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第十三話 女は下らないことで恐ろしい口喧嘩をするものらしい……

〜前回までのあらすじ〜

 ついに勃発した生徒会長争奪戦。戦いは激戦を極め、高崎瞭、水瀬沙雪、滝川朋の三人は次々と一般雑魚生徒の屍を積み上げて行く。

 しかし一騎当千の強者達も、数に頼んだ一般生徒達の波状攻撃に、もはや疲労困憊だった。

 それでも三人は敵を蹴散らしていくが、ついに瞭が一般生徒に紛れ込んだ運動部連合の刺客のでこぴんによって崩れ落ちる。

「滝川君、水瀬君……。後は全て君たちに任せ、た……」

続いて朋も敵の放った痺れ矢によって、地に這った。

「沙雪さん……。この学校の全ては貴女に……」

 仲間を失った沙雪は潜在能力を解放し、一般生徒の群へと飛び込んで行く。


「その背後にいるであろう、正義を倒す為に……」


「……沙雪さん。三百文字も使って嘘ついて、楽しい?」

僕は深くため息をつき、肩を落とした。沙雪さんは両手を腰に当てて威張るように胸を反らせた。

「当然! そうしていつかあたしが主人公の話が……」

「あ〜、はいはい」

僕はとりあえずは同意しておく。こうなった輩には基本的に逆らわない方が良いというのが全世界共通の定理だ。

「あの……、そろそろ自己紹介していいでしょうか?」

おずおずと切り出したのは、前回の最後の最後に僕達の前に現れた三人組のリーダーらしき人物。すらりと背の高い黒髪黒瞳で吊り目の一つ上の女生徒だった。

 それには高崎先輩が鷹揚に返した。

「あぁ。構わない」

「ありがとうございます。……では改めまして、私は女子空手部主将の橘葉たちばなようです」

橘先輩は柔らかく微笑んで優雅に頭を垂れた。見た目の雰囲気とは裏腹に、橘先輩はとても丁寧な人らしい。

 橘先輩は一歩下がり、代わりに残りの二人が一歩踏み出す。

 片方は褐色に焼けた肌が眩しいスポーツ刈りのゴツゴツした大男。もう片方は病的に白い肌と銀色の髪が印象的な線の細い眼鏡をかけた男だ。

 まずは大男が口を開く。

「俺はサッカー部主将の稲葉徹いなばてつだ。宜しくな」

続いて線の細い男が細い声を上げる。

「自分はバスケ部主将の碓井幸うすいこう。以後、お見知りおきを」

稲葉先輩は会釈のように小さく、碓井先輩はゆっくりと丁寧に頭を下げた。二人の性格は見た目の印象通りだった。

「僕は……」

「貴方のことは知っていますよ」

僕が口を開こうとすると、橘先輩に片手で制された。

 ん? 僕と橘先輩は絶対に初対面の筈なのですが?

 橘先輩は得意気な表情で語り出した。

「私は『朋くんを弟にし隊』の隊員No.3です。貴方のことであれば、少なくとも貴方のクラスメートたちよりは知っているつもりです」

こ、怖ーーッ!! お巡りさ〜ん、ストーカーさんがここにいますっ! 捕まえて僕から半径二十キロより遠くへ離してください!!

 僕がストーカーの恐怖にがたがた震えている時、沙雪さんは険しい表情で橘先輩を睨む。

「橘先輩、……いえ、No.3。貴女は重大な禁を犯した……」

沙雪さんの表情は今までに無いほどに険しい。

 いいぞ沙雪さん! ガツンと言ってやってくれ!!

 沙雪は小さく息を吸って、叫ぶように橘先輩に言葉をぶつける。

「No.3! 朋の情報の代わりに朋と直接の関わり合いを持たない、という規約を忘れたというの!?」

えぇ!? そこ!? そこなの!? というか僕を売ったのは沙雪さんか! なんということだ……。僕に味方はいないと言うのか……。

 僕の心情とか人権とかはお構いなしに、橘先輩は沙雪さんに食い下がる。

「今回のは事故でしょう!?」

「事故さえ未然に防ぐのが『朋くんを弟にし隊』の隊員の役目よ!!」

「それはあんまりです! 第一、No.0。貴女はどうしていつも朋くんの隣にいるのですか? 私達には近寄るなと言っておきながら、貴女は朋くんの周りにいるなんて不公平ではないですか!」

