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  作者: あさぴ
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後編

 舞台は現代日本。翔景の生まれ変わり、比呂は、同じく転生しているはずの千姫を探していた。

 ある時、比呂は偶然にも千姫の生まれ変わりと思われる少年、柊と出会う。しかし、柊には過去の記憶が無かった……

「見つけただとぉ!?」

「はい」



 素っ頓狂な声をあげるルームメイトに、比呂が真顔で答えた。

「…それで、どんな奴なんだ。美人なのか」

 ルームメイトはよもや突っ込みをすることを諦めているようだ。「一応、適当に」という感じで尋ねた。

「隣の中学校の生徒です」

「中学生!」

 いや待てお前それ若干犯罪の臭いがするぞ、と早口にまくし立てる。

「人の事をあまりとやかく言いたくはないが…っておい。比呂、お前どこに行くんだ。駅はこっちだろう」

 大学の門を出て、いつもと反対側に曲がろうとする比呂に、ルームメイトは今度こそ突っ込みを入れた。

「あぁ」 比呂は何でもない顔で言った。

「だから中学校に寄って行くんですよ。言いませんでしたか」

「…言ってない!!」

「そうでしたか。すいません。さ、貴方も一緒に来て下さいよ」

 と、比呂が、ルームメイトの中途半端に伸ばした髪を引っ張る。「こらやめろ!抜ける!」とルームメイトが抗議の声をあげる。

「だいたい、今日び部外者がそう簡単に入れると思っているのか。不審者と思われて追い返されるのがオチだぞ!」

「大丈夫」

「何が大丈夫なんだ!?」



 中学校は下校時刻を迎えていて、寂れた灰色の校舎から、次々と生徒達が出てくるところだった。案の定、中学生達の不審そうな視線が二人を射る。このくらいの世代が何となく苦手なルームメイトが所在なげにしていると、比呂は早速目的の人物を見つけたらしい。ルームメイトを置いてその人物へと歩み寄る。



 それは男子の三人グループで、どこにでもいる元気な男子中学生という感じだ。そのうちの一人が、こちらに近付いてくる大学生の姿に気付いて歩を止めた。長い黒髪に幼さを残した容姿。

「あ、あなたはさっきの…」

 少年の方が先に口を開いた。比呂が黙って見つめ返すので、自然と見つめあう形になる。しばらくして気まずくなった少年が、

「さ、さっきはどうも…。それじゃ」

 と身を翻した。比呂がその腕を掴む。

「待って下さい、千姫」

「…え?」 少年が目をまるくした。「覚えていませんか。僕です、翔景です」

「……」



 ばっ、と少年は比呂の手を振りほどく。

「あの…何だかわかりませんが、人違いじゃないですか」

 言って少年は足早に比呂から離れ友人と合流する。

「誰?今の」「知らない奴。行こ」「おう〜」

 その姿はあっという間に小さくなっていき、曲がり角の向こうに消えた。



「…あれが、運命の姫の生まれ変わりか」

 ルームメイトが、呆然とする比呂に近付いてきてぽつりと言った。

「ええ…。記憶が、無いようでしたが」

「というか今の男じゃないか!?」

「そのようですね」

「そのようですねってお前…」 ルームメイトが呆れ返ってため息をついた。

「…とにかく、今日は帰らないか。明日も試験だろう」

「いえ、先に帰っていて下さい。僕はあとから帰りますから」

「まさか、追い掛ける気か!?やめとけ!お前、それはいくらなんでもまずいぞ」

「でも行かなくては。約束しましたから」

 それだけ言うと比呂は、先程少年達が消えた曲がり角へと物凄いスピードで消えていった。



「…また、あなたですか」

 友人達と別れ、一人路地裏を歩いていた少年に、再び比呂は声をかけていた。少年はいよいよ訝しげな顔になる。

「一体、何の用ですか…?」

「…いえ、ただ、貴方が死んだ恋人に似ていたもので」 嘘ではない。少年は一瞬その大きな瞳を曇らせたが、すぐに警戒をあらわにした顔になり、

「でも、俺はその恋人とは別人です。だいたい、お、女じゃないし。用がそれだけなら、もう俺につきまとうのは止めてください」

 比呂は千年来の恋人と向き合っている懐かしさと、気持ちが通じない焦り、それらのとりとめのない感情を抱いていた。でももう、紡ぐ言葉のひとつも思い付かない自分がいる。そのもどかしさ。

