り上げた。
……冗談じゃない。これ以上やったら本気で屍になりかねない。何か、何か良い手は無いものか……。
「この辺りで休戦にしませんか? これ以上は本当に死にかねないですし」
「ええ、いいですよ。貴方が白旗を上げて降参してくださるのなら、ね」
「僕、白旗は持ってないですよ」
「予想以上に面白い方ですね。貴方は」
橘先輩は軽やかに笑った。僕もつられて引きつった笑みを浮かべる。
「では、そろそろ沈んでくださいね?」
橘先輩は緩んだ空気を一瞬で引き締め、僕との距離を一足で詰める。橘先輩の放つ顎を狙う拳を紙一重でかわし、同時に襲い掛かるレバーブローを肋骨に受けさせた。
激痛。
「ぐあっ……!」
たまらず僕は片膝をつき、橘先輩は僕の目の前で悠然と笑う。
「私の勝ちのようですね。ではお休みなさい」
そう言って僕の首筋目掛けて手刀を振り下ろす。
そう、これを待ってたんだっ!
僕は橘先輩の手刀を左腕で受け止め、橘先輩の顎に軽い拳を撃ち込んだ。完全に油断仕切っていた橘先輩は、なすすべもなくそれを受け、地に崩れ落ちた。
「体が、言うことを聞かない……!?」
橘先輩は必死に体を起こそうとするが、全く起き上がることが出来ない。
僕は痛む体に鞭を打ってようやく起き上がり、橘先輩を見下ろした。
「今回は僕の勝ちですね。しばらくすれば動けるようになりますので安心して下さい」
僕はそう言ってきびすを返して、高崎先輩と沙雪さんの元へと向かう。後ろからぎり、と歯が擦れる音がしたが、聞こえなかったことにした。
僕は自分の目が信じられなかった。いや、信じたくなかった。だって、目の前の惨状があまりにも理解不能だったから……。
とりあえず、僕の目に映っていることを簡潔に描写しよう。いや、簡略化して描写することにする。
緒方先輩と高崎先輩が折り重なるようにして倒れていて、その上に完璧に無表情な沙雪さんが座っている。以上。
え? 分かりにくい? まぁ、推測すれば、何らかの原因によってぶち切れた沙雪さんが二人を完全に伸してしまったっていうこと。
こうなってしまった沙雪さんは、非常に扱い難い上に凶暴で非情だ。命を大切にしたい僕としては、触らぬ神に祟りなし、と行きたいところなのだけど……。
僕はとりあえず全てを諦めて、沙雪さんに声を掛けることを決意した。
「あの……、沙雪さん?」
「……朋」
沙雪さんは無表情なまま、僕の方へと視線を向ける。
マズいッ! あれは獲物を狩る虎とかライオンとか豹とかの、ネコ科の肉食獣系統の目だッ! 狩られる前に逃げ……。
逃げようと振り返ると、そこには既に沙雪さんが居た。こんなしょうもないことに縮地(または瞬間移動ともいう)まで使うとは……。本気でおキレになっていらっしゃる……。
沙雪さんはゆっくりと口を開いた。
「朋……、何をそんなに怯えているの?」
「いいいいえ! おおお怯えてなんかいませんよ!?」
ガタガタ震える体と声は、どうしても騙すことなんてできやしませんでした。
「そそそれより沙雪さん! そろそろ正気に戻って!!」
沙雪さんは無表情のまま、それでも可愛らしく小首を傾げ、
「あたしはいつも正……き………」
そのまま地面に崩れ落ちる。僕は慌てて沙雪さんを抱き止めた。規則正しい吐息が僕の頬を優しく撫でた。
「なんだ……、疲れて眠っただけか……」
僕は安堵のため息をついた。とりあえず沙雪さんが無事だってことに。大半は僕が沙雪さんに殺される羽目にならなかったという安心で。
僕は沙雪さんを背負って、何か世紀末覇者とでも対峙したかのような顔をして気絶している高崎先輩を引きずって校長室へと向かったのだった。
