繰り返されたゲーム Ⅳ
いつものコンビニの前。
あたしは冴子に「お待たせ」と声をかけた。
「どうしたの、あんた?」
冴子はぎょっとしたようにあたしの顔を見た。
自分でもわかってる、かなりひどい顔をしてるってことは。
エティエンヌと別れて帰ってから、一時間半は泣いてたもん。
「大丈夫だよ、冴子。あたしは大丈夫!」
あたしは二の腕に力こぶを作って見せると、親友の肩を抱いてバス停に向かった。
今日は何が何でも学校へ行かなくちゃいけない、あたしに出来ることなんてあんまないけど、それでも、やるべきことから逃げてはいられないんだ。
「あんた、変ったわね」
あたしが「そうかな?」と返すと、ちょうど向こうからいつものバスがやってきた。
けれど、バスは回送かと見間違うくらいガラガラ。
「すっごく空いてない?」
「うん、やっぱりあの事件の影響かな」
五人位しか乗ってないバスは怖いくらい静かで、あたしと冴子は後ろの席に並んで座ると、声をひそめて話し始めた。
「騎士様と何があったの?」
うっ、冴子さんってば、いきなり訊きますか?しかも、なんでエティエンヌ限定なんすか?
でも、あたしはその問いに平然と答えた。
「それがさ、あたしってば、ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりなんだってさ。
笑っちゃうよね。なんの冗談かっちゅうの!」
「でも、あんたは泣いたんだよね?
それに冗談だとも思わなかった、そうでしょ?」
「そうだよ!
あのエティエンヌが、ジャンヌLOVEのエティエンヌが嘘つくわけないじゃん」
あたしはムキになって言い返した。
「それで、あんたは気付いたわけだ」
「うん、そうだよ、気付いたよ。あたしはあの怒りんぼ魔人を好きだって。
ううん、もうエティエンヌのいない毎日に戻れないって思うくらい大好きだよ。
でもね、あたしにだってプライドがある。あたしの後ろに他の女を見てる男と一緒にやっていけないんだよ!」
また鼻の奥がツーンと痛くなる。
「うーん、あんたの言うことはわかるけど、騎士さまも不憫よね。
あんたは彼が六百年も待ってたジャンヌの生まれ変わりなわけでしょ?」
冴子は妙にエティエンヌに同情的だった。
「そりゃそうだけど、あたしとジャンヌはまったく別の人間だよ。
あたしは日本人だし、神のお使いでもないしね」
あたしがそう言いきると、冴子は呆れたようにため息をついた。
「あんたたち、前世でもそうやってケンカばっかりしてたんじゃないの?」
ああ、それだけは、賛成です、冴子さん。
あの女心のこれっぽっちもわからないエティエンヌとうまくいく女性なんて、今も昔もいるわけないもん。