「こう見えても俺、忙しいんです。あなただってそうでしょう。見たところ、大学生みたいだし」

 少年が気丈に、生意気そうに言った。そこに、比呂はこの年頃特有の焦燥感を感じた。十四歳なのに大人と呼ばれ、無理してそれらしく振る舞っていた、あの少女と似た何か。



「…何をそんなに恐れているんです」


「は?」


「貴方は、目に見えない何かと戦っている。一人きりで。大人のふりをして、世の中を渡り歩いて行かなくてはと思っている。違いますか」


「…あんたに…」


 悔しげに、そして憎々しげに少年が言った。


「あんたに、何がわかるっていうんだ!!」


 吐くように言い放ち、少年は比呂に背を向け、走り去って行った。



「あ…」


 怒らせてしまったようだ。比呂は反省して頭を掻いた。さすがに唐突過ぎたか。あれでは警戒されるのも当然かもしれない。

 ふと、アスファルトの上にダークブルーの携帯電話が、ぽつんと残されているのが目に入る。



「あれ…これは」

 比呂はしゃがんでそれを拾い上げた。これは、恐らく少年の落とし物だろう。よりによって携帯電話を落とすとは、少々間抜けだ。

 軽い罪悪感を抱きつつ、比呂は携帯電話を開く。オーナー登録の画面を確認する。


 白水 柊


 それが少年の名前らしい。少し変わった名前だ。

 律儀に入力されていた住所によると、彼の家はここからそう遠くない。寮の帰り道にある、高層マンションだ。



 比呂は逡巡の後、やはり携帯電話を届けに高層マンションに向かう事にした。

 …きっと嫌われるだろうが。 ピーンポーン


 比呂は、高層マンションのインターフォンを押した。しばらく待つが、何の反応も無い。留守だろうか。念の為もう一回押してみる。反応無し。扉の前に人の気配がないのを確認し、比呂は仕方なく踵を返した。



「…あ!」

 振り返った先に、先程の中学生、白水柊。比呂の姿を視界に捕らえ、柊が驚きの声をあげた。その顔はすぐに「またか」と言いたげな、嫌悪感のあきらかな表情に変わる。

「どうして、家…」

 警戒する柊に、比呂は秋物のコートのポケットから、ダークブルーの携帯電話を取り出し、渡す。

「携帯、落としたでしょう」

「え!ほ、ほんとだ…。あ、すみません、わざわざ」

 携帯電話を受け取るその腕には、スーパーの袋がかけられている。スケルトンの袋の中には大根。それにみょうがに醤油のボトル。スーパーに寄ってたから遅かったのか…と比呂は思った。

