第十二話 魔王様は普通を超えられない!?
サブタイトルは苦し紛れの意味の無い戯れ言かも知れません。本当のサブタイトルは「生徒会長争奪戦、前半戦」です。
僕、沙雪さん、高崎先輩は廊下を風のように走る。平時なら、今頃風紀委員に死ぬほど追いかけ回されているところだけれど、今日は生徒会長争奪戦。完全に無礼講だ。
僕らの前に人が立ちふさがることはなく、僕達を見た生徒達は引き潮のようにさっと引いていく。
「ふむ。分かってはいたが、なかなかに爽快なものだな」
高崎先輩は息の乱れもなく、軽やかに走る。そのフォームは全くの無駄のない完璧なものだ。
「お姫様にでもなった気分だね〜」
沙雪さんはいつもの雰囲気で、しかし飛ぶように駆けている。そのフォームは無駄だらけでありながら、豹のようにしなやかで美しかった。
「二人っ、とも、はっはっ、待って、くれ……!」
僕はというと全力をゆうに超える疾走で、既に脚はふらふら、息は絶え絶え、意識は既に白みかけていた。どうしてそんなに限界を超えて走っているのか? 全ては沙雪さんが僕の右手を掴んで引っ張りながら走っているからだ。
高崎先輩は仕方なさそうに立ち止まる。
「水瀬君、止まってくれ。滝川君が、今使いものにならなくなるのは困る」
「はーい」
沙雪さんはやる気無さそうに返事を返してぴたりと立ち止まる。止まると同時に僕は地面にへばりついた。
「はぁっ、はぁっ………」
し、死ぬところだった。死なないにしても脚が千切れてしまうとこだった。生きてるって素晴らしい!!
高崎先輩は僕を見下ろしてこれ見よがしにため息をついた。
「滝川君。君は運動神経が皆無だね」
「あっ、先輩もそう思います? 朋、技は良いんですが、体力が圧倒的に劣ってますからねー」
沙雪さんは僕を見下ろし、高崎先輩に便乗して言いたい放題。
沙雪さん、キャラおかしくない? 君は僕を擁護してくれるんじゃ無かったのか? つーか、僕の身体能力は標準くらいだと思うんだけど。百メートル、七秒八四なんだけど。鬼と一緒くたにして欲しくないし、鬼と対張ってる高崎先輩は何者だよ?
僕は言いたいことが色々と爆発しそうだったが、まずは息を落ち着かせることにする。
吸って、はいて、吸って、はいて、吸って、はいて、はいて、吸わずにはいて。
あれ? 何か、息が苦しく……。
「はいてはいてはいて〜」
「って沙雪さん! 君、僕の耳元で何洗脳しようとしてるの!?」
僕ははきすぎた分の息を大きく吸い込んだ。沙雪さんは可愛くちろりと舌を出した。
「だって、朋も一回はやったでしょ?」
「確かにやったけど! 本当に大変なことになるから今は止めて!」
僕は実際にこの方法で、小学校の時に同級生をチアノーゼで病院送りにしたことがある。
沙雪さんは実につまらなそうに唇を尖らせ、
「は〜い」
しかし簡単に引き下がってくれた。
「ふむ。夫婦漫才はそろそろ止めて欲しいのだが」
高崎先輩は、咳払いをして、そんなことを、のたまった。
「えっ、本当ですかぁ? あたし、高崎先輩のこと塵虫以下だと思ってたんですけど、見直しちゃったなぁ。ノミくらいにしてあげます」
沙雪さんは顔を赤くして体をくねらせている。
「の、ノミか……」
高崎先輩はショックを隠しきれず、地に膝をついた。これは僕もトドメを刺しに行かねばなるまい。
「僕と沙雪さんが夫婦だなんて、思い違いもいいところですね。そんなだから高崎先輩はいつまで経ってもミミズ以上ミミズ以下なんですよ」
「ほう、ミミズか。ありがとう、滝川君。励ましてくれて」
高崎先輩は若干元気が出たように僕に笑いかけ、震える膝を押さえて立ち上がった。
あれ? なんか立ち直ってる!? ミミズは励まし言葉じゃないだろ!!
「では、先を急ごう!」
高崎先輩は完全に立ち直ったらしく、そう言って走り出した。
僕と沙雪さんは互いに顔を見合わせる。
「沙雪さん、あの人って………何?」
「あたしが訊きたいよ………」
僕達は同時に深いため息をつき、先行する高崎先輩を追って走り出した。
僕達は順調に校長室に向かって走る、走る、走る。今度は僕が先頭だから、少し遅いが、立ち止まって致命的なロスを作るよりはずっとマシだ。
人波の引いた廊下を疾走し、誰もいない階段を駆け上がる。ここを上がりきれば、校長室は目の前だ。
「止まれ、貴様等!」
階段の上に仁王立ちしている男が僕達を制止しようとして叫び声を上げる。僕は減速し始め、沙雪さんと高崎先輩はどうしてか加速しだした。
急に慌て出す仁王立ちの人物。
「あっ、ちょっ。と、止まれ!!」
二人はまだまだ加速!
「ちょっ、待っ……」
「「ツイン・ラリアット!!」」
沙雪さんと高崎先輩は疾走の勢いのままに、仁王立ち男の首の少し下にラリアットの要領で腕を叩き込み、振り抜く。
「がっ……!!」
仁王立ち男は受け身を取れず、空中で一回転して、地面に沈んだ。
「二人共、何やってるの!?」
ようやく階段を登りきった僕は、地面に伏せっている仁王立ち男に目を向ける。彼は口から泡を吹いてビクビクと痙攣していた。
二人はゆっくりと僕の方へと振り向いた。
「敵は倒すのみだよ」
「水瀬君の言うとおりだ。滝川君、鈍ったのではないかい?」
沙雪さんと高崎先輩はさも当然というように言った。
この二人は僕がおかしいとでも言うのだろうか? いや、違う。常識を考えろ! 泡吹くほどダメージを与えちゃ駄目だろ!!
「……でも、やってしまったものは仕方ない、か。彼には悪いけど、無視して先に……」
『そうはさせないわよ!』
そう叫んで僕達、高崎先輩パーティの前に現れたのは……。
生徒会長争奪戦編はまだまだ続きます。次回から暴力と謀略飛び交う戦闘編に突入!!




