第九話 魔王様の給料日
こんにちは。作者の猫小判です。おかげ様で次回が第十話目となります。最初の頃はどうなるか不安で仕方がありませんでしたが、何とかここまで来ることができました。全ては読者の皆様のおかげです。これからも温かい目で見守ってやってください。
今日は僕達、幽霊屋敷に住んでいる人達の給料日なんだよ。約一名が旅から帰還していないけれど、彼ならお金が無くても生きていけるだろうと思う。
え? どこから給料が出ているかだって? それは知らないんだ。アルは知っているみたいだけど、僕には教えてくれないんだ。
給料は郵送で現金が送られてくる。少し夢が無い気もするけれど、まぁ仕方がないよね。お金が貰えればそれでいいしね。あ、いや、別にお金の為に魔王をやってるわけじゃないんだよ? でも人間、お金がなければ生きていけないからさ。
とにかく、今日は沙雪さんがすごく浮き足立っていた。朝からいきなり僕に飛びついてきたり、授業中ずっとそわそわしていたり、アルに何度も電話してみたり、とにかく落ち着きが無かった。……まぁ、いつも落ち着き無い気もするけど。
かく言う僕もワクワクしている。僕の魔王業を評価してくれる唯一のものだし。
そんなわけで、僕と沙雪さんは心持ち早歩きで帰路を進んでいた。
沙雪さんは弾むような声を上げた。
「ねぇ朋。明日遊びに行こうよ!」
「え? どうして?」
僕は心底不思議そうに首を傾げる。沙雪さんは一瞬眉間に皺を寄せるが、すぐに元のように笑顔に戻った。かなり機嫌がいいらしい。
「まぁまぁ、いいでしょ? あたしは遊びたいの!」
僕は今後の予定を思い出す。……何もなかった。しょうがないけど、付き合ってあげようかな?
「いいよ。あんまり遠くには行けないけどね」
僕がそう答えると、沙雪さんは輝くような笑顔になる。
「ほ、ホント!? ホントにいいの!?」「う、うん」
沙雪さんは予想以上に喜んでいる。僕は沙雪さんの勢いに少し押され気味だ。
沙雪さんは、えへへ〜、とふにゃりとした笑顔を浮かべて僕の隣でスキップし始めた。
「じゃあ、どこ行こっか? 遊園地とかに行きたいなぁ〜」
「明日も学校あるから無理だよ……」
僕達は楽しく明日の話をしながら幽霊屋敷へと足を速めた。
「たっだいまー!」
屋敷に着くなり沙雪さんは豪快に扉を開いた。いやいや、そんな力入れたら壊れちゃうし、アルが……、
「沙雪! 貴女は加減というものを知らないのですか!? 屋敷を壊したら弁償してもらいますからね!!」
ホラ、ブチキレてますよ? 人間モードのアルが。
沙雪さんはからからと笑っている。
「アルは細かいのよ〜。今日は給料日なんだから無礼講だよ、無礼講」
「貴女はいつでも無礼講でしょうが!」
うん。僕もアルに激しく同意したいね。
「いーからいーから。早くお給料ちょうだいよ〜」
「はいはい。全く……」
アルはぶつぶつ言いながらリビングの方へと引っ込む。僕と沙雪さんもアルの後を追ってリビングへと向かった。
「さてと、沙雪はこの封筒。朋様はこれです」
アルは同じ大きさの茶封筒を僕と沙雪さんに渡した。……ん? 何かいつもと違う気が……。
沙雪さんはすぐさま封筒を破って中身を取り出し、金額を確認する。
「やたっ! 五万五千円!」
沙雪さんは軽く飛び跳ねて、全身で喜びを表現している。
僕もどこからともなく取り出したペーパーナイフで封筒の口を開けて中を覗く。
「あれ?」
いやいや、そんな馬鹿な。あり得るわけがないよ?
僕はもう一度封筒を覗いた。
「いやいやいや」
そんなはずはない。ちょっと疲れてて紙幣が見えないだけだ。そう信じたい。
僕は三度封筒を覗く。
「そ、そんな馬鹿な……!」
僕は封筒を逆さまにして上下に振った。
チャリーン
硬貨が落ちる甲高い小気味の良い音が場に沈黙を呼び込む。落ちた硬貨は五百円玉一枚だった。
僕は石になっていた。沙雪さんは沈痛な面持ちで五百円玉を凝視していた。アルは無表情に僕を見つめていた。
「そっ、そんな馬鹿なーーー!!」
一ヶ月の給料がたったの五百円だと!? 魔王としてあれだけ動き回ったこの一ヶ月は何だったんだっ! こうなったら今すぐ全ての魔に属する者達を集めて世界征服をしてやるっ!!
「朋様。お気持ちは分かりますが、メッセージが届いておりますので、それを聞いてから行動を考えてください」
アルはそう言って僕に便箋を差し出した。僕は引ったくるように便箋を奪いざっと目を通す。
『前略、ツッコミの得意な朋君。まずは君の給料について明示しよう。最終的に君の手元に行く給料は、部は幽霊屋敷の家賃や食費と光熱費を差し引いた金額だ。今月の君のツッコミ、もとい働きは家賃やその他の金額に遠く及ばない。本来なら君に家賃等を請求しなければならないのだが、それはあまりに可哀想だから、五百円入れておいた。今後はもっとツッコミを磨くように』
あの、僕の給料はツッコミに出てたんですか? 何か目の奥が熱いんですけど。頬に熱いのが一筋流れてるんですけど。もしかして、これは……涙?
僕は静かに、静かに泣いた。何か色々、全部が涙を誘った。沙雪さんが僕を優しく抱き締めてくれた。
「朋、元気出して……」
「沙雪さぁん。僕は、僕はもう駄目だよ……」
「大丈夫。あたしやアルがついてるから……」
「沙雪さん……、ごめん。僕、明日遊びに行けないよ……」
「えっ!?」
沙雪さんは僕から離れて僕の目を見つめる。恐らく本当に遊びに行けないのか問うているのだろう。僕は首を横に振ることしかできなかった。
「そ、そんな……。あたし、楽しみにしてたのに……」
沙雪さんは泣き崩れてしまった。
僕と沙雪さんは静かに泣き続け、アルは一人途方に暮れていた。
「私は、どうすれば良いのでしょうか……」
〜その頃のレイ〜
レイの元にも給料の茶封筒が着いていた。彼も例に漏れず給料日を楽しみにしている。
レイは素早く封筒を爪で切り裂き、中身の紙を手に取った。それは福沢諭吉でも樋口一葉でも野口英世でも新渡戸稲造でも夏目漱石でもなかった。
それは、小さな達筆な文字が踊っている便箋だった。
『君の働きは一円の価値さえない。むしろ罰金ものだ。来月の給料は五割の減額とする』
「そんな殺生な……」
アルは六畳一間のアパートの部屋の隅でうずくまってさめざめと泣き続けた……。
次回は第十話!といっても何か特別なことをするわけでは無いです。何となく次回予告をいたします。次回は学校の話。生徒会会長を決定するために、全校生徒がぶつかり合います!朋は誰を勝利に導きどんな地位を手に入れるのか!?……猫小判テスト期間につき、遅れる可能性があります。