 そして、

「それでは僕は帰ります」

 あっさり帰っていく青年の後ろ姿を、黙って、ちょっと意外そうに柊は見ていた。

「へんなやつ…」

 ぼそりと呟いたその言葉が、秋風に乗って比呂の耳に届く。



 運命が味方している限り、きっと、また、会える。比呂はそう信じている。

 街頭に薄く照らされているアスファルトを歩いている間、ずっと彼…柊の事を考えていた。

 全然、変わっていない。彼の魂は千姫のままだ。今の比呂には、その事実だけで充分だった。



 その日の夜。

 比呂はわざわざ豆を挽いて、コーヒーを飲んでいた。勿論ストレート。コーヒー通の比呂にしてみれば、コーヒーに砂糖やらミルクやら入れて飲む人の気がしれない。

 ついでにルームメイトのぶんも煎れてやったので、彼も比呂の隣に腰掛けコーヒーを飲んでいる。彼は甘いのが極端に苦手な為、同じくブラックだ。



 どちらが見ているでもないのだが、テレビはバラエティー番組を流している。時折、誰かが面白い事を言っては、他の出演者の笑いを誘っていた。



「おい…」

 ルームメイトが、大半を飲み干したコーヒーを一旦テーブルに置いて、言った。比呂はコーヒーカップに口をつけたまま、

「…何ですか。テスト勉強の質問なら休憩の後にして下さいよ」

「いや、そうじゃないんだ。…実は、俺の恋人についての相談なんだが」

「はぁ」

 比呂は頷いた。



 ルームメイトのこういった相談は、わりとしょっちゅうの事である。

 彼の恋人は比呂達より三つ年下の高校二年生。相談の内容は、その恋人があまりにもニブイので恋愛が進展しない、というのがだいたい。今日の相談も、やっぱりそういう話らしい。



 ルームメイトはコーヒーカップを両手で包むようにして、「やはり、男としてはだな…」と、とつとつと語り出した。

「愛し合っているのなら、それを何らかの形で表す事が必要だと思うんだ」

「つまり、欲求不満なんですか」

「よ…!?何でそうなるんだ!」

「違うんですか」

「違う!…そうじゃなくてせめて抱きしめあうとか、そういう愛情表現が、だな」

「…そういう肉体的コミュニケーションがないと不安になると?」

「むぐ!?」と、ルームメイトが変なむせ方をした。

「お前、いちいちおかしな表現をするな!」

「…じゃあ、聞きますけど」

 比呂が居住まいを正して言う。

「貴方にとって、愛とは何ですか。…五十字以内で答えなさい」

「はぁ!?五十字…?」

 ルームメイトは「む…。いや。しかし…」やら言いつつも、何故か真剣に考えはじめる。

「で、どうなんです」

「…そうだな。誰かのことが無性に愛しいと思ったり、一緒にいたいと思うこと…その愛しい相手に触れたい、と思うこと、かな…」

 真面目くさった顔をして言ったルームメイトに対し、比呂はきっぱりと、

「それはつまり、生殖本能に基づく妄想、他人に対する所有欲、ということですか」

「だからなんでそうなるんだ!」

「いえ。そう聞こえたので」

 ルームメイトがごほん、と咳ばらいをした。いっきに残りのコーヒーを飲み干す。そして、空になったコーヒーカップを洗い場に戻した。比呂の方に向き直って、

「なら、お前はどう思うんだ」

 と聞いた。

「…さぁ」

「あのなぁ!」

「自分で過程出来なかったから、聞いたんですよ。でも強いて言うなら……その人の存在そのものが自分を励まし、生かしていると思う、そんな特別だと思える人が現れた時その人を守りきろうとする心、ですかね。そう、この世のありとあらゆる悪から」

「悪…」

「ええ。つまり生きていく上で人が必ずぶちあたる敵、ですね。それは自分一人ではどうにもならない敵ですが、その敵から大切な人を一人、守るくらいの力が僕達にはあるんだと思うんです」

ルームメイトは、こいつは時々突拍子も無い事を言い出すなぁという顔で比呂を見ていた。



 そのうち、比呂も手の中のコーヒーを全部飲み干して、「さてそろそろ勉強に戻りましょうか」とソファーを立った。BGMがわりになっていたバラエティー番組もいつの間にか終わっていた。

「そうだな…」

  ルームメイトも頷いて、またソファーに座り直しB5の大学ノートを開いた。



 愛とは……


 所有欲。


 庇護欲。



 わからないが、翌日のテストに関係無い事は確かそうなので、ひとまず二人は忘れる事にした。



「へくしょ!」

 数日後、大学からの帰り道。10月も半ばで、少し前に比べ大分涼しくなってきた。完全に、秋の到来だ。この季節は、時間の流れが非常にはやく感じる。あっという間に色づく木々達を横目に、むず痒い鼻を押さえながら、比呂が、路地裏にある公園を歩いていた。都会の風景を一部切り取って、緑をはめ込んだような、木々の溢れる公園。都会に住んでいると、どうして人は緑が恋しくなるのだろう。それは人が地球上に生まれた一生物である事を証明するかのようだ。都会のビルの間にも、こうしてぽつりぼつりと公園が存在していた。