〜その頃の運動部連合盟主〜
三朝葵は焦っていた。どうしようもなく焦っていた。自分が何処にいて、何処に向かっているのかさっぱり分からないから。つまりは迷子というやつだ。
「どうしよぉ〜。迷っちゃったぁ〜」
しかし、その言動からはどうも危機感を感じられない。いや、それは彼女の幼い見た目のせいだろう。
145cmに届かない小さな体、ぱっちりと大きな丸い目、ウェーブのかかった栗色の髪を頭の両脇で縛っているその姿は、良くても中学生、下手をすれば小学生に見間違えてしまう程に幼い。
つまりは可愛らしくしか見えないと、そういうことだ。
「あれぇ? 葵、何をすれば良かったんだっけ?」
三朝葵はあろうことか目的まで忘れてしまったらしい。彼女は難しい表情から一変、笑顔を浮かべる。
「分かんないから部活に行こ〜」
そのまま体育館へと、足取り軽く向かって行ったのだった。
僕は校長室の前で、ごくりと唾を飲み込んで決意を固める。校長の正体を知る決意を。
別にかしこまる必要なんてこれっぽっちも無い気はしないでも無いのだけれど、何か緊張する。が、行動しないことには何も始まらない。僕は思い切って校長室の扉を開け放った。
「失礼しま……す?」
そこには誰も居なかった。というか何も無かった。
何か高級そうなソファーとか、何か高級そうな机とか、やたらと高級そうな椅子とか、鷹の剥製とか、馬鹿でかい金庫とか、歴代校長の写真なんかも全く無かった。天井も壁も床も白い、窓さえない白の部屋。それだけ。
僕が呆然と立ち尽くしていると、
『君が今回の生徒会会長かね?』
校長の声が部屋自体から響いた。僕は目を見開き、しかし平静を装って質問に答える。
「僕ではありません。生徒会会長はこれです」
僕はそう言って引きずっていた高崎先輩を白い部屋の真ん中に捨てた。
『ほう……、今回はそやつか。……滝川朋くん。そなたなら面白くなっただろうにのう……』
「……っ!? どうして僕の名を……?」
『俺はこの学校の校長で理事長じゃ。生徒全員の顔と名前は覚えておる……とは言えんな。そなたは特別じゃ』
「特別……?」
妙に低いような高いような声はボイスチェンジャーを通しているようで、ほとんど校長の意図を読むことが出来ない。
僕は沙雪さんを背負い直し、警戒を強める。いつでも逃げられるように。
『そんなに警戒せんでもいいじゃろう。別に取って食いやせん』
「……顔も見せない相手を信用出来ると思いますか……?」
『これは手厳しいのう……』
校長の声は幾らか焦ったような調子。僕はきびすを返す。
「では、用事は済んだようなので」
『あぁ、一つ質問があるのじゃが』
「……」
僕は校長の質問を聞くために足を止めた。
『俺がそなたの前に顔を出したとしたら、信用してくれるかのう?』
校長の少し緊張したような問い。僕は少し考えて、
「そうですね、貴方の人柄次第でしょう」
僕は校長の答えを待たず部屋を後にし、保健室へと向かう。
今日は何て疲れる一日だったんだろう……。
そう心の中で愚痴をこぼしながら……。
今回で学校編は終了です。沢山の捨てキャラを生み出し、イマイチ納得の行かない終わりだったかと思いますが、仕様です。納得行かないのがこの作品のテーマです(嘘)
それはそうと、最近っても一週間ほど前の話なんですが、この話を読んだ友人に『ありきたり』という評価を頂きました。結構ショックだったかもしれません。この話を打ち切って新連載始めようかな?って考えるくらいに。皆さんはどうお考えでしょうか?微妙に気になってます。感想とかで書き込んでいただけると嬉しいです。