「あたしには朋の情報を集めて貴女達に報告するっていう役目があるの!」

「それは元を辿れば貴女が朋くんを独り占めしているからでしょう!? 私達にも少しは分けて下さい!!」

沙雪さんと橘先輩は甲高い金切り声でギャーギャー言い争っている。正直、当事者である僕を萱の外に置いておくのはどうかと思うのだけれど、女性の口喧嘩に割って入れるほど僕は無謀じゃない。

 と、無謀にも二人の間に割って入る輩が一人。バスケ部主将の碓井先輩だ。あ〜あ、ご愁傷様です。

「二人共、今はそういう話をしている場合では……」

「「黙ってなさい!!」」

沙雪さんと橘先輩のフックが碓井先輩の両頬を襲い、完全に虚をつかれた碓井先輩はその場に力無く崩れ落ちた。

 僕と高崎先輩、稲葉先輩は犬に睨まれた子猫のように震え上がっていた。

「高崎先輩……、女性の口喧嘩は恐ろしいですね……」

「全くだ……」

「俺はあの二人が特別な気がするがな……」

三者三様に僕達は大きなため息をついた。

 でも、いつまでも二人の口喧嘩を静観している訳にもいかない。僕達は先を急いでいるんだ。早く橘先輩と稲葉先輩を下して、校長室に向かわなければいけないのだ。

 僕は意を決して二人の間に割り込み、まずは沙雪さんの耳元に口を寄せて囁いた。

「沙雪さん、ここは僕が決着をつけるから退いてくれ。……命令だよ」

僕は魔王の権限を発動し、沙雪さんは苦い顔をしながらも静かに引き下がった。

 沙雪さんが退いたのを確認してから、橘先輩に向き直る。

「橘先輩、今日は僕がお相手させて頂きます。ここは簡潔に拳で決着をつけましょう。貴女が負けたら僕達は先へ進む。貴女が勝てば貴女達に生徒会は譲ります。いかがでしょう?」

橘先輩は軽く目を見開く。

 ……いくら見た目が弱そうだからって、驚かれたら傷つくんだよ、僕。

「……私は可愛い男の子をいたぶる趣味は無いのですが……」

「まぁ、そう言わずに、ね」

僕は微笑みを浮かべながらも、意識と体を戦闘態勢にシフトする。途端に体中に漲る熱い闘争心。滲み出る平凡ならぬ闘気。空気の色が突然変わったかのような殺伐とした雰囲気。

 橘先輩は僕の変質を感じたのか、ぴたりと体を硬直させた。

「……弱い者いじめ、というわけにはいかないようですね」

橘先輩は拳を中段に構えて鋭く息をはいた。瞬間、その場からおちゃらけた雰囲気が一瞬で吹き飛ぶ。

「では、参ります!」

僕と橘先輩は同時に地を蹴り、闘いの火蓋は切って落とされた。




 朋は闘いを始めちゃった。本当は暴れたかったけど、魔王様の命令権を発動されちゃね。あたしは手を出せなくなったというわけで。

 ちなみにあたしは沙雪。今は高崎先輩と並んで、黒いごつごつした奴とにらみ合っていた。確か、サッカー部主将の稲葉先輩だっけ?

 不意に高崎先輩が稲葉先輩に語りかけた。

「拳で決着という野蛮な決闘はやめにしないか?」

高崎先輩は相変わらずへたれだ。拳で語れない男は男なんかじゃないね。

 稲葉先輩は拳を握りしめて、軽く戦闘の構えをとった。

「面倒なことはやだね。簡単に拳で決着つけようや」

「話し合いで解決出来ないのか?」

「イヤだ」

尚も食い下がる高崎先輩をたったの一言で振り払い、あたし達の方へと駆け出して来た。

 高崎先輩はやれやれとして、深くため息をつく。

「仕方がない、やるしかないのか……」

高崎先輩は稲葉先輩を迎え撃つべく、腰を落として懐に手を入れた。



〜次回に続く!〜




あれ? あたしの出番は!?

まだまだ生徒会長争奪戦は続きます!!………予想外に長くなってしまった………

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