「ん?あれは…」

 何メートルか先の、街路樹の影。吸い寄せられるように、比呂はその影に近付いていく。



 心のどこかで予感していたとおり、その木の根本に、あの少年が学校帰りらしい詰め襟姿のままで、しゃがみ込んでいた。比呂は、遠慮がちに彼に近づく。声をかけるか、しばし躊躇う。こうして偶然会えたことは嬉しいが、不用意に声をかけて警戒されたくない。



 だが、その考えは瞬時に頭から吹き飛ぶ。少年は泣いているようだった。その瞳から一粒、また一粒と透明な雫が流れている。



「…こんにちは」

 比呂が遠慮がちに声をかける。

「…わあ!?」

 不意を突かれた、というように、比呂の出現に少年は大袈裟なくらい驚いた。そして慌てて、まくしたてるように、

「や、ちが、違うんです!!これはあの…そ、そう俺花粉症がひどくって!」

 と言って、ごしごし、と瞳を拭う。

 必死の様子の少年に、比呂は「僕には泣いていたように見えましたが」と寧ろ淡々と言った。少年はうなだれる。

「……あんたって、ほんとに嫌なやつだ」

 その言葉に、比呂は心外だ、と肩を竦める。

「この前も、帰り道つけてきたと思ったらなんか失礼なこと言ってくし。よっぽど暇なんですね、えっと…」

「比呂です」

「比呂、さん?…なんかフツウの名前。似合わねえ」

 虎之助とか又吉とかそういう古風な名前かと思った、と少年が言う。今時そんな名前の奴いないと、比呂は内心突っ込んだ。

「貴方は柊さん、でしたよね」

「ん?…あ、あぁ。携帯見たのか。びっくりしたなぁもう。あんたストーカーっぽいから、電話帳とかで調べたのかと思った」

「…で。柊さんは自分で夕飯を作ってるんですか」

 柊は意表を突かれて一瞬不思議そうな顔になる。こくん、と一度頷いた。

「そ、うちは母さんがいないから。姉が一人いるけど、姉さんは大学受験で忙しいし…だから家事全般が俺の担当」

「中学生だって忙しいじゃないですか。部活とか」

「部活はやってない。…それに、家事はもう慣れたよ」

 柊が、何気ない動作でくすんだ青灰色の空を見上げる。…にわか雨が降りそうだ。

「…でも、無理しているように見えましたよ。今だって、泣いていたし」

 と、比呂。柊は大きくかぶりを振った。

「無理なんてしてませんっ。あれはただ、東京に越してきたばかりで色々不安だっただけで…」

「やっぱり、泣いてたんじゃないですか」

「う…!」

 わかりやすい。柊は言葉を濁らせ、怨みがましい目で比呂を見ている。



「…柊さん、わくら葉って知ってますか」

 突如、比呂が言った。柊は目を丸くする。

「はぁ?何?」

「わくら葉とは、夏から秋の初めにかけて、街路樹などの赤や黄に色づいた葉が、枯れて落ちる現象。古い葉が、自ら落ちる事で残った葉や、来年の春に新しく出てくる葉を助けているんです。その姿は、古くから人々の心に深い感銘を呼んでいました。過去の有名な詩人もこう詠んでいます。『わくら葉の 辛抱強くは なかりけり』とね」

「……」

 柊は、俯いている。その表情は読み取れない。



 ぽつ、


 ぽつ…



 砂利道の上に黒い染みが点々と増えていく。比呂は「降ってきましたね」と持っていた傘を柊に差し出した。自分は、鞄からミニタオルを取り出し頭に乗せる。

「あ、どうも…」

「柊さん。貴方は…」

「ん?」

「貴方はこの舞い降りる葉のような人です。昔もそうだった。本当の自分を偽って、大人のふりをして精一杯、まわりを安心させようとしている。僕はせめて、そんな貴方の支えになりたいと思っていた。だから、辛い時は側にいて、力になりたい。貴方が自分自身を確かめられる唯一の場所に、なりたいんです…」

「……」

 柊は、黙って比呂の瞳を見つめた。



 はっとして、目を大きく見開く。傘を持つ手が、小刻みに震えている。寒さのせいではない。多分。柊がその口を開いた。

「……翔景、様…?」



「私は、貴方が貴方自身でいられる場所に、なりたい。世間の目から、あらゆる悲しみから、守りたいのだ」



 ずいぶん昔。幼い頃から自分を護っていた青年が言った。自分の中で、凍り付いていた魂みたいなものが、ふ、と救われた気がした。この気持ちを柊は知っている。柊の脳裏に、つぎはぎの映画のフィルムみたいな、断片的な映像がちかちかと浮かび上がる。

「…柊さん?」

 比呂が柊を心配そうに見守っている。柊の手からかつん、と傘が落ちて音を立てる。



「思い…だした……」

 柊は絶望的な顔になる。

「でも、駄目だ…俺はもう、千姫なんかじゃない。…ごめんなさい」

 走り出す。その背はどんどん小さくなっていく。傘だけが比呂の足元に残される。



「…柊さん!」

 比呂も、慌てて走り出す。追いかけなくては、と漠然と思った。

 しかし柊は足がはやく、インテリな比呂は見失わないようついていくのがやっとだ。比呂は必死で走る。二人の距離が少しずつ開いていく。追いつけない。そう比呂が思った時、柊が足を止めた。



「…比呂さんは、それでいいんですか。俺はもう千姫じゃない、全然違う人生を送ってきたただの中学生。それに俺は、お、男なんですよ!?再会をどれだけ願い、ありえないくらいの偶然でまた出会えたからって、これじゃあ無意味じゃないですか!!」

「それは違います」

「違いません!もしここで俺達が結ばれたとしても、いずれきっと、あなたは他の女性が恋しくなる。俺だって、きっとそうだ。だって、それが普通でしょう!?だから、もう俺達は会わない方がいいんです!」

「それでも、僕は貴方が好きです。あなただけをずっと、探していた…」

「……」

「僕を、信じてはくれませんか」

 柊は、黙っている。比呂はその腕を無理矢理引き寄せた。

「柊さん、聞いてください!」



柊の細身の身体を、比呂は自分の胸に引き寄せて、きゅっと抱きしめる。

 いつかのように。



「僕は貴方を、愛しています。その気持ちは例え貴方が、どんな姿をしていたって変わりません。…だからせめて、貴方の側にいさせてください」


「比呂さん…」



 柊は、しばらく比呂の腕の中でじっとしていた。そしてため息をつく。


「…比呂さんは全然変わらないな。馬鹿正直で、まっすぐで…すっげー物好き」


 柊が薄く微笑んで言った。その髪と衣服が、雨に少し濡れている。比呂は慈しむような、優しげな笑みを浮かべた。そしてその手を柊の頭にまわし、漆黒の美しい髪に、触れた。

「それはお互い様でしょう」



 千年ぶりの再会。以前と同じようにはいかないかもしれない。二人はもう、前とは違う人間だから。

 でも、以前と変わらない、繊細で壊れやすい貴方を護っていきたい、と比呂は思った。







 愛しています、千姫。






 秋の小雨に小刻みに震える少年を胸に、比呂は心の中でそっと、呟いていた。


 お疲れ様でした。いかかだったでしょうか。拙いお話ではありますが、あなたに少しでも気に入っていただけたら幸いです。

 ご意見、ご指摘などございましたらお気軽にどうぞ。

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